20080408BN00078トリミング

問題は球数だけなのか?  一律の「制限」が選手の才能をつぶす

文・江本孟紀(野球評論家)

 2018年の金足農・吉田輝星選手(現日ハム)につづき、2019年でも高校野球におけるピッチャーの球数制限が議論になっている。

 発端は、2019年のドラフトで4球団が競合した、大船渡高・佐々木朗希投手が岩手県大会決勝で登板を回避して、甲子園出場を逃したことだ。同校の監督は「故障する可能性が高いと判断した」と説明したが、では4回戦の延長12回194球や、準決勝での129球完投は何だったのだろう。欠場の理由は別にあったのか? 世間を納得させるために「故障予防」を持ち出したのか?

 真相は分からないが、佐々木選手のケースが示しているのは、「ピッチャーの故障を防ぐためには投球数を制限しないといけない」という最近の風潮だ。

 まず、私のスタンスをはっきりさせておこう。単に「球数制限」の賛否だけを問うのは、ムダな対立を生むだけだ。

 小学生、中学生、高校生、大学・社会人、そしてプロ野球と、選手の成長段階やレベルの違いを前提にせず、一律に球数制限だけを議論するのは無理がある。

 小中学生については制限があってもいい。それは当然だが、しかしプロを目指すのであれば、投げ込みや走り込みなど、レベルの高いトレーニングが必要だ。だから、すべての選手を一律に制限する必要はないと思う。

 もう、いい加減、建設的に話を進めようではないか。投手に限らず、身体のあらゆる部分に故障は起こる。その中でも投手の肩、ヒジの故障が注目されているわけだが、それを極力、防ぐにはどうすればいいのか。球数だけが原因だと悪者扱いしても、問題は解決しない。

 そもそも選手の資質、適性は様々だ。

 小学校の運動会を考えればいい。足の速い子もいれば、そうではない子もいる。適性がある子は、走るトレーニングをしなくても速い。野球でも、速い球を投げられる子、ボールを遠くへ飛ばす力のある子、俊敏で守るのが上手な子と、適性は選手によって変わる。ピッチャーとして適性のない選手が投げ続ければ、故障するのは当然だ。そこを見極める大人の目、つまり指導者が重要なのだ。

 それに投手としての適性があったとしても、資質もそれぞれだ。かなりの球数を投げても故障しない選手もいれば、少し投げただけで故障する選手がいる。

 重要なのは、「この選手なら、この数までは大丈夫。これ以上は故障する」という指導者の眼力だ。一律の「制限」ではなく、選手の資質や適性を見極めて、投球数や練習量を「調整」する能力が、指導者には求められる。

 現実的には、そうした能力を、あまねく指導者に求めることは難しい。小学校の低学年から野球を始める子は多いが、少年野球の指導者の中には野球経験の浅い人もいる。近年でこそプロOBに、アマの指導者になる門戸が開かれたが、長い間、プロとアマチュア球界が断絶状態にあったことも、指導者の数やスキルに影響している。それだけに球界全体で指導者の育成は急務だ。また、優秀なトレーナーや、ドクターがアドバイスできる環境を整えることも大事だ。

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