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「専守防衛」「非核三原則」を議論せよ 元統合幕僚長・折木良一
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「専守防衛」「非核三原則」を議論せよ 元統合幕僚長・折木良一

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冷戦時代の思考では国は守れない。/文・折木良一(元統合幕僚長) 

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折木氏

序:中国と北朝鮮の脅威は今そこにある

昨年11月27日、「新たな『国家安全保障戦略』に求められるもの~激動する国際情勢に立ち向かうために~」と題した政策提言をまとめた。議論を始めたのは昨年2月。陸海空自衛隊の将官と防衛事務次官を務めたOB8人が東京・市ケ谷のビルに集まり、1回約2時間、計20回の議論を重ねた。政府の国家安全保障局や防衛省には、重要な点を説明したうえで提出した。

なぜ、この提言をまとめたのか。それは、私たち8人が現在の国家安全保障戦略は日本を取り巻く環境に十分対応できていないのではないかという危機感を共有していたからだ。現在の戦略が発表されたのは、私が退官した直後の2013年末であり、すでに10年近く前になる。当時と比べ、中国や北朝鮮の脅威は格段に深刻さを増した。安全保障の舞台は従来の陸海空から、宇宙やサイバー、電磁波などの「新領域」に広がり、経済や科学技術との関係も無視できなくなっている。

幸い、岸田文雄首相は今年末までに、国家安全保障戦略と防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の防衛3文書を改定すると語っている。私も2月初め、政府による改定作業のための意見聴取に参加した。

日本の平和は戦後長く続いている。もちろん、私たちもあくまでも日本の平和、アジア太平洋地域の平和が末永く保たれることを願っている。一方で、アメリカは世界を圧倒する軍事大国ではなく、中国は十分対抗できる勢力となりつつあり、北朝鮮の核ミサイルはグアム島を射程圏内に入れるまで能力を向上させた。世界情勢は、この10年で大きく変わったのだ。今、ウクライナでは国際秩序を無視したロシアによる現状変更が行われ、国際社会は揺れている。

民主主義社会においては、安全保障戦略もまた国民の総意に基づくものであることが理想だ。反対の意見はもちろんあるだろう。しかし、従来通りの安全保障観に閉じこもっていては日本の将来に禍根を残す。1人でも多くの人々に関心を持ち議論に加わって欲しいとの思いからこの提言をまとめた。今後、これを読んだ方々から様々な意見が生まれてくれれば、これほどうれしいことはない。

1:「専守防衛」を見直し、「反撃能力」を持つべし

私たちは提言で、「議論が必要と思われる防衛政策」として、3つの項目を挙げた。(1)「専守防衛」の見直し、(2)「総合的な抑止戦略」の構築、(3)防衛費のGDP(国内総生産)比2%への増額だ。

このうち、まず、なぜ専守防衛の見直しが必要なのかを説明したい。わが国で初めて専守防衛の理念を正式に説明したのは、1970年に発表された初めての防衛白書「日本の防衛」だった。ここで「わが国の防衛は、専守防衛を本旨とする」と明記され、「専守防衛は、憲法を守り、国土防衛に徹するという考え方である」と定義している。当時の日本は佐藤栄作内閣で、国際社会はデタント(緊張緩和)の時代であり、最大の脅威はソ連で、中国に対外進出の意欲はなかった。

定義された専守防衛には抑止力の概念が含まれていない。国土防衛には、「相手に攻撃を仕掛ければ痛い目に遭う」と思わせる「抑止力」が重要だが、この「抑止力」について、極論すれば日本は米国に任せっきりだった。自衛隊は、「攻めてきたら領土内で守る」という受動的で必要最小限の「対処」を考えるだけで済ませていたのだ。しかし、それは冷戦時代のソ連を除き米国の軍事力に挑戦しようとする国が一国もなかった時代だから許されたことを認識する必要がある。

日本は「盾」、米国は「矛」という完全な役割分担の時代は終わった。専守防衛を国是とする以上、先制攻撃を行うわけにはいかないが、相手に「日本を攻撃すれば、同じような反撃に遭うから攻撃はやめておこう」と踏み止まらせる抑止力は、米国に頼るばかりではなく自前で補う必要がある。

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