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コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」 まな板の上から考える|中島岳志

多くの専門家が指摘しているように、コロナウイルス拡大の背景には、環境破壊の問題がある。行き過ぎた自然破壊によって、これまで接触機会のなかった動物に接近し、ウイルスが人間に引っ越ししているのだ。ウイルスにとって人間は、都合のいい乗り物である。人間は移動し、社交する。そのため自己増殖のチャンスが頻繁に訪れる。私たちは、真剣に環境問題と向き合い、生活様式を見つめ直さなければ、繰り返しパンデミックに襲われるだろう。未知のウイルスが、もう次に控えているのだ。

しかし、環境問題は遠い。アマゾンの森林伐採を見ると「何とかしなければ」と思うものの、どうしても日常から距離がある。問題意識が持続しない。そのような中、繰り返し読んだのが土井善晴『一汁一菜でよいという提案』だった。土井にとって、料理とは自然との交わりである。大切なことは、素材の力に委ねること。混ぜすぎてはいけない。計りすぎてもいけない。力ずくで料理を行うと、自然のおいしさが逃げていく。土井は、「人間業ではない」おいしさを追求する。味噌の中には、すでに生態系がある。ご飯や味噌汁は、「小さな大自然」であり、食事はミクロコスモスを取り込むことで、マクロコスモスとつながる行為である。土井の料理論は、宗教哲学と隣接している。まな板の上から、環境問題を考えたいと思った。

高田宏臣『土中環境』は、土の中に広がる生態系に注目し、近年多発する土砂崩れや土石流の原因に迫る。そして、自然に沿う知恵を身につけた古の行者・修行僧に注目し、人間と自然の関係性に迫る。

外出自粛生活を送る中、何度も頁をめくったのが『熊谷守一 わたしはわたし』だった。熊谷は76歳の時に軽い脳卒中で倒れてから、約20年間、ほとんど外出しなかった。元祖ステイホームと言ってよい存在だ。彼は一日中、庭の草木や虫、動物を観察し、絵を描いた。身近なところに、ポストコロナの価値は存在する。

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