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重度障害の医師 覚悟の提言「障害者よ、甘えるな!」

文・原田雷太郎(介護老人保健施設「サンクス米山」施設長・医師)

 いまから10年前の2009年8月、私はⅠ型糖尿病から来る低血糖状態で意識を失くし、自宅の階段から転落。その衝撃で頸髄(けいずい)を損傷し、首から下のほとんどの機能を失いました。

 私の職業は医師(消化器内科医)です。医師である以上、この状況が絶望的なものであることは分かっていました。再び医師として臨床の場に出ることは不可能であり、それどころか、介護施設で生涯にわたって寝たきりの生活を送ることになる、と考えるのが一般的であることも理解していました。

 しかし私はそのセオリーに抗(あらが)い、リハビリに次ぐリハビリを重ね、どうにかいま、周囲の支えを借りながら、介護老人保健施設の施設長、つまり、医師としての仕事に従事しています。

 そんな、自分自身が障害者である――という立場から、障害者への苦言と提言を述べさせていただきたいと思います。

 まず申し上げたいことがあります。それは、「障害者よ、甘えるな!」ということ。

 いまの私は、自分で箸を持つこともできなければ、寝返りを打つこともできません。食事は介護スタッフに食べさせてもらい、就寝中は2時間おきに介護スタッフが褥瘡(じよくそう)予防のために姿勢を変えに来てくれます。排尿排便も自分の意思ですることはできず、人工肛門や膀胱瘻(ぼうこうろう)からバッグに溜まった排泄物をスタッフが捨ててくれます。

 つまり、食事、睡眠、排泄という、人間が生きていく上で欠くことのできない行為のほぼすべてを、人の手を借りなければできない状態なのです。

いい時代に障害者になった

 私に残されたのは、首から上の機能(見る、聴く、喋る、飲み込む、考える)ですが、じつはもう1つ、右手の親指と人差し指、中指の3本の指を、わずかに動かす機能が残されました。それでも障害のない人の目にはとても不自由に見えることでしょう。しかし、私から言わせれば、これほどラッキーなことはありません。負け惜しみではなく、本音なのです。

 きちんと考えることができ、それを口頭で伝えることができれば、的確な意思の疎通が可能です。私の周囲には私の要望を聞いてくれて、介助してくれるスタッフがいる。それだけでも有難いのに、さらに私はパソコンを使って3本の指で文章を書き、電動車いすで移動もできる。これはパソコンがあり、電動車いすがあるから可能なのであって、そうした時代に生まれたことが、とてつもなくラッキーなことなのです。

「いい時代に障害者になったものだ」

 私はよくそう思います。

 しかし、自分が障害者になったことで初めて見えてきたこともあります。それは、周囲に甘えすぎる障害者や、障害を利用して得をしようとする人の存在です。

 自分でできることも人にしてもらう、手伝ってもらって当たり前のような振る舞いをする、障害者だから優先しろと要求する……そんな人たちを見ると、同じ障害者として悲しくなります。

 私は障害を持つ前から自分の子どもたちに「謙虚であれ」と教えてきました。それはつねに自分自身にも言い聞かせてきたことでもあります。世の中のすべての人が、いまより少し謙虚になるだけで、世の中の争いごとの多くはなくなるだろうと私は考えます。世の中全体のことまでは無理としても、せめて私の身の回りでの争いごとをなくすには、私自身が謙虚でありたいと考えています。

 しかし、障害者の中にはこの「謙虚さ」を失ってしまった人が、少なくない数存在することが見えてきたのです。おそらく健康だった時の私の目は、そうした人たちを「可哀そうな人たちだ」という憐れみの思いで見ていたのでしょう。しかし、自分自身が同じ立場になったことで、それが違和感として浮き彫りになって見えてきたのです。

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