厚労省が導入を議論…大麻「使用罪」は薬物依存症対策の“切り札”になるのか?
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厚労省が導入を議論…大麻「使用罪」は薬物依存症対策の“切り札”になるのか?

大麻の「使用罪」をめぐる議論が活発化している。

6月11日、厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」(以下「検討会」)は「他の薬物法規と同様、大麻の使用に対し罰則を科すことが必要であるという意見が多かった」とする報告書を提出。厚生労働省は、今年秋から審議会で議論を進め、来年春の通常国会に「使用罪」を盛り込んだ大麻取締法の改正案を提出する方針だ。

大麻使用に対する刑事罰の導入については賛否が分かれている。前述の検討会でも委員12名中9名は賛成したものの、3名は反対。大麻をめぐる国際的な潮流も踏まえた上で、この「大麻使用罪」について日本はどう考えていくべきなのか。

刑事司法における薬物依存回復プログラムを専門とする立正大学の丸山泰弘教授が、この議論の問題点を解説する。

文・丸山泰弘(立正大学教授)

大麻使用罪の創設をめぐる議論

諸外国において大麻を使用した医薬品が販売されていることに加えて、WHO(世界保健機関)やCND(国連麻薬委員会)においても医療目的での大麻の使用について議論が行われている。一方で、日本国内での大麻事犯が若年者を中心に増加傾向にあることを踏まえて、検討会で報告書が提出された。

このように医療目的での活用について議論が進む一方で、大麻取締法については使用罪がないことから、大麻使用罪を創設するか否かの議論も検討会で行われた。同報告書によれば、検討会のメンバー12名中の9名が使用罪創設に賛成の意見として、大麻の使用に対する罰則については他の薬物法規と同様に成分に着目した規制をするとともに、大麻から製造された医薬品の施用を可能とすると、不正な使用の取締りの観点や他の薬物法規との整合性の観点から、そして昨今の諸外国での合法化の流れや、安易な大麻使用のイメージから罰則を科すことが必要であるとする意見がなされた。しかし、残りの3名からの反対意見として、回復支援に力が注がれている国際的な流れに逆行すること、使用を抑制するための方法が使用罪の導入であるとする論拠が乏しいこと、大麻の検挙人員が増加しているとしてもそれに伴う事件は増加しておらず大麻使用が社会的な弊害を生じさせているとはいえないこと、刑罰の対象とすることで一層孤立化し社会からの偏見を助長する恐れがあることなどが指摘されている。

検討会の3名による反対意見にあるように、「刑罰によって規制することが必ずしも問題使用を減らすことにはならない」と科学的根拠に依って薬物政策を訴える国際的な研究機関も訴えている。さらに、国連やWHOをはじめとした団体が刑罰で薬物使用の問題に取り掛かることは「人権の問題」としている。これらの理由や背景を確認しながら、刑罰で規制することが薬物問題の解決の唯一の手段ではないということを考えたい。

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「薬物問題」を考えるにあたって

「日本の薬物問題」と聞いて、どういったことを想像されるであろうか。多くの読者は、一度手を出したらその快楽から2度と離れられなくなりボロボロになっていく人や、著名人の逮捕・裁判所の映像を思い出し、彼ら/彼女らが謝罪をしている映像など、そういった人たちが大切なものを失う危険なものが薬物である、と色々なことが頭に浮かんだのではないだろうか。

これらは、初期使用を止めるために威嚇を以って制御しようとする教育の結果であったり、刑事司法に関係するイメージ(逮捕・裁判・刑務所、その他の社会的な制裁)にあたる。著名人が仕事を失ったり生活が破綻しているのは、薬そのものの作用よりも逮捕に伴う社会制裁によって生じることが多い。

一方で、そもそも逮捕や刑務所に行かない薬物使用者もたくさん存在する。実際にどの程度の人数が使用しているかという統計は日本では存在せず、アンケート調査を基にした生涯経験率の程度しかない。先の検討会でも日本での生涯使用率は2%ほどで諸外国と比べて少ないとし薬物政策がうまく機能しているとしている。仮にそれらがうまく機能しているのであれば、今さら処罰規定を創設する必要はない。むしろ、薬物使用によって生活が破綻しているのではなく、刑事司法に巻き込まれることで偏見が生じ、仕事や家族を失い生活が破綻していると世界中で指摘がなされており、これが人権侵害に当たる。

また、処方箋薬やドラッグストアで購入できる薬でオーバドーズ(過剰摂取)している人も少なくない。とくに日本は他の国々に比べて精神病院の病床数が多く、自殺者の数も多いと言われている。これらの人たちが生きていくために強い薬を使う場合もある。つまり、合法な薬でも依存性の高いものは多く存在し、その「薬物」が合法か違法かだけに注目するだけでは問題の本質を見失う。例えば、イギリスの薬物効果を測定するための完全独立調査組織で代表を務めるDavid Nutt教授が、著名な医学誌The Lancetで公表したように、アルコールが最も危険なドラッグとして示されている。日本では大麻の危険性を訴える調査が数多く示されているが、なぜか同じ手法による調査でアルコールやタバコの害悪と比較するものはなく、大麻の危険性だけを調査している。薬物に限らず過剰摂取をすると少なからず体に害悪なものは数多い。このように「薬物問題」を考える際には、少なくとも害悪の度合いによって違法か合法かが決まっていないという問題が根本に存在する。

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日本の大麻と覚醒剤の問題とそれを取り巻く言説

問題の背景には「違法・合法」以外に重要な論点があるとしたものの、日本では一定の薬物所持や嗜好的な目的で使用することを法律で禁止しているため、刑事司法の問題も知っておく必要がある。

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