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これからの選挙を左右する「リバタリアンの争奪戦」|三浦瑠麗

★前回の記事はこちら。
※本連載は第19回です。最初から読む方はこちら。

 前回は、危機の際に野党が埋没する危険を恐れるばかりに、本来政治を働かせるべき領域ではないところまで政治化してしまい、かえって政府の国民生活への介入を招く構造について取り上げました。

 ここのところ、新型コロナウイルスの話題ばかりで、食傷気味の方も多いでしょう。経済生活が停滞しているときにこそ、表面的な事象を超えて人間世界について考える時間をとるのに向いているのではないかと思います。小説を読んで人間性の本質に迫るのも良いし、すぐれた歴史の本を読むのもいいでしょう。心理学の分野からする社会分析を読むのもいい。重要なのは、いまの社会を把握するために、直接的な批判よりも一歩引いた立場で、友敵関係に巻き込まれずに物事を見通すことです。

 そうした視点で見れば、今回の新型コロナウイルス禍に際して展開したすべての問題は、人間世界がこの100年間に既に味わってきたことであるということが良く分かるでしょう。国際協力に背を向ける政府。禍を政治利用する極右や極左勢力。機能不全に陥る中道。パニックが呼び起こす差別。

 とりわけ、国際協力の放棄に関しては戦間期を彷彿とさせるところがあります。何が一番よいことかは分かっていたはずなのに、それぞれの政府が踏みとどまれずに自国中心主義へと走る。過去に起きた軍拡競争やブロック経済について言えることです。人びとは、今回イギリスが表明したように「もはやほかに道はない」のでじりじりと時間稼ぎをし、明るく乗り切ろうという発想にはなかなか到達できない傾向にあります。従って、余ったエネルギーを自分の良く知る敵に向ける傾向があるのです。

 さて、「構造」を考えるにあたって、世論を分析する意味は何なのでしょうか。本連載を通してご紹介してきた日本人の価値観分析が重要な理由は、歴史的にかたちづくられた現在の動機をとらまえることができるからです。現状分析には、未来を予測するための知見がふんだんに盛り込まれています。歴史研究の多くは、未来予測に関しては極めて抑制的です。現状分析と歴史研究は本来、対話や参照を通じて横断可能であることが望ましく、現状分析は歴史研究の成果の上に立脚していなければなりません。そして、同時に歴史研究にはない視点を提供することで、歴史研究を豊かにしていく材料でもあるのです。

 これまで本連載でご紹介してきた日本人価値観調査の分析は、現実政治に対する選択肢を示すところまでを射程に収めています。先日、私が客員主幹研究員をつとめる一般財団法人創発プラットフォームが主催するフォーラムで、「日本人価値観調査2019」を各党の国会議員向けに趣旨説明をする機会に恵まれました。つづくパネルディスカッションでは、自民党の世耕参議院自由民主党幹事長、逢坂立憲民主党政調会長と、フジテレビの平井解説委員にモデレーターをしていただいて議論を行いました。本日はそこで得た実感をお伝えしたいと思います。

イベントの様子

 私のプレゼンの結論は、これまで本連載で述べてきた通り、自民党も立憲民主党も自らのファン層を読み違えているところがある、というものでした。自民党は自分たちの支持層を社会保守であると思いこんでおり、実際に投票してくれた人のなかには社会的リベラルが案外多いことを知らない。逆に、立憲民主党は、参議院選挙を社会リベラル色の強いスローガンや候補者で戦いましたが、調査の回答者の2019年参院選における投票結果を見る限り、社会リベラル票の多くを取りこぼしているのです。

日本人の価値観が4象限に散らばっている理由とは?(2019年12月16日配信)
「自民」と「立民」 投票者の価値観を比較してみると……(2019年12月23日配信)
日本人の投票に影響する最大の要素とは? (2019年12月30日配信)

