新世界地政学_船橋洋一

船橋洋一の新世界地政学 窃書は盗みにあらず

今、世界では何が起きているのか? ジャーナリストの船橋洋一さんが最新の国際情勢を読み解きます。

 中国とシリコンバレーのどちらが進んでいるのか?

「中国がまだ遅れている」

「どのくらい?」

「16時間」

 カリフォルニアと北京の時差は16時間である。その分、遅れているというのだが、実際は、両者の差は時差の差でしかないということを言おうとしている。

 シリコンバレーで、そんな会話を聞いたのが2年程前である。

 中国で、シリコンバレーを脅かすほどの目覚しい技術革新が起こっている。モバイル・ペイメントとバイク・シェアリングの2つが中国式革新に弾みをつけた。モバイル・ペイメントは中国の金融を変革させ、バイク・シェアリングは中国の都市の風景を激変させた。

 こうした中国式革新を駆動するのがAIであり、AIを毎秒、よりスマートにするデータ(data training)である。このデータが機械学習のアルゴリズムの燃料となる。テンセントのSNSであるWeChatには日々、10億人のユーザーのデータが流れ込む。

 中国は、世界のAIスタートアップへの投資額の半分を占めている。2018年、中国が発表したAI関連の論文数は米国より4分の1、多かった。引用数では米国の2倍、特許の数は米国の3倍。

 中国式革新を引っ張るのは、アリババ、テンセント、バイドゥといった中国のプラットフォーマーである。

 自動走行の開発、実装では、自動車企業ではなくテンセントが主役である。テンセントはまた、成都などの病院と提携し、携帯(APP)1つで診療が受けられる医療の電子化を進め、1日8万〜10万人のデータをクラウドに集めている。政府(科学技術部)は18年、テンセントを医療のプラットフォームに指定、後押ししている。「AIは、中国が始めて西欧と肩を並べる立ち位置に到達した分野である」とカイフー・リーは近著『AI超大国』の中で記している。

 中国は、AIのほか自動運転や5Gなどの分野でも果敢に技術を社会に実装している。従来のビジネスモデルを飛び越える「カエル飛び効果」、顧客からデータを吸い上げ、解析する「フィードバック効果」、社会監視を完璧にするため、行動の点数化による人々の自発的服従を促す「社会点数効果」を最大限、利用している。

 中国式革新には、国家の“見える手”が大きな役割を果たしている。モバイル・ペイメントが登場した際、中国の銀行がつぶそうと圧力をかけたが、中国政府はプラットフォーマーと銀行との提携を促し、この技術革新を支援した。

 知的所有権も運用を緩くし、民間企業の抜け穴利用を黙認した。

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