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橋下徹と舛添要一が徹底討論!日本と韓国「対決か、協調か」

韓国の大法院(最高裁)の判決をきっかけに史上最悪に落ち込んだ日韓関係。元徴用工への対応を巡る議論はまったくかみ合わず、解決の糸口は見えない。そもそも、元徴用工たちに“誰が”賠償金を払うべきなのか。互いに政治の世界も経験した理論派論客2人が導き出した答えとは?/橋下徹(元大阪市長・弁護士)×舛添要一(前東京都知事・国際政治学者)

戦後の歴史教育がもたらしたもの

舛添 私は30年ほど前から国際政治学者として韓国に興味を持ち、足繁く通ってきました。国会議員時代は日韓議員連盟の幹事も務めました。そうした経験も踏まえて戦後の日韓関係を考えると、まさに史上最悪の状態です。昨年10月のいわゆる「徴用工判決」を発端として、今年8月には日本政府が韓国を貿易管理上の優遇措置の対象となる「ホワイト国」からの除外を決定。それを受けて韓国政府はGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄を通告し、歩み寄りの糸口は見えません。

日韓双方がお互いに罵りあうような状況で、いわゆる“応援団”的な運動体やメディアがそれに拍車をかけている。かつて金大中大統領は、左派ではあっても日本への深い理解がありました。それがここまで認識のギャップが拡大したことに、驚きを禁じえません。

橋下 身も蓋もない話かもしれませんが、日本でここまで問題が炎上したのは、戦後の「歴史教育」が大きく影響していると思います。僕や舛添さんの世代は、幼い頃から「戦争中、日本は韓国に対して酷いことをやった」という自虐史観を徹底的に叩き込まれてきた。それが大人になるにつれ、日韓併合や竹島について現実を知るようになり、「韓国の主張は何かおかしいぞ」という気持ちになってくる。日本国民としてのプライドが高まる中で、韓国に対して感情的なものが鬱積してきた。それが徴用工判決によって一気に爆発したというのが、現在の状況だと思います。

舛添 だからこそ今、教育も含めて、日韓両国の国民が冷静に日韓の歴史を見直すことが求められています。そこで今日は、日韓関係悪化の発端となった「徴用工問題」について主に取り上げ、問題解決の糸口を議論していきたいと思っています。

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舛添要一氏

日本の最高裁も「個人の請求権」を認めた

舛添 まずは徴用工問題を振り返っておきましょう。

盧武鉉政権時代の2005年頃から、第2次大戦中に強制労働させられた朝鮮半島出身の元徴用工たちが複数の日本企業を相手に損害賠償を求める訴訟を起こす動きが出始めます。ただ、1965年の日韓基本条約・日韓請求権協定で、日本側は経済協力金という名目で韓国に対して無償3億ドル、有償2億ドルの融資をおこない、その代わり韓国側は対日請求権を一切放棄するという形で決着がついたはずでした。実際、韓国の地裁や高裁では日本企業の賠償責任を否定する判決が出ていました。

ところが昨年10月、韓国の大法院(最高裁)が日本製鉄(旧・新日鐵住金)に対して、原告1人当たり1億ウォン(約1,000万円)の支払いを命じたのです。大法院で元徴用工の請求権を認める判決が出たのは初めてのことで、両国に衝撃が走りました。

橋下 徴用工判決が出た際、日本政府や日本の識者たちが一斉に持ち出したのが、まさにこの日韓請求権協定でした。韓国国民の請求に関しては「完全かつ最終的に解決した」という文言を挙げて、韓国を非難した。要するに、「あれでもう全部終わったじゃないか。なのに、まだ支払えというのか。厚かましい」という論理です。

たしかに僕も日本側が韓国国民に補償する必要はないと考えます。しかし、元徴用工の「個人請求権」までを完全否定するのは大きな間違いです。

なぜかと言えば、法的な論理では、政府どうしの約束事によって、政府とは法的には別主体である国民個人の請求権を消滅させることはできないからです。だって、日本とアメリカの両政府が僕の知らないところで勝手に話し合いをして「橋下の権利をなくすことにする」なんて決められたら、たまったものじゃないですよね。元徴用工の方々が裁判を起こして、自身の請求権を主張するというのは、ある意味、当然の権利なのです。つまり日韓請求権協定は、基本的には政府同士の請求権を消滅させるものでした。

舛添 1991年8月の参議院予算委員会や、1993年5月の衆議院予算委員会でも、当時の外務省条約局長が、韓国国民の個人の請求権については「存在し得るもの」だとし、消滅させるものではないという主旨の答弁をおこなっています。

