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伊達公子が語る大坂なおみ「全盛期はまだ先にある」

2020年9月、大坂なおみは全米オープンを制し、22歳にして自身3度目となるグランドスラム制覇を達成した。2021年、東京オリンピックが開催されれば、日本代表としてメダルも期待される。

彼女が16歳の頃からプレーを見ている日本テニス界のレジェンド、伊達公子氏がその未来を語る。

伊達さん写真

伊達氏(元プロテニスプレーヤー)

彼女は変わった

2019年、大坂選手は年初の全豪オープンで優勝して世界ランク1位になりました。コーチの解任などもあってちょっと調子を落としましたが、シーズン後半には2大会連続優勝も果たすなど、彼女にとってはいい1年だったと思います。

ところが2020年は全豪オープンで3回戦敗退、ランクも10位まで落としました。その後は新型コロナの影響で数カ月試合がなくなり、再開して2試合目が全米オープンでした。

そういう流れだったので、大坂選手が優勝するとは正直、予想していませんでしたが、ラウンドを重ねるごとに調子を上げていきましたね。

決勝の相手は元世界ランク1位のビクトリア・アザレンカで、第1セットを簡単にとられてしまいました。大坂選手は第1セットを取られると勝率が2割くらいしかないので、厳しいかなと思ったんですがそこから逆転。それを見て、彼女は変わったなと思いました。少し前の大坂選手だったら、あそこから逆転するというメンタルはなかった気がします。

少し自信を失いかけていたところにコロナで試合がなくなりましたが、これは彼女にとってマイナス面ばかりではなかった。このブレイクが気持ちをリセットする時間にもなったのでしょう。

それから、この期間に中村豊さんという日本人のストレングス(体力強化)のトレーナーをチームに招いた影響も大きかったと思います。

豊さんは本当に素晴らしいトレーナーなので彼女にとっては凄くプラスになったはず。今日はやりたくない、とか言っても逃げ道を作ってくれる、甘やかしてくれるタイプのトレーナーじゃないから、彼女にもそれなりの覚悟があったのかな(笑)。大坂選手がもう1回、世界のトップに返り咲くためには彼の力が必要だと感じたのかもしれません。

大坂選手を初めて見たのは2014年7月のバンク・オブ・ウエスト・クラシックでした。彼女は16歳でまだランク300番台だったのですが、2011年に全米オープンを勝ったサマンサ・ストーサー選手を破る大番狂わせで話題になったんです。印象は……まだテニスはハチャメチャだったけど、パワーだけは凄かったですね。

翌年、同じ大会で大坂選手と試合をしました。第1セットは落としましたが、第2、第3セットを連取して、逆転で私が勝ちました。

もちろんあれだけパワーがあるので対戦相手としては嫌でしたけど、まだ彼女は考えてプレーするという感じじゃなかった。前の年のプレーが「ハチャメチャ」だとしたら、まだ「ハ・チャ・メ・チ」くらい(笑)。パワーはあるけどプレーはシンプルだったので、つけいる隙があったんです。そこを経験で上回る私が――というゲームでした。

実際に試合をしてみて、ああ、この選手はいずれ来るなとは思いましたね。だけど、まさかそこから3、4年でグランドスラム優勝や世界ランクナンバーワンをとるっていうのは、ちょっと想像できませんでした。

そのころは一緒に練習もしましたよ。練習をお願いしたら、「うん、イイヨー」と言って必ず練習してくれました。今日はちょっと疲れてるから、とか、そういうことを言うタイプではなかったです。

普段の彼女はめちゃくちゃいい子ですよ。でも、コートを離れるともの凄くシャイで普段は本当に喋らなかった。まあ、今もそんなに喋らないんですけど(笑)。

大坂なおみ2

大坂なおみ氏(プロテニスプレーヤー)

トップ選手は負けず嫌い

大坂選手の一番の武器はフィジカル。彼女のようなタイプを「出力がある」っていうんですが、パワー、スピードはどの選手よりも優れていると思います。

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