東条英機 軍事官僚の悲劇 辻田真佐憲 100周年記念企画「100年の100人」
首相在任時に太平洋戦争に突入した東条英機(1884~1948)。戦後、絞首刑に処された東条の教訓を辻田真佐憲氏が分析する。/文・辻田真佐憲(評論家)
辻田氏
東条英機の悲劇は、一軍事官僚にすぎなかったにもかかわらず、大東亜戦争の開戦直前に首相に指名されたことで、突如として戦争指導者として振る舞わざるをえなくなったことに求められる。
当時すでに日本は制度疲労を起こしていた。全体を調整できる明治の元勲がいなくなり、優秀だが部分の最適化しかできないエリートが権限や予算の奪い合いに明け暮れていた。
それでも官僚東条は、陸相や内相など要職を兼摂することで、辛うじて制度の枠内で任務を全うしようとした。憲法上の疑義が呈された参謀総長の兼摂についても、当初、参謀本部では参謀肩章をつけ、陸軍省ではそれを外すことで、なんとか理屈をつけようと試みた。
東条英機
したがって、東条を教条主義的な役人に喩えるならばともかく、私利私欲にまみれた独裁者と批判することは妥当ではない。それは、独裁者の代名詞たるヒトラーと比較すればよくわかる。ヒトラーは官僚制を徹底的に嫌悪し、むしろそれを骨抜きにすることで、みずからの権力基盤を固めた。対して東条は、サイパン島の陥落後、首相の地位さえ失った。
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