もう1つ、参考になるのが2007年の「西松建設裁判」です。これは中国人の元徴用工が、過去の強制労働について損害賠償請求をおこしたものです。ただ、1972年の日中共同声明で中国は「中国政府は両国の友好のために戦争賠償請求権を放棄する」と明言していた。そのため最高裁は請求については棄却したものの、強制連行の事実や、元徴用工が精神的・肉体的な苦痛を受けていたという事実は認めました。それを受けて2009年10月23日に和解が成立。西松建設が被害者に謝罪し、2億5,000万円を補償などのために社団法人に寄託しています。

橋下 当時、最高裁は「和解的条約があっても被害国民の個人的請求権は消滅しないし、時効消滅もしない。ただし民事裁判では権利を実行できないので、裁判外において被害国民を救済するように関係当事者は努力すべき」という判決を出していますね。つまり個人の請求権の存在については認めるけれども、民事裁判での実行は不可能というのが日本の司法の論理です。

そして今回、韓国側が巧みだったのは、韓国の裁判所に日本政府ではなく日本企業を訴えたことです。国際法には「主権免除」という法的理屈があり、これは自国の裁判所において外国の政府を訴えることは出来ないというものです。元徴用工たちは日本企業を訴えることでそこをうまくすり抜け、勝訴判決を勝ち取ったわけです。

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橋下徹氏

「自国政府が自国民に補償する」

橋下 そもそもなぜ徴用工問題がここまで拗(こじ)れたかというと、日韓基本条約と日韓請求権協定の手続きに問題があったと言えます。弁護士的な視点から言えば、このような協定を結ぶときは両政府と両国民を入れた「4者和解」をすべきです。国民個人の権利の清算ができるのは、その国民個人だからです。

しかし損害を被った国民は莫大な人数が存在するので、一人一人を当事者として参加させるわけにはいきません。そこで双方の政府が国民を代表する形で、彼らの権利を清算したため、当事者不在で事が進んでしまった。さらに政府は、難しい問題については「曖昧なままにして棚上げする」という外交テクニックで乗り切ってしまったのです。そこの部分を現在、韓国が蒸し返してきている形となっています。

舛添 曖昧にされたものの1つは、日本からの経済協力金の使途ですね。日本政府は「無償の3億ドルについては全て、徴用工など個人からの請求への支払いに充てるべきだ」と韓国政府に主張していました。当時の大統領は朴正熙でしたが、3億ドルのごく一部を補償に充てたものの、残りの95%は国内のインフラ整備などに使ってしまった。そのおかげで韓国は「漢江の奇跡」と呼ばれる経済成長を実現できたのですが……。

橋下 日本政府は、韓国政府が被害を受けた韓国国民にお金を十分に行き渡らせる枠組みをつくるところまで確認すべきだったのに、韓国国民へのお金の配分については韓国政府に丸投げしてしまった。4者和解の原則論からすると、この詰めが甘かったですね。

舛添 そこでお金を受け取ることが出来なかった人々が今、声をあげているという状況になっている。日本からしたら「ちゃんと手当てをあげたのに、それをきちんと配分しなかった韓国政府が悪い。だから私たちは関係ないよ」という考えになるのですが。

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橋下 もう1つのミスは、日本政府が韓国政府に渡したお金が「何に対するお金なのか」を曖昧にしたことです。日本は韓国と戦争をしたわけでもないし、日韓併合は合法という立場をとっています。したがって日本の植民地支配による賠償金は請求権協定の対象外になっている。韓国大法院の徴用工判決はそこをうまく突いて、「日本の違法な植民地統治についての責任はまだ清算されていない」という論理を展開しているのです。

舛添 ここまでのポイントを要約すると、今回の韓国大法院の判決の要点は、「元徴用工たちの日本企業への請求権を認めた」ということです。そして日本の最高裁も「個人の請求権については消滅しないことを認める」という立場を過去に示している。ですから個人請求権についての考えは日韓で一致しているのです。そこの部分を大前提とした上で、話を進めていくべきです。

橋下 この件に関しては「韓国の司法がおかしい」という指摘もありますが、韓国も三権分立が確立されている民主国家である以上、その司法の判断は尊重せざるを得ません。向こうのメンツは立てつつも、日本側には実損が出ない解決策を模索していくのが国家としての正しい対応でしょう。

