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【イベントレポート】文藝春秋カンファレンス 「改正電帳法総点検」

文藝春秋カンファレンス「改正電帳法総点検」が1月28日(金)、オンラインで開催された。今年1月に施行された改正電子帳簿保存法(電帳法)は電子取引データの書面保存が廃止されたが、納税者のほとんどが準備できていないことを踏まえて令和4年度税制改正大綱では、やむを得ない事情があると認められる場合などは、電子取引データを書面に出力して保存する方法も容認することが盛り込まれた。この宥恕期間は令和5年12月31日までとなるが、が、2企業が電帳法に対応しなければならないことに変わりはない。カンファレンスでは、専門家や企業の担当責任者らが、変わる税務業務に、いかに対応すべきかを語った。

基調講演
「改正電帳法大綱」の読み合わせと電帳法導入のロードマップ

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SKJ総合税理士事務所所長
税理士
袖山 喜久造氏

令和3年度の電子帳簿保存法の改正では、電子取引データ(電子データで授受された取引情報データ)の書面による保存方法が廃止された。改正電子帳簿保存法(電帳法)は今年1月に施行され、データで受領した請求書や領収書を紙に印刷して保存することができなくなった。

しかし、税務業務に大きな変化をもたらすことから、2023年12月31日までの「宥恕ゆうじょ」措置が講じられている。この宥恕について、国税庁職員OBで税理士の袖山喜久造氏は「税法で規定される宥恕規定は通常、自己の責に帰さない事情があった場合に適用される。今回の電子取引データの書面保存に係る宥恕規定は、やむを得ない事情がある場合に限定的に適用でき、「やむを得ない事情」とは、システム導入や社内規定整備が間に合わないケースも該当する。やむを得ない事情が解消されれば、速やかに電子保存に切り換えることが求められる」と指摘。「今後は電子取引(取引情報の授受を電子データで行う取引)が、ますます増えることが予想される。法律の電子保存義務に対応するためだけでなく、業務全体の電子化に向けて2年間の検討期間が与えられたと理解してほしい」と語った。

sodeyama先生①

電帳法は、各税法で保存が義務づけられた国税関係帳簿・書類をデータで保存することや電子取引による取引情報の保存義務などが規定された法律で1998年に施行された。紙で帳簿書類を保存する場合は税法規定に従うが、これらを電子データで保存したい場合は電帳法に規定された保存方法の要件を満たす必要がある。さらに、電子取引の請求書や領収書などは電帳法により保存要件が規定されている。

改正電帳法は、電子取引データのデータ保存を義務化する一方、帳簿書類をデータで保存する場合の要件を緩和、電子保存にあたって必要とされていた税務署長の事前承認を廃止した。また、帳簿については、訂正削除履歴が残るシステムなどを利用した帳簿の作成や保存がされる電子帳簿を「優良電子帳簿」として、税法で保存することが必要な全ての帳簿が優良電子帳簿の場合には、事前の届け出により税務調査で追徴が発生した場合の過少申告加算税を5%減免する優遇措置を与え、電子化を促している。

紙で受領した書類のスキャナ保存では、2人以上の体制での入力や、定期検査などの適正事務処理要件が廃止され、代わりにデータ改ざんなど不正があった場合の罰則を強化し、重加算税は通常の税率に10%加重に賦課されることとなる。

電子データがいつから存在し、その後は改ざんされていないことを証明するタイムスタンプの付与期限は、取得から概ね3営業日以内の「特に速やかに入力」を廃止し、概ね7営業日以内の「速やかに入力」、または約67日以内の「業務サイクル後、速やかに入力」のいずれかとした。ただし、後者を採用する場合はスキャナ保存の手順を定めた社内規程の整備が必要になる。

タイムスタンプの付与や検証は専用ソフトが必要だが、中小企業向けの電子化促進措置として、訂正・削除ができない、もしくは履歴が残るクラウドサービス(他社管理に限る)に保存することで、タイムスタンプの代わりにすることも認めた。

データ保存場所は納税地で出力できることが要件なのでクラウドサービスでの保存も問題ない。税務調査の際に書類を検索できる項目については、日付、金額、取引先名称の3項目に限定された。

袖山氏は「昨年末までは電帳法に駆け込み対応しようという企業から、電子化に関する相談を数多く受けたが、電子化の目的は、法対応のために電子取引の書類の保存方法を紙からデータに置き換えることではないはず。本来の電子化の目的は、業務プロセスに変革して自動化、効率化を図り、データをモニタリングできるようにして不正防止を担保するといったデジタルデータの活用(デジタルトランスフォーメーション)であるはずだ」と強調する。

