文在寅を追い詰める「検事総長の乱」 2022年大統領選挙“保守派勝利のキーマン”
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文在寅を追い詰める「検事総長の乱」 2022年大統領選挙“保守派勝利のキーマン”

政権支持率が急落する中、保守勢力の逆襲が始まった。黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)×趙甲濟(ジャーナリスト)

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▶︎文在寅政権の支持率が急激に低下している。12月にはこれまでで最低の36・7%を記録した
▶︎政策失敗やスキャンダルが続き支持率が低下している一方で、コロナが文在寅政権を助けた側面はある
▶︎2022年の大統領選では、保守派の巻き返しが可能かもしれない。与党系の候補として尹錫悦検事総長が立てば、保守逆転の可能性はある

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黒田氏(左)と趙氏(右)

黒田 今年5月で文在寅(ムンジェイン)政権は任期末期の5年目を迎えますが、日韓関係改善の糸口は見えず、国内における求心力も失われつつあります。昨年12月には支持率が急落し、これまでで最低の36.7%を記録。文政権は岩盤支持層である左派に中道(無党派層)を加え、40%を下回ることはないと言われてきましたから、かなり厳しくなりました。

 中道層に政権離れが出ているということですが、文政権の独善、独走、偽善には世論の批判が高まっているので、今年の韓国政治はいっそう対立が激化するでしょう。

黒田 趙さんは新聞記者時代は調査報道の草分けで知られ、朝鮮日報の「月刊朝鮮」では名編集長でした。近年は代表的な保守論客として活躍されています。そこで今日は、末期の文政権の展望や、韓国でなぜ反日ポピュリズムが猛威を振るうのか、そして保守派の再興は可能なのかを考えてみたいと思います。

日本では、韓国の右派=保守系と左派=革新系の違いは何かと聞かれますが、根本的な違いはやはり北朝鮮に対するスタンスでしょうか。

 それが一番大事ですね。韓国の憲法には「大韓民国は統一を指向し、自由民主的な基本秩序に即した平和的統一政策を樹立する」と明記されています。本来的には、北朝鮮を敵とみなして韓国が韓半島(朝鮮半島)で唯一の合法国家だと認めるのが保守で、否定するのが革新です。金正恩(キムジョンウン)委員長の「非核化詐欺劇」に騙され続けながらも北朝鮮との友好ムード作りに躍起になっている文政権は、実は憲法違反なのです。

黒田 そもそも、なぜ韓国の左翼・革新勢力は超軍事独裁、人権無視の北朝鮮と仲良くしたがるのでしょうか。自由、民主主義より南北統一という民族主義のせいですかね。

 かつては脱民族主義と脱資本主義を掲げて、北朝鮮に批判的な考えを持っていた民衆民主路線もありましたが、1980年代の学生運動の中で、金日成(キムイルソン)主義者の「主体(チュチェ)思想派」が現れ、彼らは国家として韓国より北朝鮮の方に正統性があるとする、いわば「ニセ民族主義」を掲げて、学生運動を主導しました。文政権の核心はその流れを受けているのです。

一方の保守派は政策以前の問題として、世論を惹きつけるビジョンがない。大韓民国の存立根拠は、早く自由統一し、奴隷状態にある2500万人の北朝鮮住民を解放することですが、いまや世の中が北朝鮮との対話、緊張緩和、和解、平和共存に向かってしまったため、国としての目標を見失っているのです。

そうした中で、近年、保守と革新を問わず日本を敵とみなす“反日種族主義”が醸成され、いまや保守派は「親日派」などと攻撃されるまでになってしまいました。これでは韓日関係の改善など望むべくもありません。

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検事総長を追い込んで支持率低下

黒田 議会まで支配し、何でも力ずくという、暴走気味の文政権に対する世論の不満や批判が支持率低下につながっているようですが、これはレームダック化が始まったと見ていいのでしょうか。

 現時点では議会の6割を与党が占めており、党と政府の間で内部分裂の気配はありませんから、レームダック化とまでは言えません。

黒田 ただ、大騒ぎになっている検事総長の追い出しは、検察と政権の対立になっています。権力内部の葛藤、分裂と言えないこともないのでは?

