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中野翠 蘇るウエスト・サイド物語

文・中野翠(コラムニスト)

ロバート・ワイズ監督の映画『ウエスト・サイド物語』を観たのは、高校(女子校)に入りたての頃だった。

すでに評判になっていて、同じクラスのYさんは「七回」って言っていたかな、繰り返し観に行っていた。どうやら一人で足を運んでいるらしい。一人で映画を観に行くなんてエライなあ、カッコいいなあ、と尊敬。

日曜日。『ウエスト・サイド物語』を観るべく、クラスメイトと日比谷の映画館へ。言うまでもなく興奮。ニューヨークの片隅のウエスト・サイドを舞台に「ロミオとジュリエット」パターンの恋物語が、ミュージカル風に描かれてゆく。

ヒロインのマリア役のナタリー・ウッドは華奢な体で強いまなざし。かっこいい。私も髪の毛をのばしてパーマをかけよう―と決意。

ナタリー・ウッドの兄の役で「シャークス団」のトップを演じたのがジョージ・チャキリス。憂いを帯びた瞳が素敵! というわけで、日本では大変な人気だったが、私は「ジェット団」のリーダー役のタッカー・スミスという長身の俳優のほうに注目(私、昔から王道は避けるタイプ?)。「クール」という歌を歌い、指をパチパチ鳴らしながら新リーダーになる……というところにシビレたのか?

外階段の上と下でマリアとトニー(リチャード・ベイマー)が愛の言葉を歌声に乗せて交わしあう……というシーンがあり、私と友人は学校の階段の上と下で「マリーア、マリーア」「トニー、トニー」などと芝居がかったしぐさで声をかけあって、嬉しがっていた。

髪の毛を伸ばし、初めてのパーマもかけたのだが……ナタリー・ウッドというわけには全然いかず、ガッカリ。

当時は、ニューヨークと言ったらオードリー・ヘップバーンの『麗しのサブリナ』『シャレード』『ティファニーで朝食を』といった華やかでスマートな街をイメージしていたので、『ウエスト・サイド物語』を観た時は少しばかり驚いた。ニューヨークにもラクガキしたり物をこわしたりする「不良」もおおぜい、いるんだな、と。

『ウエスト・サイド物語』の音楽はレコードに収録されていたので、何度も聴いて、今でもパッと思い出せる。1番好きだったのは、やっぱり「アイ・フィール・プリティ」。

マリアがウエディングドレスを体に当てて、幸せいっぱいという風情で歌うシーン。そのあと、悲劇が訪れるだけに印象に残ったのだろう。

それから、半世紀超。あのスティーブン・スピルバーグ監督が、もはや古典と言ってもいい『ウエスト・サイド・ストーリー』を新作として蘇らせたのだ!

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