舛添 おっしゃる通りで、韓国の司法判断を受け入れた上で、誰がどうやって補償をおこなうのかということを議論していかなければなりません。結論から先に言うと、元徴用工たちの請求先は「日本政府・企業」ではなく、「韓国政府」であるべきなんです。それこそが、日韓請求権協定の主旨でした。

橋下 その通り。しかしこの点については韓国人のみならず、日本人も大半が正しく理解できていない。なぜなら、世界の先進国と比べても日本人は「戦時被害の国民補償」についての意識が限りなく低いからです。

戦争によって民間人が受けた被害――例えば空襲で家を焼かれた、命を落としたとか――に対する補償を自国の政府に求める権利は、多くの先進国で認められています。ところが日本は1945年の敗戦によって1億全国民総懺悔の状態になり、「戦争で国民皆が被害を受けたんだから、その被害については皆で我慢しなければならない」という受忍論に帰着した。そのため、「補償意識」を心の奥底に押し込めてしまったのです。

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舛添 軍人の補償については国際法が整えられていますが、民間人の補償は日本では聞きませんね。

橋下 原爆、シベリア抑留、沖縄戦の3つは例外で、民間人への補償が認められてきました。しかし本来は、被害を被った国民は全て補償を受ける権利を持たなければなりません。ただし、純粋な加害者(相手国)が補償を行うのではなく、被害国(自国)が被害を受けた自国民に補償を行うことが原則になります。

戦勝国の国民についても、戦争の被害については日本が補償するのではなく、戦勝国である自国政府が補償をすることになっています。

例えばアメリカでは1999年、第2次世界大戦中の強制労働について、元米兵が日本政府を訴えるという動きが盛り上がったことがありました。その流れでカリフォルニア州が、個人の補償を日本側に請求できるようにする州法をつくったんです。しかし、アメリカの連邦裁判所は「待った」をかけ、州法を憲法違反とするなどして、個人補償を否定しました。

補償法は武力行使のストッパーになる

橋下 「自国政府が自国民に補償する」という原理原則は、残念ながら日韓両国民にしっかり浸透していない状態です。徴用工問題解決の糸口の1つは、日韓両政府がこの原理原則を「実践」していくことです。つまり、日韓両国で「戦時被害についての一般補償法」を成立させ、過去に遡って、自国民に対する補償をやっていく。そうすることで、日韓両国民にこの考えを共有させていくしかないでしょう。

舛添 ただ、補償法をつくるとなると、霞が関は大反対するでしょうね。国家が賠償をおこなうとなると、財源と法律の面で、財務省と法務省が絡んでくる。私が厚労大臣の時も様々な補償問題を片付けようとしたのですが、主にその2省との戦いになりましたからね。うちの手足は三流官庁だったから、法律論争をやると向こうが強すぎて必ず負けてしまった(笑)。

橋下 でもね、舛添さん。戦時被害の一般補償法というのは、安全保障の面でも絶対に必要になってくるんですよ。アメリカが世界の警察の役割を降りると明言した以上、日本はこれから自分たちの防衛力を高めていかなくてはならない。そうなると国民への一般補償法は“車の両輪”としてますます必要になってくるんです。補償法があれば、いざ武力の衝突になると、国家は莫大な補償金を払わなければならない可能性が出てくる。だからこそ、補償法には憲法9条と同じく、武力行使のストッパーとしての効果があるのです。

そのため、戦時被害の一般補償法は、世界の先進国のほとんどで整備されています。世界を味方に付けるために、日本は一刻も早く同法を成立させるべきでしょう。

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対韓輸出規制がブーメランに……

舛添 それにしても、徴用工判決が出てからの日本政府の対応は非常にお粗末なものだと思います。

日本政府は今年7月、半導体などの材料3品目について韓国に対して輸出規制をおこなうことを決めました。政府は「安全保障上の懸念」によるものと発表していますが、経済報復というのが見え見えですよね。これが韓国の反感を買って、日本製品の不買運動が起きている。ブーメランが自国に跳ね返ってきているわけです。

橋下 全くその通りです。一連の政府の対応は、喧嘩の仕方としては明らかに稚拙。本当に安全保障に差し障りがあるのなら、もちろん輸出手続きの厳格化をすればいい。でもそれって徴用工問題の解決には……。

舛添 全く役に立たない。

橋下 そうなんです。最初は韓国国内で差し押さえられた日本企業の資産売却を牽制するために始めたことなのに、差し押さえられた資産の価値以上の経済的損害が拡大してしまっている。これでは本末転倒です。

舛添 私の郷里は福岡ですが、九州は韓国と距離が近いため、かなり影響が出てきていますね。福岡・釜山間の高速船がガラガラになっていますし、大分の別府温泉も全く人が来ていないらしい。大阪も大変でしょう?

