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滝クリと結婚、大臣就任 小泉進次郎は総理の座に近づいたのか

文・常井健一(ノンフィクションライター)

 築城10年、落城1日。

 令和元年の小泉進次郎を一言で表現するのに、これほどふさわしい言葉はない。

 政界屈指の発信力と説得力を兼ね備えた持ち前の語り口は突然、「何を言っているのか意味不明」「ポエムの如く抽象的だ」と、世間から嘲笑の的にされた。彼が言いそうなフレーズを「大喜利」のように競い合う遊びも、ネット上で流行した。

 初当選から10年、新聞やテレビは小泉に対する批判報道を避けてきたが、海外メディアから発言の中身に具体性がない点を指摘されたとたん、掌を返すように、一斉に彼の能力に疑問符を付けた。

「自民党のプリンス」や「未来の総理」などと持て囃された政界のアイドルは、これまで「ポスト安倍」の筆頭候補だったはずが、党内の一部から安倍政権のリスクとも見なされるようになった――。

 これらはすべて、小泉が2019年9月11日に初入閣を果たしてから2週間も経たないうちに起こった現象である。「戦後男性最年少大臣」に吹き付ける風向きは、瞬く間に変わった。

 小泉は環境相就任直後、国連の温暖化対策サミットに出席するため、ニューヨークに1週間ほど滞在した。その間、同行記者らの前で数々の迷言を発した。

 到着直後、高級なステーキハウスに寄り、「ステーキは毎日でも食べたいね」とコメント。後日、牛肉と温室効果ガスの関連性を指摘されると、「毎日でも食べたいということは、毎日でも食べているというわけではないです」と応じた。

「気候変動という大きな問題は楽しく、クールで、セクシーでなければならない」という発言も波紋を呼んだ。こんどは「セクシー」の真意を記者団から問われ、「説明すること自体がセクシーじゃない」。石炭火力発電が地球温暖化の一因として批判を浴びる中、日本の対応策を海外メディアから迫られたら、小泉は言った。

「減らします」

――どうやって?

「……」

 6秒の沈黙の後、「私は先週大臣になったばかりだ。環境省のスタッフと議論している」と、返すのがやっとだった。

 米国滞在中、彼は同様の沈黙を繰り返した。出発前に見せた自信満々の表情は、帰国する頃には消え失せていた。

 筆者は、「政治家・小泉進次郎の10年」を眺めてきた物書きの1人だ。大型国政選挙のたびに全国を応援行脚する彼の背中を追いかけ、地方視察の密着取材も試みた。父・純一郎と編んだ著作もある。

 そして、小泉とは歳が近い。就職氷河期のあおりで大量のワーキングプアが生まれた世代だ。中年に差し掛かった今も、多くの友が不安定雇用と低賃金に喘ぐ。

 谷間に住まうロストジェネレーションの苦境に政治はどう向き合うのか――。10年前、筆者が小泉進次郎という男に着目した時の「初心」は現在も変わらない。

 第200回の国会で国民が初めて目にした困惑の表情は、筆者が垣間見てきた素顔そのものだった。小泉は偏差値エリートでも、父のような変人でもない。言うなれば、ごく普通の人、等身大の30代である。言動が立派に見えたのは自民党が選挙戦略の中心に据えてきたからだ。

 自民党は10年の参院選で、当選1回生の小泉をCMに起用し、看板弁士として全国を回らせた。その舞台で上手に踊ったことが好感度を高めるきっかけとなった。本人の努力は否定しないが、閣僚未経験にして「総理候補」とまで呼ばれたのは党の力だ。「宰相のドラマ」を演出してきた老舗政党が動かす舞台装置があったからこそ、等身大以上に見えた。

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