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【イベントレポート】文藝春秋カンファレンス 「Blockchain×Social Impact」 バーチャルで稼ぐ、新しい価値観を創る リアルとデジタルの融合がもたらすビジネスの未踏領域

文藝春秋カンファレンス「Blockchain×Social Impact」」が12月17日(金)、オンラインで開催された。デジタルコンテンツの所有権を管理できる「NFT」(Non-Fungible Token、非代替性トークン)が2021年の流行語大賞にノミネートされるなど、注目が高まるブロックチェーン技術の可能性、活用法について各領域の第一人者が考察した。

◆オープニングスピーチ

「ブロックチェーンの可能性」

野口先生

一橋大学
名誉教授
野口 悠紀雄氏

経済取引において情報が改ざんされないことは必須条件だ。従来は銀行など信頼のある機関が記録管理を担ってきたが、ブロックチェーン技術はデジタル情報を改ざんできない形での記録・保存を可能にする。「信頼できる情報があれば、組織が介在しなくても取引は可能になる」と野口悠紀雄氏はブロックチェーンの意義を説明した。

応用の対象は、仮想通貨から、金融機関を介さずに融資などの金融取引を行うDeFi(Decentralized Finance、ディーファイ、分散型金融)などに拡大。NFTは仮想空間の土地建物の所有、取引も可能にした。

また、契約書、不動産登記や、公文書の改ざん防止にもブロックチェーンが活用できる。本人確認も、従来の印鑑に相当する電子署名と、印鑑証明に相当する電子証明書の組み合わせによる電子認証が可能になった。電子証明書の一種であるマイナンバーカードは、個人情報保護の問題も指摘されるが、さまざまな活用の可能性があり「ブロックチェーンを使った分散型IDで個人情報保護の問題は解決できる」と金融面以外の応用に期待した。

野口先生㈪

野口氏は、ブロックチェーンにスマートコントラクト(あらかじめ決められた条件を満たした場合に契約を自動執行する仕組み)を書き込めば、経営者不在で自動運営できる事業組織、DAO(Decentralized Autonomous Organization)が可能になり、労働者に代わってロボットを使う自動化と合わせ、完全自動化された会社が成立する可能性にも言及。未来社会に向けて「人でなければできない仕事を生み出すことも重要だ」と語った。

◆特別講演 CxOアジェンダ セッション

「ブロックチェーン×ヘルスケア」 ~ 拡張と深化の先へ ~

宮田先生

慶應義塾大学
医学部医療政策・管理学教室教授
宮田 裕章氏

桂さん

PwCコンサルティング合同会社
テクノロジーコンサルティングリーダー パートナー
桂 憲司氏

コロナ下の国境往来時に、ワクチン接種履歴や検査結果などの健康情報を確認できるデジタル証明書「コモンパス」のプロジェクトをはじめ、ヘルスケア領域のデータ活用に取り組んでいる慶応義塾大学の宮田裕章氏は、PwCコンサルティング合同会社(以下PwC)の桂憲司氏との対談で、データ管理の方向性について語った

コモンパスのデータは、国の機関などによる一元管理も可能だが、管理主体が正しいことは保障されない。また、個人情報保護の点からも、漏えいリスクが高い集中管理は望ましくない。そのため「分散管理したデータに本人がアクセスして、改ざんをチェックできる環境を重視した」という。

プライバシー性の高いデータは「ブロックチェーンを使って分散管理し、本人がデータの使われ方を追跡・確認できるようにした上で、同意を得て適宜、必要なデータだけを収集、結合し、本人のためにもなる新しい価値を共創すべき」と、分散管理と個人を軸としたデータ管理と共創型の活用を提案。こうした仕組みで、コロナ対策に関する、ワクチン接種、検査結果、店の感染対策などの情報をつなげば、一律の営業自粛と異なり、感染状況や重症化率に応じた、きめ細かなコントロールも可能とした。

対談風景

自社の感染対策の説明責任を求められる企業も、プライバシーを守って、従業員の体調管理、予防を促す仕組みを構築できる。今後のビジネスは、個々の消費者の状況、気分に合わせた体験価値の提供がカギになる。巨大プラットフォーマーがない日本の企業にとっては、ユーザーとの信頼関係を構築する共創型アプローチは「データ活用の有望な選択肢にもなる」と語った。

◆グローバルアジェンダ

イーサリアムが解決する社会課題、世界課題

宮口さん

イーサリアム・ファウンデーション
エグゼクティブ・ディレクター
宮口 あや氏

暗号資産をはじめとする多様な分散型アプリケーションを作れるブロックチェーン基盤、イーサリアムの普及を進めるイーサリアム・ファウンデーション(EF)の宮口あや氏は「分散にこだわり、中央集権が抱える問題を解決して既存の仕組みを改善し、真のソーシャルインパクトにつなげていきたい」と語った。