橋下 関空も週64便の減便と聞きましたね。

舛添 半導体材料の輸出規制については参院選の前だったので、「保守層の票固めもあるのかな」と納得できる部分もあった。しかし参院選後もスタンスを変えず、ホワイト国除外に踏み切ったので、これはもうとんでもないなと思っていたのですが、国内では「よくやった!」という賞賛の声が強いですね。そういう空気が日本全体を支配しつつあるのは恐ろしいものがあります。報復合戦は日韓両国のためになりません。

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橋下 とはいえ、このままいくと早ければ年末には、韓国が差し押さえた日本企業の資産が売却・現金化される見通しです。日本企業に実害が出てくるとなると、やられっぱなしというわけにはいかず、喧嘩は避けられない。僕はいざ喧嘩をするなら、“勝ち”を目指したい。

外務省は最近、「徴用工判決に基づく差押えやその現金化によって韓国国内の日本企業に実害が出れば、日本政府は国際法に基づいて韓国側に損害賠償請求ができる」という見解を発表しました。

そこで提案したいんですが、実際に現金化が実行されて日本企業が損をしたら、それと同額分だけ、日本国内の韓国企業の資産を差し押さえるのはどうでしょう。どの韓国企業を対象にするかなどは今後詰めるとして。つまり、元徴用工が韓国国内の日本企業から賠償金をとっても、実質的には日本国内の韓国企業からお金をとっている構図になる仕組みを作る。そうすれば日本企業は損をしないし、韓国側も賠償金をとるのが馬鹿らしくなってやめるのではないでしょうか。

舛添 なるほど……。しかし、徴用工問題とは全く関係のない韓国企業からお金をとるために、どう理屈をつけるかですね。そう簡単じゃないでしょう。

橋下 そこの理屈を考えるのが政治家の仕事でしょう。もちろん韓国企業は日本の裁判所に不当だと訴えるでしょうが、その判断は司法に任せるしかありません。輸出手続きの厳格化という徴用工問題の解決には何ら結びつかない喧嘩をするくらいなら、これくらい思い切った行動をとるほうがいいと思います。

舛添 その喧嘩をする手前の話になりますが、先ほど橋下さんが提案されたように、韓国に「韓国国民への補償は韓国政府がおこなうものだ」という理論を突きつけても、今の文在寅政権では「日本が植民地時代におこなったことの代償を、韓国政府に払えというのは何事か!」と逆上されて終わってしまう気がするんです。

橋下 そうですか。

舛添 となれば、日本側の一定の譲歩も必要になってくるのではないでしょうか。

ひとつ発想の転換のヒントとして、私が戦後補償に携わった時の経験をお話ししましょう。厚労相時代、私は、何とか原爆症の認定を巡る集団訴訟を終わらせたいと考えていました。

07年10月、韓国在住の在外被爆者の方が面会に来られ、「日本人と同じように補償をしてほしい」とお願いをされた。在外被爆者の方にとって、日本で訴訟を起こし、裁判を続けるのは大きな負担になる。そこで私は、08年になって、「提訴さえあればすぐに和解し、1人あたり110万円の賠償金を支払います」と表明しました。訴訟さえ起こせば、迅速に和解し、賠償金が支払われるというスキームを示したのです。実際、大阪など各地で提訴が相次ぎ、約4,000人が和解できました。民事訴訟での解決は不可能であっても、政府が裁判外で何らかの手立てができる余地はあるのです。

橋下 ただ、提訴してくれと言ってしまうと、日本の弁護士が「被害者募集!」と大々的に運動を始めるのではないでしょうか? 消費者金融の過払い訴訟のように。

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財団を“クッション”として利用する

舛添 そこで私が提案したいのが「財団」を設立し、そこの拠出金から賠償金を支払うというスキームです。財団については今年6月、韓国政府から「韓国企業と日本企業が拠出しあう」という形で設立の打診がありましたが、日本政府は拒否しています。

それでは、日韓両政府と訴えられている日本企業の3者からなる財団はどうでしょう。韓国政府を引き入れたうえで、名誉総裁には韓国人であれば誰もが尊敬する人物を据える。そうやって積極的に韓国を巻き込みつつ、日本側がイニシアチブをとれれば、請求権協定にも違反しません。

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