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作られた不動産投資ブーム 住宅ローン不正の闇

文・藤田知也(朝日新聞経済部記者)

 若者に住宅ローンを借りさせ、投資用不動産を買わせる不正が蔓延している。

 たとえば都内の飲食店で働く20代の男性店長は、店にかかってきた不動産業者の営業電話に引っかかった。「自己資金ゼロで投資できる」「賃料収入で毎月2万円の収益が出る」「家賃保証は20年」などと勧められ、2019年春に中古マンションを買う契約書にハンコをついた。

 資金は、長期固定金利の住宅ローン「フラット35」で借りた。業者の指示で、申請時に「自分で住む」と偽った。住民票は一時的に購入物件に移し、しばらくして元に戻す。物件は一度も見ていないという。

 融資額は約2,600万円。全額が物件の代金として業者に流れた。その後、たしかに月十数万円の賃料が業者から振り込まれ、ローンの返済分などを差し引くと2万円余りが手元に残る。

 ただ、物件は築20年超で、私鉄線の駅から10分以上歩く。不動産情報サイトで調べると、同じ建物の同じ広さの部屋が約1,300万円で売られ、募集家賃は9万円以下だ。

 普通に考えれば、業者が価格を倍近くにつり上げ、不正に住宅ローンを借りさせて1,000万円前後の利益をせしめている。割高な家賃はその一部が還元されているに過ぎず、途中で打ち切られるのが関の山だろう。

 テレビでもおなじみのフラット35は、独立行政法人の住宅金融支援機構が民間金融機関に取り次がせて提供する住宅ローン。民間の銀行がお金を貸しにくい人でも、住まいを買えるよう後押しする使命を背負い、借り手は年収300万円前後からを対象に、正社員でなくても最長35年間の長期固定金利で貸すが、その精神が悪徳業者に逆手に取られた。

 機構は2019年8月、居住目的と偽って投資するなどの不正を105件確認し、ほかに57件の疑わしい事例の調査を続けると発表した。融資額は計23億円、不正ローンに2,100万円の補助金が支出されたことも明らかにした。

 目的を偽ってローンを借りるのは融資契約に反するため、不正がバレた利用者は一括返済を迫られる。物件を強制処分させられ、残債を分割ででも払わされるのが一般的だが、不正利用者には年収が低めの若者が多いだけに、自己破産手続きに移る人も相次いでいる。

 ただ、機構が特定した計162件(疑い含む)の不正事例は、都内の1社が関わるものだけで、氷山の一角だ。筆者が確認できただけでも、住宅ローンの不正利用を勧める業者グループは少なくとも5つある。冒頭の飲食店店長も、まだ機構の調査を受けていない。

 しかも、不正利用はフラット35にとどまらない。確認できた範囲では、みずほ銀行や楽天銀行、中央労働金庫、そのほか多くの地方銀行でも、同様の不正事例がある。すべて明るみにでれば、事例は何十倍、何百倍にも膨らむはずだ。

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