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十三代目市川團十郎 その襲名と歌舞伎の近未来

文・中川右介(作家、編集者)

 2020年5月に、市川海老蔵が13代目市川團十郎白猿を襲名する。偶然にも、改元とほぼ同時に歌舞伎界も新しい時代となる。

 海老蔵は1977年生まれ。その前後5年ほどに生まれた世代が、令和歌舞伎の中心になる。松本幸四郎(1973~)、尾上松緑(1975~)、市川猿之助(1975~)、尾上菊之助(1977~)、中村勘九郎(1981~)、中村七之助(1983~)、少し上に、片岡愛之助(1972~)がいる。

 すでに当主の名を襲名しているのが、幸四郎、松緑、猿之助だ。海老蔵の團十郎襲名の次は、菊之助の菊五郎襲名だが、当代の菊五郎が元気なのでまだ先かもしれないし、幸四郎家のように菊五郎が別の名になり父子同時襲名かもしれない。

 歌舞伎に限らず、クラシック音楽やオペラもそうなのだが、伝統芸能、古典芸能は、高尚であることが最大のセールスポイントであると同時に、観客減少の要因でもあるという、難しさを抱えている。

 歌舞伎座は2013年に新開場した当初は、連日満席だった。「一度くらいは歌舞伎を見てみよう」と思った物見遊山的なお客さんが多かったのだ。しかし、2年目、3年目になると、出演者と演目によっては空席が多くなり、2017年からは海老蔵の出る月以外はなかなか完売にならなくなっていた。初めて歌舞伎を見た人たちがリピーターにならなかったのだ。新しいファンの獲得に、歌舞伎座が失敗したのは明白だ。

 その原因のひとつが演目にある。歌舞伎の名作として年に1度は上演されるのが、『寺子屋』『熊谷陣屋(くまがいじんや)』『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』など、主君のために親が実の子を殺す悲劇だ。「歌舞伎は衣装が豪華絢爛で、悲恋もの、英雄ものがあり、物語は単純だから、初めてでも楽しめる」と言われて見に来た人は、これらを見て、「名作なのかもしれないけど、自分には合わない」と思って、二度と来ないだろう。

 現在の大幹部は伝統の継承での業績はあるが、歌舞伎の改革には手を出さないまま、役者人生を終えようとしている。いまの70代以上が、高齢ゆえに劇場に来られなくなるのは数年後だ。そうなれば観客減は必至である。海老蔵世代にとっては、観客減は死活問題だ。そこでいろいろな手を打っている。2019年だけでも、新しい試みがいくつもあった。

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