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「あべぴょん」「安倍侍」「アベ」…“首相のキャラクター化”は菅新政権でどう進むか|辻田真佐憲

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※本連載は第23回です。最初から読む方はこちら。

 7年8ヶ月に及んだ2度目の安倍政権は、指導者が徹底的にキャラクター化された政権でもあった。

「#自民党2019」の“イケメン風”「安倍侍」は記憶に新しいが、こうした例は枚挙にいとまがない。2013年配信のスマホゲーム「あべぴょん」、2017年配布のLINEスタンプ「思ったより使える♪総裁スタンプ」では、そのゆるい名称からわかるように、首相(自民党の企画なので「総裁」名義だが、一般の有権者からすれば大差ない)が“かわいらしく”デフォルメされた。

 好感度アップという点では、積極的なメディア展開も見逃せない。安倍首相は2014年に「笑っていいとも!」、2019年に吉本新喜劇にそれぞれ出演。いずれも現職首相としてはじめての試みだった。その間も、ツイッターやインスタグラムなどで、芸能人との交流をアピールすることを忘れなかった。

 ほかにも言及すべき点は少なくないが、そこで一貫していたのは、「いかに中間層を掴みに行くか」という飽くなき努力だったといえよう。なにがあっても支持してくれる「安倍信者」には宣伝しても仕方ないし、逆に「安倍憎し」のアンチは絶対に支持してくれないのだから宣伝する意味がない。

 本当にリーチすべきは、そのあいだに漂う中間層だ。そのために、最新のエンタメを取り入れながら、「かっこいい」「かわいい」「キラキラしている」ポジティブな安倍首相のキャラクターが発信され続けたのである。それらは、政権に批判的な層には「なんだこれ、ふざけるな」と不評でも、政治自体にあまり興味がない層には「なんとなく、いいね」となった可能性がある。

 このようなキャラクター化の背景には、2013年に公職選挙法が改正されネット選挙運動が解禁されたことと、ほぼ1年おきに国政選挙が行われたことの影響が大きい。いかに支持率が下がっても、選挙に勝てばリセットでき、求心力を維持できる。「選挙必勝政権」が「イメージ重視政権」となるのは、けっしてふしぎなことではなかった。

 そこから考えると、菅新首相のイメージ戦略もおのずと見えてくる。いや、すでにここでも前政権の踏襲が行われているのではないか。叩き上げの実務家は「かっこいい」、イチゴやパンケーキは「かわいい」、そして令和おじさんは「キラキラしている」。解散総選挙も噂されるなかで、新首相のキャラクター化は水面下で進行しているかもしれない。

 そのいっぽうで、安倍首相は批判者からもキャラクター化された。「アベ」という記号は、バラバラなリベラル勢力にとって、大同団結のための旗幟だった。だが、それは相手に依存しているという点で、すでにして、相手の術中にはまっていた。

「#アベやめろ」などのハッシュタグは、いかに拡散しようと所詮ネガティブなものなので、仲間内でしか盛り上がることができない。潜在的な政権批判を掘り起こす効果が期待されたのかもしれないが、それも結局うまくいかなかった。

 そこには、すっかりマイノリティーになってしまったリベラル勢力の、「まだ自分たちには力があるはずだ」「自分たちが結集すれば政権を倒せるはずだ」という“マジョリティー意識”もあったのではないか。それが幻想だったことは、安倍首相の辞任会見後に急上昇した政権支持率などをみても明らかだろう。

 中間層を着実に取りに行く「かっこいい」「かわいい」「キラキラしている」イメージ戦略と、存在しないマジョリティーを掘り起こそうとするハッシュタグ運動。勝敗は明白だった。新首相が就任する前に、早くも「#スガやめろ」「#スガはやめろ」というハッシュタグが盛り上がったのは、リベラル勢にとって、むしろ暗い未来を予告している。

 もちろん、菅新首相が政権運営に失敗して、早々に有権者の支持を失うかもしれない。だが、それはあくまで敵失によるものだ。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という。政権を打ち倒そうとする者は、「不思議の勝ち」に期待するよりも、「不思議のない負け」にこそ関心を向けなければならないだろう。

(連載第23回)
★第24回を読む。

■辻田真佐憲(つじた・まさのり/Masanori TSUJITA)
1984年、大阪府生まれ。作家・近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、レビュー、インタビューなどを幅広く手がけている。著書に『天皇のお言葉』『大本営発表』『ふしぎな君が代』『日本の軍歌』(以上、幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)、『文部省の研究』(文春新書)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)、『愛国とレコード』(えにし書房)などがある。監修に『満洲帝国ビジュアル大全』(洋泉社)など多数。軍事史学会正会員、日本文藝家協会会員。


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