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「夫婦別姓で社会はよくなるのか」夫婦別姓は家族の形を変える

1つのテーマで対論を読んで思考力を鍛えよう。このコラムのテーマは「夫婦別姓で社会はよくなるのか」です。
★対論を読む

文・八木秀次(麗澤大学経済学部教授)

 結婚すると夫婦が同じ姓を名乗るとする民法750条について改正を求める主張がある。主張には3種類ある。

① 結婚により夫婦の一方が姓を変更するのは様々な手続きが必要で、仕事上の連続性もなくなる。
②結婚により一方の家名がなくなり、存続できなくなる。
③姓を変えることで自分が失われ、否定されたような気がする。

 別姓の主張は①を出発としており、結婚した女性が職業上、旧姓を使い続けたいということから始まった。1988年、国立大学の女性教授が職場で旧姓を使用できないということから、勤務先を提訴した。裁判は98年、高裁で和解が成立し、女性教授は職場で旧姓を使用できるようになった。要するに職場の慣行や労働法制などの見直しの問題で、民法の改正という大きな問題ではなかった。今日では職場などでの旧姓の通称使用が普及している。現在ではパスポートでも旧姓の併記が可能だ。弁護士も公認会計士も旧姓で登録できる。手続きの煩雑さも民法の問題ではない。②は子供が娘1人しかいないといった場合に強く主張されたが、さらに次の世代(孫)を養子にして家名を継がせばよく、どのみち孫が複数生まれなければ家名の継承者はいなくなる。別姓での家名存続は不可能だ。③は姓が変わることで自分のアイデンティティーを喪失した気持ちになるというものだ。これも日常的には旧姓を通称使用すれば、解決される。残りは戸籍をどうするのかという問題だ。

 夫婦同姓の制度は戸籍制度と一体だ。結婚すると夫婦で新しい戸籍をつくる。子供が生まれたり、養子を迎えると、その戸籍に記載される。夫婦とその間に生まれた子供という「家族」が1つの戸籍に記載される。その家族の共通の呼称が姓(法律上は氏)だ。別姓を認めると1つの戸籍に2つの姓が存在することになる。共通の姓は存在しない。家族の呼称を持たない家族が存在することになる。

 2015年12月16日、最高裁大法廷は姓(氏)の性質について「夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称するとすることにより、社会の構成要素である家族の呼称としての意義がある」と、姓が家族の呼称であるとした。世界人権宣言や国連国際人権規約も採用する「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位である」との認識を示し、姓は「個人の呼称の一部」であり、そのような性質を持つ「氏をその個人の属する集団を想起させるものとして1つに定めることにも合理性がある」と判断した。

 そして「家族を構成する個人が、同一の氏を称することにより家族という1つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できる」とし、「夫婦同氏制の下においては、子の立場として、いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる」と、夫婦・親子が同じ姓を称することで家族の共同体意識が醸成されるとして、その効果を肯定的に評価した。なお、同判決は民法750条が「婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっている」とし、改姓に伴う不利益は「通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得る」ともした。

 最高裁判決がいうように姓が家族の呼称とすれば、夫婦が別姓になれば、姓は家族の呼称ではなくなる。家族の呼称としての姓は廃止される。当然、これは同姓の家族にも及ぶ。制度として家族の呼称である姓が廃止されるのだから、同姓夫婦・親子にも家族の呼称はなく、氏名の一部が共通しているに過ぎないことになる。同姓にしたい人は同姓に、別姓にしたい人は別姓に、すなわち選択制にしたらよいとの主張もある。しかし、選択制であれ、制度として別姓を認めると氏名の性格が根本的に変わる。氏名は、現在は家族の呼称(姓・氏)に個人の呼称(名)を加えたものだが、別姓を認めると家族の呼称を持たない存在を認めることになり、氏名は純然たる個人の呼称となる。これは国民全体の問題だ。

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