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「キャッシュレス社会の未来」スマホ1台ですべて決済 低コスト化のメリットを最大限に享受せよ

1つのテーマで対論を読んで思考力を鍛えよう。このコラムのテーマは「キャッシュレス社会の未来」です。
★対論を読む

文・西村友作(対外経済貿易大学教授)

 わが国がキャッシュレス社会の実現に向け本格始動した2018年。経済産業省がキャッシュレス決済比率を高める目標を明記した「キャッシュレス・ビジョン」を公表し、様々な業種の民間企業が事業参入を果たすなど、官民挙げた取り組みが積極的になっている。このキャッシュレスにおいて、日本よりも早く、国家の隅々にまで普及している国が中国だ。

 中国で主流のキャッシュレスツールは、スマートフォン(スマホ)とQRコードを使うモバイル決済である。このサービスを提供するのが、電子商取引最大手であるアリババ系の「支付宝(アリペイ)」と、対話アプリ最大手であるテンセント系の「微信支付(ウィーチャットペイ)」。2社で市場シェアの約9割を占める。

 今では、無人コンビニなど「買う」場面、フードデリバリーなど「食べる」場面、シェア自転車など「移動する」場面、無人カラオケなど「遊ぶ」場面といった、あらゆるシーンで利用されるようになった。消費の現場以外でも、祝儀やお年玉の送金、宗教施設でのお布施など、様々な生活シーンでモバイル決済が使われ、財布を持たずにスマホ1台で生活できる社会が実現している。

 中国でキャッシュレス決済が急速に普及した要因には、日本とは異なる事情があった。中国のキャッシュレス決済で頭角を現したのがアリババだが、その背景に「脆弱な金融インフラ問題」があった。2000年代前半、クレジットカードが普及しておらずネット取引の安全性が問題になっていた。そこで、自社サイトにおける決済の利便性を高めることを目的に開発されたのがアリペイであった。

 一方、モバイル・インターネットの時代に突入すると、これまでのパソコン上でしかできなかったオンライン決済手段を携帯することが可能となった。この移動性に目をつけたテンセントは、中国人のコミュニケーションに不可欠となったウィーチャットに決済機能を組みこんだ。

 中国人の生活から急速に現金が消えた背景には「現金の使い勝手の悪さ」もあった。例えば、銀行口座自動振替が浸透しておらず、公共料金は銀行で長時間並んで支払う必要があった。大学の売店でも、現金処理で手間取るレジには長蛇の列ができた。最高額紙幣が100元で、高額の決済や携帯に不便だ。キャッシュレスの普及によって生活効率が断然高くなったのは間違いない。

 QRコードを用いたことによる店側の負担軽減も普及を後押しした。日本のクレジットカードやSuicaなどのICカードと同様に、中国でも「銀聯(ぎんれん)カード」と呼ばれるデビットカードが普及していた。だが、専用読み取り機を導入する必要がある上、手数料も高く、大手スーパーや百貨店など一部でしか使えなかった。

 一方QRコードの場合、機械の購入は必要なく、お店に貼り付けるだけで完了。導入コストはほぼ無料だ。手数料も通常0.38%と低く、翌営業日に清算されるため日々の資金繰りにも影響しない。このように、中小零細企業にまで普及させることを目的とした設計により、小さな売店や道端の露天商、屋台などでも導入が進み、短期間でキャッシュレス社会が実現したのである。日本でも、コスト問題によりクレジットカードの導入に二の足を踏む個人経営のお店にまでキャッシュレスを浸透させるには、QRコードを用いた低コスト化が欠かせないだろう。

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