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2022年5月号|三人の卓子 「文藝春秋」読者の感想文

死への3ヶ月

「あなたの余命は、後3ヶ月くらいです」と、突然、目の前の医師に言われたらどう思うだろう。想像すらできないが、石原慎太郎氏はその言葉に直面した。思考は停止するだろう。その瞬間から、世界の見え方が変わるのだと想像する。

余命宣告を受けたあとの「死への道程」。普通の人には到底書けないだろうが、それを彼は書き上げた。

4月号には、石原慎太郎氏の遺稿『死への道程』が掲載された。さすが作家だと思った。

「『死』の予感とその肌触りは人間の信念や予感までを狂わせかねない」と書かれている。死の前の強い苦しみを軽減してくれ、とあるが、その気持ちはよくわかる気がする。「死はなんと憚る事なく奪うものだろうか」「出来得るものなれば私は私自身の死を私自身の手で慈しみながら死にたいものだ」。慎太郎氏が考えていた通りに最期を迎えられたことを祈りたい。

4男の延啓氏の文章で、慎太郎氏のそれまでの人生と生き方を知ることが出来る。それによれば、彼は自信家であったように思える。

当時、一橋大の学生という若さで芥川賞を受賞している。政治家でもあった。宗教や神に頼ることなく、自分が思ったことをどこまでも追求したのだろう。人生の一瞬一瞬を大事にして、自我を失うことを最後まで恐れた。

誰しも、自分は運が良かったし、幸せな人生だったという実感はなかなか持てない。だが父はそれを持てた、と延啓氏は言う。

自分の人生を振り返り、このように思える人は少ないだろう。私も思えないかもしれない。

何でも見てやろう、体験してやろう。その考えは分かるが、なかなか時間を持てないことを言い訳にしてしまう。しかし、飛び込んでいく勇気が必要なのだろう。(徳田光雄)

危機の“10年”

ロシアがウクライナに侵攻した2月24日は木曜日、国際政治学者カーの「危機の20年」を思い出した。1919~39年の中間年は29年、その年の10月24日は「暗黒の木曜日」といわれ、世界恐慌に突入した。同様に2012~32年の中間年は22年、プーチン大統領再登板と習国家主席就任から10年である。

この国のあしたを考えるのに、4月号の特集『ロシアより危険! 驕れる中国とつきあう法』は非常に役立った。

特集の歴史学者ハラリの『民主主義vs.権威主義』では、国際秩序はこわれやすく、権威主義の弱点やお互いに意見が異なることを認める姿勢も大事だと書かれ、米中対立の最前線にある日本は中国による台湾攻撃に備えよとある。

国連憲章の前文には、「寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平和及び安全を維持するために…」との文言も。

新型コロナウイルスによるパンデミックで寛容性が失われ、権威主義者ほど耐えられずに暴走している。

「情報の自由」「過ちの修正」「モチベーション」では権威主義より民主主義が優れていることを示している。

世界は今、新型感染症や気候変動など、出口の見えない事態に直面している。

日本はさらに、列島周辺の脅威に襲われており、第3次世界大戦にならないか、これからの10年を危惧する。

人間の愚かさを侮ってはならないし、故ホーキング博士も人類の危機として「核戦争」「地球温暖化」「人工知能」に警鐘を鳴らしていた。

(安達忠司)

考える場として

コロナ禍、大地震、ウクライナ、皇室問題など日本の窮地と歴史の大転換が奇しくも重なりました。日本の国民は、明治維新の時ほどには自らのことを考えない姿勢が身についてしまったのか、ほとんどの発言が、単なる刷り込みによる受け売りのように思えます。

保阪正康氏の連載『日本の地下水脈』を読み続けるうちに、今こそ自由とは、民主主義とは、国家とは、個人とは、を掘り下げて議論する場が必要と思うようになりました。

「ウクライナがかわいそう」「プーチンと習近平は悪い人」と言っているだけでは何も変わらない。そもそも、彼らとは平和の概念が違うことを認識しなくてはならないと思います。

100年後の文藝春秋の目次に「その時日本人は何を考えたか」とでも題される特集が並び、後世の人が読む姿が今から浮かびます。

我々が学ぶのは、自分で考えて判断できる力を身につけるためでしょう。意志を持ち、有事に自分で考えることができるのかということが、これからますます問われることになると思います。

大地震や国際的な戦争、原発被害を想像もしていなかった明治維新から戦後までの時間と、戦後から今日まで。同じだけの歳月が流れました。政府を単なる行政機関、お金を配る機関と思う人がどんどん増えている気がします。

