イギリスのコロナ対策「大逆転」の勝因――英国の成功から日本が学べること
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

イギリスのコロナ対策「大逆転」の勝因――英国の成功から日本が学べること

日本よりも少なくなった新規感染者。なぜイギリスはコロナ封じ込めに成功したのか?/文・近藤奈香(ジャーナリスト)

<summary>
コロナ対応をめぐり政府が迷走を続けるなかでも、英国はワクチンにだけは手を打っていた。これが後の“大逆転”への布石となる
▶もともとコロナ禍以前からワクチンを重視する“伝統”が英国にあった
▶英国は、少なくともワクチンが出回る初期段階ではワクチン需給がひっ迫することを見越して、「ワクチンの品質」だけでなく「実際の供給」も重視していた

コロナ対応で英国が“大逆転”

英国は、新型コロナの流行で大きな被害を受けた。老人ホームを中心にクラスターが発生して多くの死者を出し、感染が拡大するなかで変異株も発生し、感染状況が欧州最悪という時期もあった。4月23日時点の累計死者数は12万人以上にまで達している。しかし、その英国が、いま“大逆転”を成し遂げつつあるのだ。

1月のピーク時、1日あたりの新規感染者は6万8000人に達していたが、ロックダウンと同時に昨年12月から開始されたワクチン接種によって、すでに国民の約半数が1回目の接種を終え、現在の新規感染者は2728人と、日本の5526人を下回る水準だ。

ピーク時に1日1820人を記録した死者数も18人で、41人の日本を下回る水準まで減少している(いずれも4月22日時点)。

直近1カ月間の数値で見ても、ピーク時に約3万人に達した死者数は、1200人程度にまで減少し、ピーク時に約133万人に達していた感染者数も、12万8000人まで減少している。

しかし、その英国のコロナ対応も、当初は杜撰極まるもので、ここに至るまでには、数々の失敗と紆余曲折があった。

ここで英国がたどった過程を振り返ってみたい。国民性や医療制度に違いはあっても、日本のコロナ対応を考える上でも参考になる何かがあるように思えるからである。

英国ワクチン接種

国民の約半数の接種を終えた英国
© Dinendra Haria/London News Pictures via ZUMA Wire

コロナを甘く見ていた英国

英国は当初、新型コロナのリスクを完全に見誤り、危機感が決定的に欠如していた。

これは、当時のボリス・ジョンソン首相の言動からも明らかだ。昨年3月初旬、病院視察から戻ったジョンソンは、報道陣を前に「病院にはコロナ患者もいたようです。心配ないですよ。私は全員と握手しました」と笑い飛ばし、おどけた様子で「政府の公式見解では手洗いが大切だということです」とコメントした。

首相が首相なら国民も国民で、「WHOが恐ろしい噂を広めているだけだ」という話を真に受ける人も珍しくなかった。

さらにエリート層には、言葉にしなくとも「アジアと欧州はそもそも別世界で、コロナなど『対岸の火事』にすぎない」といった“驕り”というか“差別意識”のようなものも感じられた。

その後、感染者は着実に増え続けるが、英国は慢心を改めることなく、大規模イベントも開催された。

しかしコロナを甘く見ていた英国も、3月の第4週に、激動の1週間を迎えることになる。まず23日(月)、ジョンソン首相がテレビ演説で、当日夜からの「自宅待機」を国民に訴え、全国規模のロックダウンに入り、25日(水)には議会も閉鎖、27日(金)にはジョンソン首相自身がコロナに感染したと発表された。

この頃、医療現場からは悲鳴が上がっていた。防護服が底をつき、ポリ袋の即席“防護服”を身にまとう医療従事者が「もう限界です」と涙ながらに訴える姿がメディアを駆けめぐった。

しかし、英国政府の失政はその後も続くことになる。

欧州諸国でマスク着用が次々に義務化されるなかでも、英国はマスク着用の義務化を最後まで拒んだ。公共交通機関でのマスク着用が義務化されたのは6月になってからで、ジョンソン首相がマスク姿で公の場に現れたのも7月になってからだ。

政権幹部(ジョンソン首相の上級顧問)が禁止されていたはずの長距離移動をしたというスキャンダルも生じた。

さらに3月から4月にかけてコロナ病床の確保のために、NHS(国民保健サービス)病院に入院していた2万5000人もの高齢患者を老人ホームへと「PCR検査もせずに」転院させると、これが大惨事を招く。イングランド・ウェールズ地方の老人ホームの少なくとも40%でクラスターが発生し、同地域のコロナ死者数の3割を占める犠牲者が出たのだ。

その後、夏を迎え、いったん収束を迎えるが、秋になると、英国は再び窮地に立たされる。9月1日には1295人だった1日あたりの感染者が、10月初旬にはあっという間に1万人に膨らみ、英国は第2波を迎えることになる。

そこへ追い打ちをかけるように生じたのが、感染力の強い英国変異株だ。各国は英国からの渡航禁止措置を採り、英国自身も年明けに3度目のロックダウンに追い込まれた。ロックダウン回避の鍵として「2年間で370億ポンド(5.5兆円)」もの予算を注ぎ込んだ「接触・追跡確認システム」は、まったく効果を発揮しなかったわけである。

結局、英国は3度ものロックダウンを強いられ、G7においても最大規模の経済的ダメージを被った。健康被害も甚大だった。1月8日には1日あたりの新規感染者が6万8000人にも達して過去最高を記録。死亡率も世界トップクラスで、累計死者数は12万人を超え、欧州ではワースト1位。英国人は、ドーバー海峡越しにEUを眺め、「なぜ英国ばかりがここまでひどい状況に陥ったのか」「なぜドイツはいつも優等生なのか」と落胆していたのだ。

ジョンソン英首相

自身も感染したジョンソン首相

英国のワクチン戦略

しかしここから英国の快進撃が始まる。その鍵となったのが、ワクチンだ。

コロナ対応をめぐり政府が迷走を続けるなかでも、英国はワクチンにだけは手を打っていた。これが後の“大逆転”への布石となる。

この続きをみるには

この続き: 5,220文字 / 画像2枚
この記事が含まれているマガジンを購読する
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に幅広いテーマの記事を配信しています。政治家や経営者のインタビュー、芸能人の対談、作家のエッセイ、渾身の調査報道、一流作家の連載小説、心揺さぶるノンフィクション……月額900円でビジネスにも役立つ幅広い「教養」が身につきます。

文藝春秋digital

月額900円

一流の作家や知識人、ジャーナリストによる記事・論考・ルポルタージュなどを毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記…

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
文藝春秋digital

記事へのご意見・ご感想をお待ちしています。「#みんなの文藝春秋」をつけてご自身のnoteにお書きください。編集部がマガジンにピックアップします。皆さんの投稿、お待ちしています!

ありがとうございます!
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に、一流の作家や知識人による記事・論考を毎日配信。執筆陣のオンラインイベントも毎月開催中。月額900円で記事読み放題&イベント見放題のサービスです。