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平松洋子さんの「今月の必読書」…『もう一つの衣服、ホームウエア 家で着るアパレル史』

もっとも素肌に近いファッションの変遷

トレンドより、着心地のよさ。コロナ禍中、外出がままならず、家にいる時間が増えた。自宅で長く過ごすようになれば、おのずと快適さを意識するようになるのは当然のなりゆきだろう。私にしても、この1年余り、新たに買い求めたのは家で着るものばかりだ。

本書の著者は、世界中のファッション動向を見続けてきたアパレル専門の記者。「ファッションや衣服から見落とされている」衣服として「ホームウェア」を位置づけ、光を当てる。確かに、ファッションの歴史や文化は熱心に語られても、他者の視線が介入しない「ホームウェア」は、可視化されにくい。

家のなかでの衣服は、以前は「スリープウェア」(パジャマや浴衣)、「ナイトウェア」(すっかり死語になったが、ネグリジェ)などのカテゴリーがあった。その枠を崩したのは、1970年、ワコールが名づけて提案した「パーソナルウェア」。これが、自分の時間を気軽に楽しむ「ホームウェア」の先駆けとなり、衣服の快適性とライフスタイルが結びつく。

その足取りを知るにつけ驚かされるのは、プライベートな衣服と社会のありさまが直結しているという事実だ。たとえば、産業構造の変化。企画・製造から販売まで担う製造小売の台頭、カタログやオンラインで行う無店舗販売の増加、販売チャネルを多方向に押し進めるうえでIT産業の発展も大きく関わっている。また、SNSの浸透は、デザイナーはもとよりアパレル関係者と消費者を大きく近づけた、と著者は指摘している。

いっぽう、個人の関心は健康志向を高め続けている。

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