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旬選ジャーナル<目利きが選ぶ一押しニュース>|菅野朋子

【一押しNEWS】「小池百合子」を選ぶ日本人/6月17日、ダイヤモンドオンライン(筆者=岡田悟)

旬選Jニュース1、菅野氏顔写真

菅野朋子(ノンフィクションライター)

周りにひとりくらいは思い当たる人がいるかもしれない。

機を見るに敏。動機は何にしても、目的のためには誰をとり込めば自分に利するかを常に考え、瞬時にターゲットを見極めて動いていく。男社会、タテ社会といわれる日本で、『女帝 小池百合子』(文藝春秋)で浮かび上がった“小池百合子氏”に似た、そんな人のことだ。

その“野望”は端からみると一目瞭然なのに、こと社会の中に紛れると途端にうやむやにされ、分からなくなる。ひと言指摘しようものならば、やれ嫉妬だなんだと、陳腐な感情論に押しこめられ、まともな話はできなくなる。
『女帝 小池百合子』を読み、韓国で起きた事件を思い出した。2007年、日本と同じく男社会、タテ社会、さらには超のつく学歴社会といわれる韓国で“美術界のシンデレラ”と呼ばれた女性の学歴詐称が明るみに出て、ついには実刑となった通称「シン・ジョンア事件」だ。

シン・ジョンア氏は、韓国では有名な若手キュレーターとして知られ、30代前半で大学助教授に転身。07年には現代美術の国際展として知られる「光州ビエンナーレ」の監督にも抜擢された。しかし、この時燻っていた学歴詐称疑惑が一気に再燃。正体はあっけなく暴かれた。

実際は米カンザス大学を中退したシン氏は、韓国に戻ると大胆にも誰もが知る、米国の名門イェール大学大学院で博士号を取得したと偽った。最初にアルバイトとして働いた美術館でひょんなことからキュレーターとなり、その後はトントン拍子。その間も学歴詐称問題は囁かれたが、シン氏は政財界の重要人物とすでに懇意の仲となっていて、彼女のウソを知る人たちは公に語れるような雰囲気ではなかったと後にメディアに話している。

実は、大学の助教授として採用される際、大学側はイェール大学に照会をいれていた。しかし、イェール大学の手違いで卒業生だと認める書類がFAXで送られて来てしまう。日本ならばこの時点で学歴詐称の話はうやむやになるだろう。ところが、韓国ではそうはならなかった。シン氏の学歴詐称疑惑が消えなかったのは、英語の実力不足とキュレーターとしての手腕に常に疑問符がつきまとっていたからだという。

学歴詐称疑惑が再燃すると、シン氏が勤めていた大学は再度イェール大学に照会した。すると、卒業も在籍すらもしていなかったことが発覚する。その後は、米カンザス大学も卒業していないことがわかり、さらには、青瓦台(大統領府)の前政策室長との不倫まで飛び出して、一大スキャンダル事件へと発展した。

シン氏は結局、「私文書偽造および業務上の横領」などの罪で起訴され、1年6カ月の実刑となる。

この事件後、韓国の官公庁などで一斉に学歴の洗い直しが行われて相当数の詐称者が見つかったというオチまでついた。

著者の石井妙子氏は、当該記事で「小池氏という政治家をここまで押し上げたのは、小池氏自身の罪なのか、この時代の私たちの罪なのか?」と語った。

「働く女性たちの間では能力はともかく、男社会で都知事まで登りつめた、腹が据わったサバイバル力に人気があるのよ」

友人はこんなことを言っていたけれど、問題は小池氏が政治家ということだ。

コロナウイルスで、ドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダーン首相の言葉は心を揺さぶったが、そうした政治家が選ばれた社会がそこにあり、そんな社会をつくり出している国民がいるということなのだ。

この記事が出るのは都知事選後。さて、どんな結果となったのか。

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