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坂上忍×有働由美子「一線を越えないテレビはつまらない」

news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、俳優・タレントの坂上忍さんです。

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坂上さんと有働キャスター
衣装協力:BEIGE,(オンワード樫山 お客様相談室 TEL.0120‐58‐6300)

私財を投じて動物保護ハウスをオープン

有働 千葉県袖ケ浦市にある坂上忍さんの動物保護ハウス「さかがみ家」にお邪魔しています。広いドッグランですねー! この黒いワンちゃんの名前は何ですか?

坂上 アキちゃんです。犬種はラブラドール・レトリバーで、僕が個人的に保護しました。6歳ですけど精神年齢は1歳くらい。あまり人に構われたことがなかったんでしょうが、今ではトイレもちゃんとできるようになりました。

有働 今年4月1日まで8年にわたり『バイキング』(フジテレビ系)で「お昼の顔」として活躍されて。番組卒業後、どうされるのかと注目していたら、4月に私財を投じて「さかがみ家」をオープン。今、ここでは飼育放棄されたワンちゃん5頭とネコちゃん10匹(5月18日時点)を預かっているそうですね。アキちゃんは、さかがみ家にはどういう経緯で来た子ですか。

坂上 大型犬の保護活動をしている(タレントの)森泉ちゃんが「1頭お願いできませんか」とアキちゃんの写メを送ってきたんです。2頭引き取るはずだった方が土壇場になって「やっぱりやめます」と言ってきたそうです。泉ちゃんが1頭を引き取り、この子をフジテレビの駐車場まで連れてきました。

有働 テレビ局で引き渡し(笑)。ここの敷地は4500坪だとか。

坂上 平地が1500坪あって、1期目の工事でそこをすべて整えました。手つかずの3000坪は池なんですよ。冗談で「レンコンでも作って儲けるか」という話はしています。でも、調べてもらったら、初出荷までに3年かかるらしくて。

有働 (笑)。1階が犬の部屋で2階が猫の部屋。驚いたのが、キャットランがあること。初めて見ました。

坂上 みんな喜んでいて、猫は水が嫌いと言われるけど、雨の日も遊んでいますね。

有働 保護した犬、猫が心身共に健康になるまで面倒を見て里親に引き渡すまでが「さかがみ家」の役目。もう里親への譲渡も開始されているんですよね。

坂上 はい。譲渡会で「この子は人懐っこくていい子ですよ」と案内しながら、行ってほしくない気持ちもある。(猫をあやしながら)「おれはどこにも行かないニャン!」

有働 うわあー、お父さんの顔だ(笑)。坂上さんのご自宅には何匹いらっしゃるのですか。

坂上 犬猫合わせて20います。

有働 ひぇ~、大家族のお父さんなんだ! 「さかがみ家」をオープンしてからの生活はどうですか。

坂上 最初の1か月は何やっているんだろうというくらい忙しかったです。僕自身がここに泊まって、スタッフさんとお世話のやり方を決めていくので疲れましたね。シフト制になっているので、翌日入る人に伝えながらも、マイナーチェンジを繰り返す日々で。この子(動物)たちも2週間くらいは大変でしたけど、今は落ち着いてくれました。

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「さかがみ家」のキャットラン

動物保護で稼げるように

有働 坂上マネーがあるとはいえ運営費はかなりかかりますよね。

坂上 今は何の収益もないので、出ていくだけです(笑)。なので独自に収益を上げて動物保護を持続可能な事業にしたいと考えています。

有働 いろんな動物保護団体や活動がありますけど、寄付やクラウドファンディングで資金を募るところが多い印象があります。寄付などに頼らないのはなぜですか?

