見出し画像

2つの教え|ウスビ・サコ

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、ウスビ・サコさん(京都精華大学学長)です。

2つの教え

アフリカのマリ共和国で生まれた私は、幼少期を首都・バマコで過ごした。税関職員の父、専業主婦の母、妹と弟と私という5人家族だったが、当時の実家には他にも大勢の人間がいた。父方の祖母、伯母、従兄弟のような近い親戚から、親戚の知り合いの知り合いというよく分からない人まで、20~30人ほどの人間が我が家で生活をしていたのだ。これはマリでは珍しいことではない。

家では父は寡黙だったが、“絶対的な存在”だった。こんな事件があった。一緒に住んでいた従兄が、何か気に入らないことがあったようで家出をしたのだ。2~3日経ってから戻ってきた従兄に父は、「あなたはもうこの家には必要ない」とだけ言った。父が決めたことを誰も覆すことは出来ない。住む場所がなくなり困った従兄は、他の親戚を片っ端から当たったようだった。親戚から家に交渉の連絡が来ることもあったが、結局、父が話に応じることはなかった。

ここから先は

545字
noteで展開する「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。同じ記事は、新サービス「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。新規登録なら「月あたり450円」から。詳しくはこちら→ https://bunshun.jp/bungeishunju

文藝春秋digital

¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…

「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了しました。今後は「文藝春秋 電子版」https://bunshun.jp/bungeishunju をご利用ください