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【赤坂太郎】菅首相「五輪強行開催」9月解散の野望

訪米の成果を自賛する政権。だが足元では学会弱体化と“女性問題”が……。/文・赤坂太郎

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五輪・パラが終了して“感動ムード”の余韻がまだ残る頃に、ワクチン確保が完了。そして9月末に自民党総裁としての任期が終了する前に解散――菅はそんな構図を思い描いている
▶「春解散」は沈静化したものの、会期末の重要法案の処理を見極めながら菅が五輪・パラ前の衆院解散を断行する可能性があるとの見方も、永田町ではくすぶる
▶保守派の代表格である安倍と、国家観なき菅。その2人の微妙な距離感が、国論を2分するテーマに火をつけた

「異様なほどのこだわり」

4月17日未明の日米首脳会談。「台湾海峡の平和と安定の重要性」を52年ぶりに共同声明に明記したことを称賛する日本メディアとは対照的に、米メディアの扱いは極めて地味だった。会談直前、米インディアナポリスで8人が死亡、7人が負傷する銃撃事件が発生し、容疑者は警察官が到着する前に現場で自殺。米国のニュースはこの事件一色となり、日米首脳会談のニュースは押しやられた。

「バイデン大統領が最初の首脳会談の相手に選んだのは日本」と首相の菅義偉は喧伝し、強固な日米同盟を掲げて軍事的な行動を活発化させる中国をけん制できたと会談の成果を強調する。だが、菅が実現にこだわったバイデンとの夕食会は最後まで実現しなかった。コロナ下での会食に米側が難色を示したことが主な理由だったが、日本側の期待とは裏腹にバイデンの菅への関心が今一つだったからだとも言える。日米首脳の個別会談でも、バイデンは用意されたハンバーガーには一切手をつけず、会談中は医療用のN95マスクをしっかりつける用心ぶりを見せた。

一方、国内向けに菅がアピールしたかったのは、ワクチンの供給拡大だった。首脳会談の4日前、日本では医療関係者に続き、高齢者向けのワクチン接種が始まった。コロナ対策の切り札ともいえるワクチン接種だが、実際に日本政府が確保できた量は全国民まで行き届くほどの量はない。菅は米国滞在中、米製薬大手のファイザーCEOブーラと電話会談し、日本の16歳以上の全員が接種可能なワクチンを9月までに確保する約束をとりつけた。ワクチン担当相の河野太郎も菅と歩調を合わせ、「9月末までに全員が接種できる分量を供給できる」と表明した。

だが菅が帰国するやいなや、政調会長の下村博文がこれに水を差した。党会合で「残念ながら自治体によっては医療関係者の協力が足らず、65歳以上に限定しても、今年いっぱいか、場合によっては来年までかかるのではないか。すべての国民が接種できるには、来年春くらいまでかかるところもあるかもしれない」と強調したのだ。

全国民への早期のワクチン接種をアピールしたい菅を牽制した格好だ。あえてワクチンの供給の遅れの可能性を蒸し返した下村の意図について、細田派幹部は「次の総裁選を見越した一手だ」と指摘する。下村は新著『GDW興国論』(飛鳥新社)で、政権構想ともいうべき内容を打ち出している。前首相の安倍晋三との対談も交えるなど、次期総裁選に名乗りを上げる構えをみせる。

菅は東京五輪・パラリンピックの強行開催に、「異様なほどのこだわり」(党幹部)を持つ。五輪・パラが終了して“感動ムード”の余韻がまだ残る頃に、ワクチン確保が完了。そして9月末に自民党総裁としての任期が終了する前に解散――菅はそんな構図を思い描いているはずだ。「五輪・パラ終了」「ワクチン確保完了」が交錯する「9月」が、政局のキーワードになってきた。

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下村政調会長

「春解散」を煽った意図

「総理を支えるため、我々が中心的な役割を担っていきますよ」

「ご協力に感謝します」

首脳会談の10日前の4月6日。菅と財務相の麻生太郎は首相官邸で昼食を交えながら約1時間会談した。バイデンを相手に、麻生が菅への外交的なアドバイスをするのが会談の表向きの理由だった。だが、関係者によると、ワクチンや衆院解散のタイミングも話題になったという。「負けると分かっている犬の遠吠えでしかないですから」と話す麻生に、菅は黙ってうなずいた。麻生が言う「負け犬」。それは内閣不信任決議案を出して菅政権を追い込むと勇んだ立憲民主党を指していた。

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