 自民党の優位は一にも二にも憲法と同盟をめぐるリアリズムの価値観の受け皿となっていることであり、経済や社会政策で多少自民党と価値観がずれていても、外交安保リアリズムの有権者の多くは自民党に投票するのです。
自民と立民のお二方は、調査結果の結論を概ね受け入れたうえで、今後政党としてどのようにファン層に適切にアピールするのか、あるいは開拓するのかという話に展開しました。

 世耕さんが述べたのは、これまで外交安保は票にならないという「常識」があったが、実はそうでもないのかもしれない、ということ。そして、自民党はある程度自覚的に行動しており、2015年の安保法制で攻めに出たのだ、としました。政権への支持を減らすリスクはあったが、あえて必要性を訴えることで違いを打ち出せたという認識でしょう。これは、自民党が意図的に、旧民主党や立憲民主党を安保左派の政党として位置付けることに成功したということを示しています。

 他方、逢坂さんのコメントは、立憲民主党は憲法が不磨の大典であるとは思っておらず、日米同盟も必要不可欠であると思っている。その点、政調会長がこうして安保現実主義の立場を述べているのに、世間のイメージが必ずしも立憲民主党を安保現実主義であるとは受け取ってくれていないのが残念だ、どうすれば伝わるのだろうか、というトーンでした。立憲民主党が打ち出したいのは「立憲主義」の論点であって憲法改正反対ではない。仮に政権交代したとしても外交政策は国として一貫しているべきで、180度変わるわけではないという立場です。

 社会政策に関しては、世耕さんは自民党としては支持層の価値観を読み違っている可能性はあるだろうし、このデータをもってすれば党内の議論もまた違ってくるという認識を示しました。

 そこで、モデレーターの平井さんの提案で、両党に対して、相手の得票を削り、自分たちの党への支持を広げられるような選挙公約は具体的に何かを提言することになりました。私が申し上げたのは、「これからは社会政策の革新性をめぐる闘争になるだろう」という見通しです。

 どういう意味かというと、これから10年、20年で一番価値観が変わってくるのがこの領域だからです。世代交代につれ、価値観は変化します。とりわけ社会政策においては変化が著しく、社会全体が徐々にリベラル寄りに遷移します。すでに、当該調査の回答者2060人の過半数が社会リベラルに分類されており、今後10年の間にさらに社会リベラルの人口は増えるだろうと思われます。そして、その10年こそ、まさに国際秩序の変動により、大きな変化が日本に突き付けられるだろう10年なのです。

 外交安保政策を左右する国際構造が変化するに従い、国民の目からしても安保リアリズム以外の選択肢が見えなくなってきたとき、遠からず憲法と同盟をめぐる左右対立も解消するでしょう。そうすれば、経済政策をめぐる対立か、社会政策をめぐる対立が政治闘争の中心を占めることになる。しかし、条件が一定のもとでは、経済政策では与野党で差を出しにくく、また米国とは異なり、日本では極端な経済ポピュリズムの価値観を持つ人はごく少ないので、やはり社会政策をめぐる対立が大きな役割を果たすようになるはずです。

 そうすると、米国では4%しか存在しないが、日本では27%も存在する「リバタリアン」をどちらが取るかの争いになってくるわけです。この人びとは、社会的にはリベラルで、経済成長を重視する人たちです。つまり、社会政策的には旧来の自民党になじまない考え方を持っているが、経済成長を重視しているために自民党に投票する動機も持っている人たちです。この中の相当数の人びとが、安全保障ではリアリズムを重視してきたために、自民党はその票を問題なく取り込めた。しかし、安全保障で与野党に差がなければ、必ずしもこの人たちは自民党に投票する必要がなくなります。

 この問題提起に対して世耕さんと逢坂さんがどのように答えたのか。それについては来週に書くことにします。

★次週に続く。

■三浦瑠麗(みうら・るり)
1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、現在は山猫総合研究所代表。著書に『日本に絶望している人のための政治入門』『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『21世紀の戦争と平和』(新潮社)などがある。
※本連載は、毎週月曜日に配信します。


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