イーサリアム上では、金融、不動産、サプライチェーン、ゲームなど、さまざまな業界のプロジェクトを進めることができる。暗号資産イーサ、分散型金融(DeFi)、NFTなどは利用例の一部だ。その特徴は、情報や価値が1つの組織に所有されない分散化にある。研究開発はコミュニティ主体で進められ、運営やエコシステムも分散化が徹底されている。イーサリアム考案者のヴィタリック・ブテリンが創設したEFも現在は、研究開発のコーディネートや教育などのサポートが主要な役割となっている。

宮口さん㈪

「イーサリアムは分散化では妥協しない」と述べた宮口氏は、デジタル化の進展で、誰もが膨大な情報にアクセスできるようになった一方、政府や大企業が情報を一手に所有しコントロールしようとする動きも拡大していると指摘。「中央集権型システムが抱える機能不全や悪用のリスクといった問題こそが、イーサリアムの仕組みが解決したいこと」と述べ、アフリカの農家の天候被害に対する保険や、NFTとして登録されたデジタルアート作品の販売収益による途上国の学校のインターネット環境整備など、イーサリアムとその分散型ソリューションを使った社会課題解決のプロジェクトを紹介して、今後に期待した。

◆産官学アジェンダ ディスカッション

木原さん

衆議院議員
内閣官房副長官
木原 誠二氏

長瀬さん

経済産業省
商務情報政策局 情報産業課 課長補佐
長瀬 茂樹氏

高木さん

東京大学大学院
情報学環准教授
高木 聡一郎氏

久世さん

旭化成株式会社
常務執行役員 デジタル共創本部長
久世 和資氏

丸山さん

PwCコンサルティング合同会社
エマージングテクノロジー シニアマネージャー
Blockchain Laboratory所長
丸山 智浩氏

森さん

PwCコンサルティング合同会社
エマージングテクノロジー マネージャー
森 寿昭氏

産官学アジェンダのディスカッションは、PwCの森寿昭氏の司会で進められ、最初にPwCの丸山智浩氏が、誰でもネットワークに参加可能でき、非中央集権的なパブリック・ブロックチェーンをエンタープライズ領域で利用するチャレンジが始まっていると説明。「ブロックチェーンは、個社の競争優位を強化するためではなく、非競争領域で新しい市場を創るために活用すべきだ。そこで、産官学の協力のあり方を議論したい」と提起した。

自民党ブロックチェーン推進議員連盟会長の木原誠二氏は、海外ではブロックチェーンに関する国家戦略や関連法の整備が進んでいるとして、日本も国家戦略を策定すべきだと強調。戦略の重点項目を選定するため、産官学で情報共有が必要とした。国によるブロックチェーンの推進は、経済産業省がサプライチェーン管理への活用、金融庁がDeFiなど、縦割りになっている。木原氏は、デジタル庁に横串を刺す担当部門を設け、長崎市のブロックチェーンを使った電子契約システムも参考に、政府調達にも活用すべきという考えを示した。民間の取り組みの障害にもなる規制については、特区やサンドボックスの制度を使った緩和を進める一方、規制が必要なケースもあるとして、「産官学でイノベーションを殺さない規制を議論したい」と語った。

経産省で半導体戦略を担当する長瀬茂樹氏は、コロナ禍での半導体不足や、半導体需要の高まりに言及。巨額の損害を引き起こしている偽造半導体は大きな問題だという認識を示し、その対策としてブロックチェーンを活用したサプライチェーン管理に期待を示した。この仕組みは、強制労働の疑いのある組織を介していないことを証明する人権問題のほか、CO2排出量の証明による環境問題などにも応用できる有望な領域だ。経産省としても「サプライチェーン管理の標準化や事業化を後押ししていきたい」と語った。
 
東京大学の高木聡一郎氏は、ブロックチェーンに関する世界大学ランキングで、日本の大学の評価が低い現状に言及。自身もリサーチ・アソシエイトを務めるロンドン大学ブロックチェーン技術研究センターを例に、世界の評価を高めるには、学内でバラバラに行われているブロックチェーン関連の教育・研究を統合する組織が必要とした。また、大学は「新しい社会システムや技術的ブレークスルー」を志向するが、実装には「社会や企業のニーズに応じて技術を展開する人材が必要」として、異なる人材像のすり合わせ、棲み分けを考えるべきと指摘。開発中の技術の実践では「規制に抵触しないかという不安」が妨げになるとして、「探索的な取り組みに対する社会の許容度」向上を求め、実証だけでなく、実際の運用で学ぶことも大切だと訴えた。

産官学アジェンダ

旭化成の久世和資氏は、欧米で、サーキュラーエコノミー(循環経済)やCO2排出量を証明するプラットフォームの開発が進められていて「このままでは欧米のルールに従わなければならなくなり、対等な競争ができなくなる」と日本発のプラットフォーム開発の必要性を訴えた。同社はリサイクラー・成形加工メーカーや消費財のブランドオーナーらと共同で、プラスチック資源循環プロジェクト「BLUE Plastics」を推進。消費者の行動変容を促すため、リサイクルの過程を可視化するアプリ開発にも取り組み、加盟メンバーを広げてきた。一方で「民間だけの取り組みでは、興味はあっても、本気でデータを共有して連携しようという会社は限られる。国として、サーキュラーエコノミーのエコシステムを促進する仕組みを設けて欲しい」と訴えた。