コロナ禍では、社内業務の紙書類の持ち回り決裁がリモートワークの障害になった。書類を電子化してメール添付で送るやり方を採用するケースも増えたが、処理手順が整備されていないため、かえって書面より時間がかかり、支払いの遅れ、支払い漏れが起きるケースもあった――。こう指摘した袖山氏は、経費精算システムやワークフローシステムの導入によるデータで処理できる業務プロセスを整備すること、また紙書類はスキャナ保存してデータ化し、データで受領された書類データと一緒に文書管理システムで一元管理することが望ましいと提案した。

sodeyama先生②

電子取引データの書面保存は23年末までの宥恕措置があるが、23年10月にはインボイス制度導入も控えている。これは消費税の仕入税額控除の適用を受ける要件として、帳簿記載と適格請求書(インボイス)の保存を求めるものだ。インボイスは、書面でも電子データでも発行できるので、ここでも電子取引の電子データ保存方法を検討する必要が生じる。電子インボイスは標準フォーマット『Peppol』(ペポル)の仕様が今年中に公開される予定で、「ペポルを使った自動処理も検討すべき」と話す。

最後に袖山氏は、宥恕の2年間の前半で電子化対象業務、インボイス制度への対応について検討する。後半は、請求書、領収書、契約書のほか、見積書、発注書、納品書等の電子化を実施し、電子ワークフローを整備。さらに電子インボイスの発行と受領・データ処理の運用に取り組むというロードマップを提示。24年以降に向け、業務電子化の基盤を整備するよう訴えた。

課題解決講演
『おさらい!猶予ではなく宥恕な改正電帳法~電子取引と、スキャナ保存の今~』

新_松岡さんお写真

株式会社マネーフォワード
執行役員 経理本部 本部長
松岡 俊氏

写真_MF野永さん (2)

同社マネーフォワードビジネスカンパニー
クラウド経費本部
野永 裕希氏

2017年から電子帳簿保存法(電帳法)によるペーパーレス化を段階的に進め、21年1月の改正電帳法施行に合わせて電子データの保存義務への対応も始めたマネーフォワードの松岡俊氏と野永裕希氏が、経費精算業務を中心に同社の取り組みを紹介した。

マネフォ①

ペーパーレス化のカギとなるのは、紙の領収書や請求書などの書類をスキャンして電子化して保存するスキャナ保存だ。従来の電帳法は、スキャナ保存を始める前に税務署長から事前承認を得る必要があったほか、受領から書類に署名してスキャンするまでの入力期間が短く、上長が原本確認をするなど2人以上で入力する相互けん制、原本廃棄は定期検査でデータとの一致を確認してから――といった厳しい制約があった。

マネーフォワードは、旧電帳法下の2017年1月から領収書の電子保存を開始。当初は取得から3日以内に署名、スキャンする「特に速やかな方式」でスタートしたものの不備も多く、経理部門はスキャンのやり直し作業などでかえって負担が増えた。そこで同年10月に、入力期間に余裕をもたせる「業務処理サイクル方式」に変更。19年からは請求書も対象に含め、徐々にペーパーレス化を進めた。経理本部長の松岡氏は「コロナ前から対応を進めていたことで、経理業務はリモートワークで乗り切れている。苦労もあったが、残業時間の4割削減と業務の効率化ができ、リモートワークを可能にして事業継続リスクを減らすなど、十分な改善メリットを得られた」と述べた。

マネフォ②

旧電帳法で手間がかかる原因だった事前承認、相互けん制、定期検査などの要件は、改正電帳法で不要になり、「過去とは比べものにならないほど作業が楽になった」(松岡氏)。そこで、今年1月からグループ会社にも展開。不正防止のための社内規定の整備も、国税庁のウェブサイトにあるテンプレートを基に本社でひな形を作成し、グループ各社の社名を入れるだけで迅速に進んだ。松岡氏は「税務署のさじ加減で宥恕ゆうじょされている状況は好ましいものではなく、ツールも導入済みで宥恕される『やむを得ない理由』もなかったので電子保存対応を始めることにした」と語る。

スキャナ保存した原本については、①申請者が入力後に廃棄、②申請者入力後に経理部門が確認してから廃棄、③経理部門が確認して保管――の3通りの扱いが考えられる。内部統制のため、②の経理確認後の原本廃棄か、③の保管を選ぶ企業も多いが、同社は、社員の手間も考慮して①の申請者が原本を廃棄する方式をとっている。ただし、サンプルチェックを行うことを社内に周知し、月に数件の原本を取り寄せて確認を実施。松岡氏は「内部統制を図りつつ、効率化を進めたい」と話す。

23年10月のインボイス制度導入も、領収書が適格簡易請求書であるかを確認しなければならなくなるなど、経理業務に影響がある。野永氏は「インボイス制度はまだ情報が不十分。まずは今年から施行されていて詳しい内容も明らかになっている電帳法から対応していくべき」とした。

マネフォ③

 最後にペーパーレス化に向けて同社が提唱する「持たず、作らず、持ちこませず」の「非紙ひかみ3原則」を紹介。紛失や印字の薄れなどの劣化、紙のハンドリングの手間を考慮して紙の書類はスキャナ保存する「持たず」、電子で発行して電子で渡してコストを減らす「作らず」、電子受領が可能なサービスを優先利用するなど、できるだけ電子で受領する「持ちこませず」が大事だとした。野永氏は「今後は、オンライン税務調査への対応が必要になることも考えられる。システム導入だけでなく、従業員や取引先の理解と協力も得て全社一丸でペーパーレス化に取り組むことが重要」と訴えた。

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