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【連載】EXILEになれなくて #4|小林直己

第一幕 LDHに なぜ人は人生をかけようと思うのか?


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七場 太陽の雫

 2009年春、EXILEのメンバーに加わった。テレビで観ていたグループ。大観衆の集まるステージに立つ、そんな夢を与えてくれたグループの、メンバーの一員になった。その直後からアリーナ・ツアー「THE MONSTER」のリハーサルに取り組んだ。初となる、メンバーとして出演するEXILEのライブであり、45万人を動員するアリーナ・ツアー。慣れない体に不安を覚えながらも、それでも鞭打ち参加した。気づけば、あのEXILEメンバーと共にクリエーションができる喜びが先に立ち、とにかく前のめりにリハーサルに参加した。

 EXILEには、演出家がいない。メンバー自らが、ツアーのテーマやセットリストを決め、スタッフから提案された舞台装置や演出を当て込み、ライブを作り上げていく。メンバー同士が顔を突き合わせ、話し合って形を作っていくのだ。昔から、ショウやサーカスが好きな僕は、そんな雰囲気に味をしめ、とにかく思いつくものを遠慮なく、アイデアを提案していった。新たなフォーメーション、演出として空から登場したいなどの無茶振りや、曲間の長さに至るまで…。すると、時に笑われ、時に真剣に聞いてくれた。それはそうだ。ほんの1ヶ月前に加入した僕は、これまでのEXILEの活動を知らず、ライブの経験にも乏しく、客席とステージがどのようにコラボレーションし、ライブのうねりが作られていくのか、全くといっていいほどの無知だった。しかし、そんな僕の意見を軽んじるメンバーは誰もいなかった。のちに、オリジナルメンバーからは「あの時は、あまりに見当違いで何を言っているんだろう、と思ったこともあった」という言葉と共に、「それでも、意見を出して参加してくれるのはありがたかった。そこが直己の良いところだ」と笑顔で伝えてくれた。大きな器で受け入れてくれたことで、自然と、メンバーの輪の中に入れるようになったと感じている。集団生活の鉄則として、まずは、相手の意見に耳を傾け、YESで乗っかってみる。そうすることで会話にドライブ感が生まれ、自然と盛り上がってくる。これも、EXILEから学んだことだ。

 そんな風にして、「THE MONSTER」ツアーは無事に幕を開け、歓声と共に各地で受け入れられていった。新メンバーのお披露目となるこのツアーでは、昔からグループを応援してくれている人たちにも、新たなメンバーを受け入れてもらわなければならない。いわば、挨拶回りとなるツアーだ。試行錯誤し、その思いが伝わるよう、リハーサルでアイデアを練っていく。そうして、生まれた演出の一つが、センター・ステージだった。会場の中心に据えられた円形のステージは、客席に対し、メンバー全員が1列目に立つことができる。そうすることで、フォーメーションからは序列を感じさせることなく、誰もが先頭に立つ印象にする。これは、EXILEオリジナルメンバーが新世代を、会場の人たちに受け入れてもらうための工夫であり、同時に、決意の表れであった。そして、このツアーを通じて、EXILEの新しいあり方を示した。ライブ当日に、大歓声で迎えられると、メンバーは安堵の表情を浮かべた。

 しかし、そこで安住するのはEXILEではない。公演が終わるごとに集まり、前回の反省や改善点をミーティングし、リハーサルを行い、すぐに反映していった。なので、本番公演の合間を縫ってリハーサルが途切れなく続いていく。ここだけの話だが、めまぐるしいスケジュールと、日々の緊張から、このころの記憶があまり定かではない。

 夏の気配を感じ始め、試行錯誤を何度も繰り返す中、今ツアーの完成形が見え始めてきた頃。それは、ある日のリハーサル中、いつものスタジオでメンバーが集まり、トレーニングとライブの演出会議の合間にこんな話があった。

「天皇陛下 御即位20年をお祝いする国民祭典にて、奉祝曲をパフォーマンスするという話が来た」

 あまりに縁遠い話なので、理解が追いつかない。天皇陛下の御即位20年をお祝いする楽曲を、EXILEがパフォーマンスする、ということか。…いや、まだ、いまいちピンとこない。17歳でダンスを始め、8年。それなりにキャリアを積んで来たつもりだ。しかし、この春にEXILEに加入する前は、いわゆるストリートでダンスの技術を磨き、ときにステージとも言い難い粗末な場所でパフォーマンスをすることもあった。もちろん、その一つ一つに、誇りを持ち、真摯に取り組んで来たつもりだが、そこから、国民祭典で奉祝曲、というあまりの距離感に、無意識に思考を停止させられる。どのメンバーも、おそらくそれに近い感覚は生まれたのだろう。「とにかく、精一杯のパフォーマンスを心がけよう」。その日の話は終えた。

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