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なぜ今、各国指導者の中で安倍政権の支持率だけ下がっているのか|三浦瑠麗

★前回の記事はこちら。
※本連載は第28回です。最初から読む方はこちら。

 前回は、日本における寄付文化と新型コロナウイルスに関わる給付金の使い道について取り上げました。今回は、新型コロナウイルスをめぐり、各国の指導者の支持率がうなぎのぼりになる一方で、なぜ安倍政権だけが支持率が低迷し、さらに下がってきているのかを考えたいと思います。

 安倍政権の支持率は、毎日新聞の最新世論調査で支持率27%、不支持率64%と報じられ、同調査でみると、緊急事態宣言発出時点から17ポイントも支持率が落ち込みました。朝日新聞の世論調査でも同様の傾向が見られており、支持率が29%、不支持率が52%となっています。

 新型コロナウイルスへの対応をめぐる安倍政権の評価を聞く設問では57%が評価しないとし、評価したのは30%でした。弊社(山猫総合研究所)が一般財団法人創発プラットフォームと共同で行ったインターネットを用いた「新型コロナウイルスに関する緊急意識調査」(4月27~28日に全国の18歳以上の男女2098人の回答を収集、株式会社日経リサーチに実施を委託)でも、評価するが31%、評価しないが62%と、さらに厳しい結果が出ています。

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 日本で暮らしている限り、これだけメディアで健康不安が煽られて社会不安が高じ、景気が悪化している以上、支持率が低下しても当然と思う人も多いでしょう。そのうえ、昨年から桜を見る会をめぐるスキャンダルが報道され、また今回は国家公務員法等改正案に含まれる検察庁法の改正の是非をめぐって世論が大きく盛り上がりました。芸能人を含め、反対意見が次々と表明され、その後黒川前検事長の賭けマージャンの文春報道もあって、支持率が低下する要素はふんだんにあるからです。

 しかし、海外からするとそうは見えません。国際的に見ると安倍政権の支持率低下ぶりは異様だからです。

 例をあげましょう。ニューヨーク州は新型コロナウイルスで多数の死者を出していますが、アンドリュー・クオモ州知事の支持率は約8割とうなぎのぼりです。民主党のホープの一人として期待を集めるクオモ州知事だけではありません。米国では失業率が戦後最悪の記録的なレベルに上っていますが、5月時点でのトランプ政権の支持率は各社世論調査を平均して45%。ギャラップ社の最新の世論調査では、49%が大統領の施政を評価しました。
新型コロナウイルスで多数の死者を出している欧州でも同じことが言えます。早々と医療崩壊して多くの死者を出したイタリアでは、「同盟」のサルヴィーニ氏や北部の州知事とのあいだで泥沼の抗争が繰り広げられ、コンテ首相の支持率が3月には71%に急上昇しています。一時は求心力を失いかけていたドイツのメルケル首相も、新型コロナウイルス危機を通じて支持率が3月末には79%に急伸し、完全なカムバックを果たしました。黄色いベストデモをはじめ国民の経済不安が高いフランスでは、支持率が低迷していたマクロン大統領の支持率が一時期51%にまで上昇しました。

 アジアに目を向けると、勢いが陰りつつあったインドのモディ首相の支持率は80~90%台に躍進し、韓国の文在寅大統領の5月時点での支持率は71%と就任4年目の支持率としては過去最高です。

 お分かりのように、各政権は新型コロナウイルス危機への対応に成功した国もあれば、失敗した国もあります。また、それぞれにスキャンダルや不人気となる理由を抱えている。それでも一様に支持率が上昇しているということは、新型コロナウイルス危機のようなときには、よほどのことがない限り指導者に支持が集まる、ということです。下がっているのは、雇用維持を重視して経済活動継続路線を取り、知事らと激しく対立しているブラジルのボルソナロ大統領くらいです。それでも、ボルソナロ大統領にはコア支持層がいるので、支持率は39%とほどほどに底堅い。

 翻って、長期安定していたはずの安倍政権の支持率は、結果的に死者数を比較的抑えられているにもかかわらずダダ下がりです。海外のメディアは、各国と比べて死者数を低いレベルに抑え込んだ日本で、なぜ政権支持率が下がっているのか、とこぞってこの問題を取り上げ、様々な識者に話を聞いています。しかし、残念なことに、そこで示された理由は物事の一面しかとらえていません。

 例えば、一つの典型的な解説は、安倍政権はこれまで強力なリーダーシップを取ってきたが、新型コロナウイルス対応で弱さや優柔不断さが露呈してしまった、というもの。加えて、長期政権に飽きが来ているという理由もよく語られます。

 事象を説明するときは、「必然」を説明できなければなりません。ある指導者の支持が下がっているとき、リーダーシップを問題にするのは、ある意味「同語反復」です。支持率が低下している=リーダーシップが問われているということをオウム返しに繰り返しているにすぎないからです。そんなことを言ってしまえば、消費が減退しているときに、消費者の購買意欲が下がったからと説明するようなものです。

 確かに、安倍政権は華々しいリーダーシップを振るっておらず、正面切って経済再開のかじ取りをしてはいません。経済回復のための長期戦略も、さらにいえば緊急事態宣言によるダメージの試算も見えてこない。リスクヘッジや責任回避のためなのか、政府の専門家会議の決定にただ従っているかのように見えてしまっています。

 それでも、安倍政権のリーダーシップの低下は、結果論的な意味では正しいにしても各国比較の説明には適していません。日本は医療崩壊が起きていないし、ウイルスによる死者も最低限にとどまっている。経済における損失は甚大なものですが、かといって各国を上回る損害を現時点で出しているわけでもありません。

 では、過去に例を見ないほど多くの反対意見が集まった検察庁法改正案が支持率低下の主要な原因なのでしょうか。安倍政権は、過去にモリカケ問題で支持率が20%台にまで下がったこともあります。政治不信は支持率低下に大きく寄与します。ただし、繰り返しますが、それだけでは各国の政権と異なり新型コロナウイルスによって支持率が上昇していない理由を説明できないのです。星野源さんの動画を広報動画にしてしまったこと、マスク配布が不人気だったこと、いずれをとっても、過去にみんなが知らなかった安倍さんの真実が出てきたわけではない。そもそも安倍首相は、共感能力やコミュニケーション能力が高いリーダーとみなされてきたわけではないからです。

 比較的説明能力の高い「不満」の説明は、経済不安に対処する対策の遅さです。もともと消費税増税で消費が反動で落ち込んでいたところへ新型コロナウイルス危機が直撃し、自粛と緊急事態宣言によって日本経済は一時的に麻痺しています。民間で出されている4-6月期の日本のGDP予測は、年率換算でマイナス30%台と看過できないレベルに達しつつあります。一方で、各国と比べて経済支援が受け手に届くまでの時間が長いことが指摘されており、とりわけ雇用調整助成金の支給スピードの遅さが問題視されています。

 しかし、それも支持率を下げる理由にはなりますが、各国のような支持率上昇効果が出なかったことの説明にはなりません。

 その理由は、逆説的ですが、日本で感染爆発が起きていないから。そして、そもそも自民党や安倍政権に寄せられた支持自体がふわっとした支持にすぎなかったからです。次回は、その具体的な理由の中身について解説したいと思います。

★次週に続く。

■三浦瑠麗(みうら・るり)
1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、現在は山猫総合研究所代表。著書に『日本に絶望している人のための政治入門』『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『21世紀の戦争と平和』(新潮社)などがある。
※本連載は、毎週月曜日に配信します。
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