最後に丸山氏が「ブロックチェーンを活用した非競争領域における新市場創造には、政産官学の協調が不可欠であり、このテーマで政産官学の有識者が一堂に会しディスカッションで問題点を共有したことは、次のブロックチェーン活用のステップに進む上で有意義だった」とまとめた。

◆未踏領域アジェンダ

藤本さん

株式会社グラコネ
代表取締役
藤本 真衣氏

せきぐちさん

VRアーティスト
せきぐちあいみ氏

岩永さん

エイベックス・テクノロジーズ株式会社
代表取締役
岩永 朝陽氏

小川さん

PwCコンサルティング合同会社
エマージングテクノロジー シニアアソシエイト
小川 博美氏
PwCコンサルティング合同会社
エマージングテクノロジー マネージャー
森 寿昭氏

未踏領域アジェンダは、ブロックチェーンの中でも注目されているNFTや、それを使って活動する3D仮想空間、メタバースについて議論した。

NFTに関する国内最大規模のカンファレンス「Non Fungble Tokyo」発起人で、NFTを使ったチャリティなどに携わる藤本真衣氏は、NFTで「コピー、改ざんが容易なデジタルデータに唯一無二の価値が生まれた」とする。NFTの規格が共通ならば、マーケットをまたぐ取引、ゲームをまたいだアイテム利用ができ、デジタル作品の二次流通(転売)で値上がり益の一部を作者に還元する仕組みもできると説明。NFTは「チャリティとの相性も良く、寄付者への還元など面白い機能を工夫することもできる」と話した。

高額落札が相次ぐNFTアートについて、VR空間で3D作品を制作する、せきぐちあいみ氏は「面白いけど、売ることができないデジタル作品をマネタイズできるのは大きい」と言う。YouTuberもしていた、せきぐち氏は「私がYouTubeを始めた当初も周囲の反応は冷ややかだったが、いつの間にか、みんなが使うようになった。NFTもそうなると思う」と予想。チャリティで販売した作品が高値で転売され、収益の一部が還元された経験に触れて「良い意味でお金が動き、社会のためになれば素晴らしい」と語った。

多くの音楽アーティストを抱えるエイベックスのグループ会社、エイベックス・テクノロジーズの岩永朝陽氏は「音楽会社の商材はデジタル化できるが、ユーザーが、NFTによる、何らかの権利を持つことで、どんな価値を創造できるかは未知の領域」と述べて、NFTを事業戦略にどう位置付けるかは、同社にとっての大きなポイントになるという考えを示した。

ディスカッション

ブロックチェーンやNFTのエバンジェリストを務め、個人でも音楽活動をするPwCの小川博美氏は、NFTは生産者と消費者の双方、特にYouTuberのような「プロシューマー」(生産にも関わる消費者)にメリットが大きいと指摘した。一方で、偽物がNFT化され、流通するケースもあり、NFT化される前に、作品自体が本物である証明を、分散型で行う「デジタルアセット銀行」が必要として「その展開に注力したい」と話した。

次のテーマはメタバース。岩永氏は「メタバースには様々な側面があり、一言でカバーするのは難しい」とした上で、①VR/AR空間、②Roblox(ロブロックス)などゲームプラットフォーム、③運営企業に依存しない仮想空間におけるNFTを使った自由な経済活動――を「総合したものがメタバースではないか。商売ができるのが重要なポイントだ」説明した。

小川氏は、「VR Chat」(VRチャット)などプラットフォーマーが提供するWeb2.0型、「Roblox」(ロブロックス)のようにユーザーが自作ゲームを売って稼ぐプロシューマーになるWeb2.5型、企業の運営から自律分散組織(DAO)で運営される形のプラットフォームが広がるWeb3.0型――の3つにメタバースを分類。「それぞれが市場を盛り上げるだろう」と語った。 

藤本氏は、モンスターの育成・バトルで仮想通貨を稼げるゲームAxie Infinity(アクシー・インフィニティ)で、コロナ禍で困窮した人が、生活を支えたというニュースを紹介。高騰したアクシー(モンスター)のレンタルビジネスなど仮想空間には「多様な経済活動が生まれている」と話した。

自身の作品を展示する美術館を仮想空間に作っているせきぐち氏は、車いすの人たちに仮想空間を体験して喜んでもらったことを紹介。「仮想空間は、限られた人しか関心がないと思われるかもしれないが、国境、ジェンダー、あらゆる障害を越えて人とつながることができる」と期待した。

2021年12月17日 オンラインにて開催 撮影/末永 裕樹
注:登壇者の所属・役職などは、イベント開催当時のものです。

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