坂上 1番の理由は、善意はいつまで続くかわからないからです。多くの活動が寄付やボランティアといった善意に頼っています。例えば、企業が1社ついていても、コロナ禍のような事態で突然支援が取りやめになることも。そうなると、運営が不安定になり動物をお世話する人間が疲れ果ててしまうんです。

有働 人間の感情は動物に伝わりますよね。

坂上 僕には長年お付き合いさせていただいている彼女さんがいるんですけど、僕らが本気でケンカすると、うちの子たちが悲しむんですよ。彼らに不安な顔をさせちゃダメだから人間側がケンカのやり方を覚えましょう、となったこともあります。

保護活動も同じで、お世話する人間が疲れちゃったら、動物だって楽しいわけがない。それに狭い環境で1頭でも多くの子を救いたいとケージに詰め込んでも、衛生面の問題もあるわけです。だからまずは環境を整えて、人間が安心、安定してお世話をするための対価を払わないとダメだと思ったんです。そのためにお金を稼がないといけないんです。

打倒ペットショップ

有働 そもそも、坂上さんが動物保護の活動に関心を抱いたのはなぜなんですか。

坂上 元々犬も猫も大好きで、昔はペットショップで犬を買っていたんです。「どうせ殺処分されちゃうんじゃないの」と売れ残りの子を買って、これも保護のうちという感覚でした。でも買う人がいるから売るんだよなと考えて、最終的に売れ残った子たちの末路や、買われても安易に捨てられる現状を知るうちにお金で動物を買ってはいけないなと、僕は思った。それで自分なりに動物保護の活動を勉強しはじめました。

有働 ちょっと嫌な質問をしてもいいですか。動物保護の難しさって、たとえば「さかがみ家」が保護できるのは50頭までですよね。50の命は守れても、ペットショップを含めた環境が変わらないと根本的解決にならないんじゃないですか。

坂上 おっしゃる通り、いたちごっこです。ただ、僕が生きている間はこの国からペットショップがなくなることはない。じゃあ何をすべきかというと、いかにペットショップの売上を減らせるか、なんです。

有働 というのは?

坂上 保護動物自体が皆さんに知られているようで十分知られていないんです。僕からすると、なんでわざわざ100万円ちかく出してフレンチブルドッグを買わないといけないんだよと。「そんなことしなくても、保護犬、保護猫だって癖はあるけどこんなにかわいいんだよ」というのを広めてペットショップの売上を落としていきたい。そんなことを画策しているんですよ。

有働 なるほど。

坂上 一方で、日本全国に保護団体がたくさんあって、僕が今回引き取らせていただいた団体さんだとボランティアを100人くらい抱えているんです。今まで目の前のこの子たちを何とかしなきゃと汗水垂らしてバラバラに頑張っていらっしゃった方々が、横の繋がりを作ったら、数の力が生まれる。例えば(飼養頭数を制限する)動物愛護管理法の改正を訴えるにしても、束になって交渉しないと国に相手にしてもらえないので。

有働 ただ、横の繋がりを作ると、政治的な動きになるんじゃないですか。政治家を抜きにしても。

坂上 政治的な動きになるか、あるいは皆がどこかで寄付頼みは怖いと思っているので、やっぱり利益を出さないといけないですよね。

なぜ芸能活動を続けるのか

有働 ビジネス化の展望は、レンコン栽培以外にあるんですか?

坂上 レンコン以外にありますよ(笑)。僕は反則技を使ってでも稼ぐと公言しているので。

有働 反則技って何だろう。

坂上 自分の名前を使うビジネスも、世間体を気にせずやります。坂上忍のドッグフード、とかね。

有働 ああ、そういうことか!

坂上 「お前だからできるんだろう」と言われても、何が悪いんですか、と。僕は顔が知られているのでインチキができない。売りはそれだけです。

有働 信用ですよね。

坂上 そうです、僕の売りはそれしかありません。だから、取引先にも「あなたたちもインチキできませんよ」と交渉しています。

有働 そこまで力を入れるのは、目の前の子たちをハッピーにするため? それとも殺処分される子を減らすためですか?