 そうですね。支持率低下の直近の背景には法相の秋美愛(チュミエ)氏のやり過ぎがある。彼女は検事総長の尹錫悦(ユンソギョル)氏を2カ月の停職処分に追い込みました。尹氏が世論調査で、野党系の次期大統領候補として人気が高いことについて「政治的中立性を欠いた」として処分したわけですが、本人の意向とは無関係の調査まで処分理由にするという強権ぶりに世論はあきれ、反発したのです。

黒田 元々、尹氏は朴槿恵(パククネ)前大統領の辞任につながった崔順実(チェスンシル)ゲートの特捜班長で、「権力におもねらない検察官」として2019年、文大統領から検事総長に任命されました。ところが就任後、所信に従い大統領側近で有力後継者だった曺国(チョグク)元法相の不正疑惑を追及し辞任に追い込んだ。さらに大統領のお友達を市長に当選させた選挙介入疑惑や原発廃棄をめぐる不正調査疑惑、巨額ファンド詐欺事件への関与など、政権の疑惑捜査にまで踏み込んだのです。当初は政権のイメージアップのために起用したものの、政権にとって都合の悪い存在になったために追い出しにかかったわけですね。

 かつては韓国で最も強力な権力機関といえば情報機関でしたが、いまは検察です。検察の大勢は尹氏支持ですから、この事態は政権のレームダック化の引き金になるかもしれません。

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尹氏を停職に追い込んだ秋法相

コロナが文政権を助けた

黒田 文政権への世論の失望には住宅問題も大きい。庶民や若者の味方だったはずなのに、住宅政策の失敗でマンション価格は高騰し、若い世代のマイホーム計画は崩壊してしまった。さらに与党系のソウル市長がセクハラ疑惑で自殺し、釜山市長もセクハラ辞任するなど、政権の道徳性にも疑問と批判が強くなっています。

最近、就任時の大統領演説を読み返しましたが、文大統領が最も強調していたのは国民の「和解」と「統合」です。「分裂と葛藤の政治を変え、特権と反則のない世の中を作る」と。ところが実際は逆で、仲間内重視の左翼特権社会になり、反対や異論には耳を傾けず、保守派や野党勢力との対立は深まるばかりです。

 私は、世界で最も多く嘘をついた指導者はトランプ氏、金正恩委員長、そして文大統領の3人だと思っています。彼の発言を真逆に解釈すれば、自ずとその真意が見えてくる。たとえば、尹氏を検事総長に任命した際、「生きた権力も捜査せよ」と激励しました。「生きた権力」とは政権を意味しますが、それを実行した尹氏は停職に追い込まれた。つまり、「生きた権力は捜査してはならない」という意味だったわけです。

黒田 就任演説でも、「青瓦台(大統領府)を出て官公庁が並ぶ光化門で執務する。ときには光化門広場で市民と大討論会をやりたい」と語りましたが、その約束は守られていません。

 朴前大統領は部下とコミュニケーションを取らない「不通(プルトン)政治」と揶揄されましたが、文大統領はそれ以下かもしれない。閣僚ともほとんど顔を合わせず、青瓦台に籠っていると聞きます。青瓦台は北岳山(プガクサン)という山のふもとに位置している。浮世から離れた山寺のような雰囲気ですが、庶民大統領がここに籠っていてはいけません。

黒田 これだけ不満が高まっているのに、朴槿恵追放の時のような大規模な「文在寅下ろし」が起きていないのは、コロナ禍のおかげでしょうか。一昨年の“曺国スキャンダル”の時のように大規模なデモが起こってもおかしくないのに、コロナ予防を理由にデモや集会は禁止されていますからね。とするとコロナが収束すれば逆に政権のレームダック化が加速するかもしれない(笑)。

 コロナが文政権を助けた面は確かにあります。昨年4月の総選挙では「共に民主党」が圧勝しましたが、あれはコロナのおかげでした。

黒田 政府は選挙直前になって様々な国民救済・支援金を打ち出し、予算をバラマキました。世論は大歓迎で、野党は政権の“国難キャンペーン”や“K防疫礼賛”もあって政権批判はやりにくかった。

 コロナについて言えば、海外と比べて感染者が抑えられていることで、「韓国政府はよく対処した」という声も聞かれますが、実はこれは文政権ではなく過去の保守政権の朴正熙(パクチョンヒ)・朴槿恵親子の功績ですよ。朴正熙政権が1977年に医療保険を基盤とした医療システムを作り上げ、2015年にMERS(中東呼吸器症候群)が起こった後、朴槿恵政権が疾病管理体制を強化した。これが功を奏したのですが、過去の保守政権を“積弊”といって非難、罵倒してきた文政権としては、「朴親子のおかげです」とは口が裂けても言えません。これは「背徳忘恩(恩知らず)」ですよ(笑)。

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次期大統領候補とも目される尹検事総長

恩恵を受けるのは金持ち

黒田 では今後、保守派は巻き返せるのか。文政権とその与党は昨年の総選挙まで、4つの選挙ですべて勝っています。これは韓国社会が政治的には左翼・革新系が主流になったということですね。この大きな社会的変化は、保守派には難題です。

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