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橘玲さんが今月買った10冊の本

よりよい世界

古来、自らの手で「よりよい世界」をつくろうとした者は枚挙にいとまがないが、そのほとんどは悲惨な結果を招いた。

だがいま、人間の不合理性を前提にしたうえで、合理的に社会をデザインしようとする新しい“ユートピア思想”が台頭している。自由市場経済と共産主義(私有財産の否定)を合体する『ラディカル・マーケット』は、このメカニカル・デザインの最先端。話半分としてもきわめて魅力的で、近年、もっとも知的好奇心を刺激された一冊。

「知識社会における経済格差は“知能の格差”の別の名前」だが、この「不都合な事実」を当代の人気哲学者が認めて話題を集めているのが『実力も運のうち』。背景にあるのはアメリカの低学歴(非大卒)白人労働者が自殺、ドラッグ、アルコールで死んでいく“絶望死”だ。

川崎殺傷事件、元農水省事務次官長男殺害事件、京アニ事件には、「社会からも性愛からも全面的に排除された中年の男」という共通項がある。『令和元年のテロリズム』は、誰もが目を背けたいと思いながらも、直視せざるを得なくなった日本社会の現実を浮き彫りにする。アメリカでも日本でも、世界じゅうで同じことが起きている。

自殺は精神の錯乱ではなく、追いつめられた結果、合理的な選択として死を選んだのだと考えるのは、「自殺の自己責任論」だとしてタブー視されている。それに挑戦したのが、『ヒトはなぜ自殺するのか』。兄の自殺の理由を探し求めた挙句、「自殺は進化の適応である」と主張するようになった研究者がいることに驚いた。

「金貸しは悪、返済に苦しむ顧客は被害者」という粗雑な善悪二元論に違和感があったが、それを見事に解消してくれたのが『サラ金の歴史』。日本には貧困層を対象とする公的金融がなく、サラ金が「セイフティネット」を代行する奇妙な事態が起きた。創業者の高邁な理念が営利との矛盾に引き裂かれ、破綻していく様が描かれる出色の経済史。

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