坂上 両方ですね。今お話しした目先のことが実現したら、ビジネスモデルをフランチャイズ化して広めていきたいなと。

有働 芸能活動を続けられるのは動物保護活動のためですか。

坂上 僕は還暦までの残り5年で「さかがみ家」を安定させたい。逆算して、フジテレビの昼の帯番組『バイキング』をやめた4月からは、テレビの仕事は月15日、残り半分は保護活動にあてています。本当はテレビの仕事は3日くらいにしたいですけど、これまでお世話になってさすがに急には辞められない。レギュラー番組も抱えているので、ぎゅっとまとめれば15日で何とかなるだろうとスケジューリングしてもらっています。

時事ネタが勝ち目だった

有働 私、子どもの頃からテレビで坂上さんを見ているので、ものすごい年上の方かと思っていたら、1学年違いでビックリしました。

坂上 そこまでジジイじゃないです(笑)。

有働 すいません(笑)。『バイキング』もそうでしたけど、年配の方だからあれだけはっきりものをおっしゃれるんだなと思っていたので。

坂上 分不相応に言っていただけです。

有働 『バイキング』をやめてどうですか。

坂上 やめた後の1か月の方が保護活動で忙しかったので。逆に休みを取っていたら、ドッと疲れが出て寝込んでいたかもしれないですね。

有働 わかる気がする。

坂上 でも、自分じゃわからないんですけど、周りの人からは「表情が柔らかくなりましたね」と結構言われます。あと、どこでそういう話になったのか「じゃあ、芸能活動は引退されるんですか?」と、よく聞かれます。

有働 うんうん。『バイキング』って性に合っていたんですか。

坂上 性に合う合わないより、乗りかかった船のイメージです。最初は月曜日だけやらせてもらって、ローカル番組みたいなノリで好き勝手やっていたのが、1年足らずで帯でお願いできないかと言われて。もし番組が早く終わっていたら、もっと楽な8年間だったのにと思ったりもしますけど、とにかくどうしたらこの番組が生き残れるかと勝ち目を探すことしか考えませんでした。

有働 その答えが、時事問題で、皆で討論する形だったと。

坂上 最初は全然違ったんです。出演者も、急に情報番組に衣替えされたって時事ネタを話せないから。

有働 そうですよね。楽しくて好感度が上がる番組かと思って出演したら、時事ネタで本音を言えば叩かれるわ炎上するわ、何なら好感度まで下がりかねませんものね。

坂上 最初は、専門家の人たちと僕とで8割喋ろうと決めたんです。2割なら話してくれる人もきっといるはずだからと。だから僕が思ったことをしゃべりたくてしゃべっていたわけじゃなくて、時間が埋まらないから話さざるを得ない状況だっただけなんですよ。

有働 そうでしたか。でも、勝ち目は時事問題だと。

坂上 視聴率が全然違いました。2年目の秋だったか、僕から「時事を試してもらえませんか」と言って、単発でやったら視聴率が1.5倍くらいになって。結果が出たんだから続ければいいんじゃんと言ったんですけど、なかなか応じてもらえなくて。2か月後くらいにもう1回やってもらったら、同じ反応です。

有働 視聴率が違う?

坂上 はい。まず、隔週の金曜日だけで始めたら、やっぱり反応が違う。1週間の連動性がなくても反応することから、もうこれしかないと局が踏ん切りをつけた。3年目からですかね、オール時事の番組へと腹をくくってくれたのは。

有働 MC(司会者)も腹をくくらないといけませんよね。

坂上 僕はしょせん芝居の世界からバラエティに寄らせてもらっている立場。偉そうに司会者ぶることだけはやめようと思っていたので、誰よりも自分の意見を言っちゃう司会っぽいおじさんでいいやと割り切っていました。何回かやっていると、「このニュースはちょっと……」と皆の口が重くなるのがわかるんですね。その場合は僕が初めに思っていることを全部言う。そうすると、炎上するのは僕になるので。

有働 他の出演者じゃなくて。

坂上 皆さんも「あ、燃えた」と思うから。「でも僕はこう思うよ」というチョイ燃えが続いてくるようになると、番組全体が面白くなってきますね。

批判に興味がない

有働 でも長く続けていると世間の声が気になってきませんか。

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