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「友の敵は必ずしも敵ではない」船橋洋一 新世界地政学130

今、世界では何が起きているのか? ジャーナリストの船橋洋一さんが最新の国際情勢を読み解きます。

「友の敵は必ずしも敵ではない」

「もし敵の敵が友であるならば、友の敵もまた敵なのか?」

清華大学戦略安全保障研究センターの周波研究員(元人民解放軍上級大佐)は、そのように自問する。

彼はこう回答する。

「いや、必ずしもそうとは限らない……それが中国のロシア・ウクライナ戦争に対する考え方である」

ロシアは中国にとって戦略的パートナーである一方、中国はウクライナの最大の貿易相手である。中国はロシアのNATO拡大に関する「真っ当な懸念」を理解しつつ、すべての国の主権と領土は尊重されなければならないとの原則を支持する。

「この中国の中立の立場は双方が望むものではないだろうが、双方はそれを受け入れることができる」

中国は、国連総会のロシアのウクライナ侵略非難決議(今年3月2日)に棄権票を投じた。中国のほか、インド、南アフリカ、イラン、イラク、ベトナムなど35カ国が棄権した。その後の国連総会の人権理事会におけるロシアの資格停止決議(4月7日)ではブラジル、メキシコ、インドネシア、エジプト、サウジアラビアなども棄権し、棄権国は58カ国に上った。いずれの投票も賛成国が多数を占めたが、棄権組(abstain caucus)と呼ばれる国々の人口総計は世界人口の半分を占める。地域大国の多くが棄権組に回った。どうやら国際政治における新たな勢力が立ち現れつつあるようなのだ。

バイデン米大統領は、ロシアのウクライナ侵略をめぐる世界を巻き込んだ戦いを「民主主義と独裁主義、自由と抑圧、ルールに基づく秩序と武力に支配された秩序との間の戦い」と形容し、自由主義諸国(freedom-loving nations)の団結を訴えた。

しかし、インドのシブシャンカル・メノン元国家安全保障顧問は「世界の民主主義国が自由主義的国際秩序を敢然と守るため一致団結するなど、希望的観測に過ぎない。(中略)自由世界の結束どころか、この戦争はその混乱を示している」とそのような「両陣営」の見立てに異論を唱えている。

実際のところ、この戦争を民主主義陣営対専制主義陣営の戦いといった白黒に色分けするのはムリがある。棄権組というグレーゾーンが広範に広がっている。バイデン政権が昨年末にオンラインで開催した「民主主義サミット」に招待した111カ国・地域のうち、9カ国が国連総会でのロシア非難決議で棄権した。アンゴラ、アルメニア、インド、イラク、モンゴル、ナミビア、パキスタン、セネガル、南アフリカである。また、111カ国・地域のうち、人権理事会におけるロシアの資格停止決議で棄権したのは、ブラジル、インド、インドネシア、イラク、メキシコ、南アフリカ、ネパール、ガーナ、アンゴラ、ベリーズ、ボツワナ、カーボベルデ、ガイアナ、ケニアなど27カ国にもおよぶ。

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