リブラ

「FB『リブラ』がもたらすもの」誤った経済政策を矯正するためにリブラ導入が望まれる

1つのテーマで対論を読んで思考力を鍛えよう。このコラムのテーマは【FB『リブラ』がもたらすもの】です。
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文・野口悠紀雄(一橋大学名誉教授)

 Facebookが、仮想通貨「リブラ」を発行する計画を2019年の6月に発表した。直ちに、世界的に大きな反響が生じた。各国の政府や中央銀行やIMF(国際通貨基金)は、「強い規制が必要」という方向で一致している。

 リブラは、電子マネーではなく仮想通貨だ。両者はキャッシュレスの手段という点では同じだが、仕組みや経済に与える影響は全く違う。

 電子マネーは、銀行預金からの引き落としを簡単にするための手段に過ぎない。この意味で従来の金融システムの中にある。中央銀行券に比べて便利だという利点はあるが、それ以上のものではない。

 これに対して、仮想通貨は、ブロックチェーンという新しい仕組みで運営される。このため、従来の金融システムの外に、新しい通貨が誕生する。発行額は中央銀行の統制とは独立に決められる。

 使い勝手の点でも、電子マネーと仮想通貨は大きく異なる。電子マネーでは、受け取り手になるために登録や認可が必要だ。しかし、仮想通貨では、誰でも受け取り手になれる。

 電子マネーはいったん受領したマネーを他の支払いに用いることはできない。これに対して、仮想通貨は、受け取ったものを他の支払いに使うことができる。つまり転々流通する。この意味で、キャッシュを完全に代替する手段となる。

 電子マネーは一国の通貨圏の範囲を超えて流通させることは難しいが、仮想通貨に国境は存在しない。これは、もともと世界的な共通通貨である。

 いま世界には、ハイパーインフレで経済的に破綻しかかっている国がある。例えばベネズエラだ。こうした国の国民は、リブラを使えることになれば、日常生活の支払いが正常に行えるだけではなく、資産を安全に保全できることになる。したがって、その国の通貨からリブラへの資金移動が生じるだろう。弱小国の中央銀行や政府にとっては、存在意義を否定されかねない重大な事態だ。

 このような問題が懸念される国は、ベネズエラだけではない。中国では、土地の私有が認められないなど、資産の保有に関して制約が課されている。このため、富裕層は資産を海外で保有することに多大の関心を持っている。仮想通貨はこのための絶好の手段となる。実際、2013年には、人民元からビットコインへの巨額の資金流出が生じた。これに危機感を抱いた中国政府は、仮想通貨の取引所を禁止した。

 仮にリブラが国際的な通貨として広く使われるようになれば、中国からの資金流出の手段として利用されるだろう。実際、中国の通貨当局はリブラ発行計画に対して強い危機感を抱いたようである。そして中国人民銀行による独自の仮想通貨の開発を加速させたと言われる。

 西側諸国の政府や中央銀行がリブラに対して規制の方針をとったことで一番安堵したのは、中国政府であろう。

 同じ問題は、日本についても生じうる。金融緩和を続けて円の価値が下落していけば、日本国民も中国の国民と同じような行動をとる可能性を否定できない。

 このように、リブラは、一国の金融政策に重大な影響を与えるだけではなく、場合によっては国の既存体制そのものに対する脅威ともなりうる。

 このためにリブラは望ましくないと言う意見が多い。しかし、話は逆だろう。脅威になるのは政府や中央銀行が適切な経済政策を行っていないからなのだから、それを矯正する意味でリブラの導入が望まれるのだ。

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