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自粛警察には反対でもパチンコ店名公表には賛成する日本人の心理|三浦瑠麗

★前回の記事はこちら。
※本連載は第36回です。最初から読む方はこちら。

 日本がどのように新型コロナウイルスの感染拡大を防いだか、4月~5月にかけての休業要請をはじめとする政策はどれほどの効果を上げ、それぞれの施策の費用対効果はどのようなものだったのか。最近ではようやく政策の事後評価を求める声が聞かれるようになってきました。

 第一波における対応が、完全失業率を8月までに2ポイントほど押し上げ、自殺者数を約8000人増やすという許容しがたいコストをもたらすであろうことはこの連載でお示ししてきました。これによって救われた命がどれほどかは現時点では不明ですが、経済苦境を作り出すことで、この感染症によってこれまでに亡くなった方のおよそ8倍の死者を出してしまうという対応関係はよく踏まえておくべきだと思います。倒産件数はまださほどの数に上っていませんが、だいたい企業の現預金などを考慮すると、平均的には7か月分の資金がありますから、底をつき始めるのが9月。倒産件数は秋からうなぎ上りに増えることが見込まれます。さらに休廃業件数は倒産件数を上回る見通しです。

 しかし、失業率は遅行指数、失業による自殺者増加数はさらなる遅行指数です。人びとは、全体観を見たり将来の見通しを立てることなく、直近メディアがあおった恐怖ばかりを考慮に入れる傾向にあります。そこには、経済弱者に対する思いやりの少なさと、命のコストに軽重をつけてしまう態度さえうかがわれます。例えば、経済苦境にあって家庭が崩壊するなどし、絶望して命を絶った人の立場にはあまり想像が及ばないので同情しにくいが、安定的な暮らしをしてきた高齢者が街中で感染し、重症化して亡くなる場合には同情できる、というのは高齢化社会を前提とすると自然に起きてしまいうる現象です。

 弊社の新型コロナウイルスに関する第2回意識調査では、自粛によって生じる失業のコストに対して意見を尋ねました。 

Q: 新型コロナウイルスによる自粛の影響で、4月に失業した人は6万人に上りました。休業している人(無給、減給を含む)は、昨年の4月に比べて500万人増えています。この500万人のうち相当数が、失業予備軍であると言われています。あなたの考えにもっとも近いものをお選びください。

 すると、休業要請によって生じた失業について、致し方なかったとする意見が過半数を占め、休業要請を出すべきでなかったと答えた人は5%未満にとどまり、休業要請の対象をもっと狭くすべきだったと考える人は2割に届きませんでした。

図1

 また、第二波を想定した時の対応についても、やはり過半数の人が感染症に関するゼロリスクを志向しており、第一波と同じ規模かそれ以上の規模で経済活動を抑制すべきと答えました。一方で、経済活動を抑制すべきでないと答えた人が約1割存在し、第一波と同じ規模で経済活動を抑制することには反対だとする人が4分の1に上るなど、意見は割れていることが分かります。

 失業が致し方なかったとする意見が過半数を占めたことについては触れましたが、企業の活動についても厳しい意見が見られます。緊急事態宣言に伴う休業要請については、罰則規定なしの拘束力を伴わないものであったため、補償がないなかでやむなく営業し続けたり、規定時間外にも営業したりする店舗が存在しました。日本社会において自粛を求める同調圧力は非常に強く、報道では、休業要請に従わなかったパチンコ店の店名を首長が公表したところ、窓ガラスが割られるなどの被害が出たことも報告されています。そこで、張り紙をする、苦情電話をかけるなどの「自粛警察」と呼ばれる動きについてどう思うか聞いたところ、賛同する人は1割強にとどまり、反対する人が7割以上を占めました。ところが、器物損壊の実害を示したうえで、パチンコ店の店名公表をすべきだったかどうかを尋ねたところ、それでも公表すべきだったとする人が過半数を占め、公表すべきではなかったと答えた人は2割に届きませんでした。この辺りは、日本人の同調圧力に対する、本音と建て前の乖離を示していると言えるのではないでしょうか。少数者が見せしめの暴力に遭っているときに、表向き「よくないことだ」と言いながら、それが生じる構造自体を放置するということは、本音の部分ではそうしたことが起きても構わないと言っているのと同じだからです。

図2

Figure 16 「自粛警察」とパチンコ店の店名公表について

 緊急事態宣言に伴う休業要請で、多くの経済セクターや労働者がダメージを蒙ったにもかかわらず、相変わらず約半数の人が、第二波を想定した時に今回と同じかそれ以上の経済活動の制限を望んでいるということは、不安定な雇用形態で働く人にとっても企業にとっても厳しい社会環境であると言えます。

 次回はホストクラブが感染源と名指しされたことと、都内の感染者数が増加した経緯について振り返ります。

★次週に続く。

■三浦瑠麗(みうら・るり)
1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、現在は山猫総合研究所代表。著書に『日本に絶望している人のための政治入門』『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『21世紀の戦争と平和』(新潮社)などがある。
※本連載は、毎週月曜日に配信します。
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