今こそ、文藝春秋100周年特集として、国民に「考える場」を提供してほしいと思います。

(吉田祐光)

昭和のヒーロー

久しく若大将をテレビで見かける機会がなかったので、4月号のグラビア『日本の顔』に見る元気な様子に驚き、安心した。芸能生活62年になるという加山雄三氏の元気の源は何か、インタビュー『若大将85歳の「幸せだなぁ」』から垣間見られた気がした。

常にプラス思考であり、感謝の気持ちを含めて「幸せだなぁ」の言葉を忘れないことは、当たり前のように思えて、実は簡単にはできないことだと感じる。思っていても、実際に言葉にして表現することは難しい。そのような中、私とも世代的にも大きく異なりながらも、多くの世代に影響を与える氏の言動にはやはり力をもらう。年齢など関係なく、小さなことにくよくよしない生き様には、一種のすがすがしさや爽快感を感じる。

「絶対に他人のせいにしない」と楽観的で前向きだと語る背景には、辛い経験があったからかもしれないと語っていたが、やはり苦労した人間、痛みを経験した人間は、他人の気持ちに人一倍敏感のような気がしてならない。

世代を超えた昭和のヒーローとして、いつまでもパワフルでいてほしい。

(深堀勝義)

よみがえる記憶

4月特別号は文春100周年記念号の1冊とあって、今までより一段も二段も重みのある内容に、どうしてもペンを執りたくなった。

藤原正彦氏の『古風堂々』に登場した石原慎太郎さんは、「太陽の季節」で大変な有名人になり、拓殖大学に講演会に来てくださったことがあった。

スポーツ紙に「八百長相撲は絶対やめてくれ」と寄稿した“事件”の時は、さすがにビビった。スポーツ紙の記者をしていた私は、ちょうど大相撲担当だったのだ。柏戸に初めて挑戦する大鵬のことを最初に書いたのは、若き日の私だった。

阿部公彦氏の巻頭随筆『「あの日」の西村賢太さん』の中に、西村さんと田中英光氏の強い関連が取り上げられたのには正直びっくり。昔『Number』に書いた『小説「オリンポスの果実」の真実』を書き直すところだったから。これは励みになった。

それだけではない。『悠仁さま15歳の憂鬱』では、正田家の真っ白い邸宅が今なお文京区小日向の一角に堂々と構えられていることを知った。ほど近くには、拓大や旧ニトベ・ハウス(新渡戸稲造邸)跡、そして佐藤春夫旧宅が並んでいたり……。記事の数々に若き日の記憶がよみがえり、つい長く書き過ぎてしまいました。

(宮澤正幸)

知識のワクチン

4月号からの新連載、家森幸男氏の『世界最高の長寿食』をとても興味深く読みました。氏の研究過程と実績において、「100%高血圧になるラット」の開発、2年間かけての採尿器の開発を知り、研究職をされる方の無限とも思える発想力に感服します。

氏はラット研究では食べ物で脳卒中を予防し、寿命を延ばすことができるという事実を、そして、世界各地の人々からの採血、尿、血圧から分析し、健康寿命と食の科学的関係を明らかにしています。

必要な栄養素についての根拠と食材の例を、心筋梗塞や糖尿病など、予防の期待できる疾患を例にあげて説明されています。魚や大豆を中心にした適塩和食が分かりやすい目安であり、1日1食置き換えるだけでも効果があることの実証は、食にいい加減であった私にも、ヨーグルトを足すなどしながら実践できそうだと思わせてくれました。

これら研究成果を社会に還元し、研究に協力してくれた人々へ恩返ししたいという氏のお人柄には尊敬の思いです。

“知識のワクチン”をいただいたつもりで食からの健康管理を意識し、健康寿命を延ばしたいです。そして私も何らかを社会に還元できればと思います。次号もとても楽しみです。

(畑祐子)

★「三人の卓子」へのご投稿をお待ちします

創刊100周年を迎える月刊誌『文藝春秋』の名物コーナー「三人の卓子」。雑誌掲載記事に対する読者の方々のご意見、ご感想を掲載しています。その「三人の卓子」を今後、note上でも募集することにしました。

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規定 600字以内 住所・氏名・年齢・職業明記 次号の締切りは20日 掲載の方には記念品をお贈りします。
宛先 〒102-8008 千代田区紀尾井町3-23 文藝春秋編集部「三人の卓子」係

※電子メールでのご投稿の場合、添付ファイルはお避け下さい。アドレス mbunshun@bunshun.co.jp

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