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マルチ商法はハマった人が悪い? 被害者たちの声が“閉ざされた世界”をこじ開けた

文・ズュータン
会社員。マルチ商法にハマっていた妻が、ある日突然娘を連れてマルチ商法の上位会員の家で生活をはじめる。それをきっかけに妻に何が起こっていたかを知るため、マルチ商法の情報収集と情報発信を開始。しだいに同じような境遇にある人たちの声が集まり、彼らの語りを記録する。その数は2016年から現在まで約70人。そのいくつかを公開した記事はnoteで30万PVを超え大きな反響を呼ぶ。

日曜の夜にツイッターを見る習慣がある。その夜もいつものように見てみるとメッセージリクエストの通知が溜まっていた。どれも冒頭の一行は「著書を読みました」。僕の本の感想が届いたのだ。だが続きを読む勇気がない。批判かもと不安だったから。それでも意を決して読んでみると、どれも「つらい経験を書いてくれてありがとう」「マルチ商法への認識が甘かったです」「友達に勧めます」という好意的なメッセージだった。

僕は『妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話。』(ポプラ社)という本を上梓した。内容はタイトルそのまま。元妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した経験と、同じように身近な人がマルチ商法にハマった経験を持つ人達に話を聞かせてもらった7年間の記録である。配偶者がハマった人、子どもがハマってしまった人、小さなころから親がハマっていた人、恋人や友人がハマってしまった人。心に深い傷を残した彼らのエピソードから、マルチ商法でしんどさを抱えて生きているのは僕だけではないことを知った。僕の7年なんて、まだ甘いと思えるほどに。

被害者が声をあげなければマルチ商法の問題はどうしようもないと言われることがある。しかしマルチ商法はイメージがすこぶる悪い。相談しただけで嫌な顔をされる。たいていは「稼げないとわかればやめるよ」ともの知り顔で言われたり、「売り方は悪いけどモノはいいから」と笑い交じりに言われる。あげくの果てには「一緒に暮らしているのになぜ防げないの? 家族のコミュニケーション不足じゃないの?」と落ち度を責められることもめずらしくない。そうした経験を重ねるうち、声を上げることすらできなくなる。社会に口を塞がれてしまうのだ。それなのに声を上げなければとはハードルが高い。僕自身、自分の経験を文章にするのに7年もかかっているのだから。

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