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「夫婦別姓で社会はよくなるのか」自ら考え、姓を選択することが日本社会のレベルを上げる

1つのテーマで対論を読んで思考力を鍛えよう。このコラムのテーマは「夫婦別姓で社会はよくなるのか」です。
★対論を読む

文・青野慶久(サイボウズ社長)

 現在の日本では、日本人同士が結婚すると、夫婦のどちらかが改姓しなければなりません。改姓する割合は女性が96%、男性が4%と言われています。

 私は「青野慶久」として活動していますが、戸籍上の名前は「西端慶久」です。結婚の際に、妻の姓である「西端」に改姓しました。自分が改姓して痛感したのですが、保険証や免許証、銀行口座や株式の名義、パスポートなど、改姓の手続きには膨大な手間と費用がかかります。さらに慣れ親しんだ自分の姓が強制的に変更されることに精神的苦痛を感じる人もいます。現行の制度では、それがすべての夫婦に強いられているのです。

 そこで、私は2018年1月に、作花知志弁護士を代理人として「選択的夫婦別姓訴訟」を起こしました。希望する夫婦は、結婚前の姓を使い続けられるような制度を求めています。もちろん別姓を希望しない夫婦は、今までと同じようにすればいいのです。つまり私たちは姓を選択する権利を求めているのです。

 現在、戸籍上の姓を自分で選択できるケースは2つあります。1つは、離婚をして婚姻関係を解消したとき。旧姓に戻るのが原則ですが、届け出をすれば結婚時の姓を保つ選択も可能です。もう1つは、外国人と結婚・離婚するときです。

 しかし、日本人同士の結婚に限っては、どちらかの姓に統一することが義務づけられています。

 選択的夫婦別姓は何十年にもわたって議論されてきた問題です。ただ、女性が改姓を強いられるケースがほとんどであることから、従来は女性の権利活動の一環として位置づけられていました。

 では、改姓する割合が男女同数になればいいのでしょうか。この問題の根底には、すべての夫婦が改姓を強いられていることがあります。つまり選択することができないことこそが問題なのです。

 その点を理解してもらうため、私は、女性の精神面を重視してきた従来の活動とは視点を変えて、改姓のコスト面を強調することにしました。姓を選択できないことで、女性にも、男性にも、そして社会にも、大きな負担がかかっていることを示したわけです。

 結婚しても仕事では旧姓を使い続ける方が増えています。戸籍名と旧姓を使い分ける手間は、実は本人だけでなく周囲にも発生しています。例えば給与明細を戸籍名と旧姓で二重管理すれば、経理部や総務部の負担につながります。これらの煩雑さを嫌って、事実婚も増えています。しかし事実婚には、税金面の優遇制度が適用されないなど、法律婚と比べてデメリットが大きいという問題もあります。

 そうはいっても、現行法を変えるためには、国会議員に法律を制定してもらわなければいけません。そこで司法の側から国会を動かせないかと考えました。

 一連の訴訟では、作花弁護士の助言のもと、戸籍法に次の1文を追加することを目指しています。

「婚姻により氏を変えた者で婚姻の前に称していた氏を称しようとする者は、婚姻の年月日を届出に記載して、その旨を届け出なければならない。」

 これにより、民法を改正するという大きな社会的コスト(手間)を費やすことなく、戸籍法の変更だけで、選択的夫婦別姓を実現できます。

 東京地裁では請求を棄却されてしまいましたが、最高裁まで争うつもりです。それに私たちが提訴をしたことで、この問題が話題にのぼる機会が増えました。2019年7月の参議院選挙でも、選択的夫婦別姓や同性婚の是非など、多様性のあり方が争点になりました。自民党内の賛成派も増えていますし、外堀が埋まりつつあるという実感はあります。

 その一方で、まだまだだと感じる部分もあります。参議院選挙に際しての党首討論会で「選択的夫婦別姓に賛成なら挙手をする」よう求められ、安倍晋三首相だけが手を挙げませんでした。安倍首相は国会答弁で「国民的な議論の動向を踏まえながら慎重に対応する必要がある」と発言しています。さらに世論が盛り上がれば、現行法の改正は十分にあり得るのではないでしょうか。

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