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韓国人学者の告発「徴用工判決」は韓国の歴史歪曲だ

文・李宇衍(落星台経済研究所研究員)/ 取材・構成=黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)

 2018年10月30日、韓国の大法院(最高裁)は、朝鮮半島出身労働者が「戦時中に“強制徴用”された」と日本企業を損害賠償請求で提訴した裁判で、日本企業に対して1人あたり1億ウォン(約1千万円)の慰謝料の支払いを命じる判決を下しました。この判決が事実上の引き金となり、現在、日韓関係は史上最悪と言われるまでに拗れています。

 朝鮮半島出身労働者の“強制徴用”問題については、従来、日韓の間で1965年の日韓国交正常化の際の請求権協定で解決済みとされてきました。しかし大法院は「(元労働者の)個人の請求権は消滅していない」とし、日本企業に賠償を命じました。これは2017年に文在寅大統領が安倍晋三首相に電話で伝達していた内容と同じでした。その意味で今回の判決は文在寅大統領が指示したも同然だ――私はそう捉えています。

 大法院判決の大前提となっている「日本は戦時中に朝鮮半島出身労働者を“強制徴用”し、奴隷労働させた」という話は、韓国の歴史学界では今や常識となっており、国民的な共感もあります。

 しかし、「日本が朝鮮人労働者を強制連行し、奴隷労働させた」というのは、事実とは異なります。すなわち、2018年の大法院の判決は明らかな「歴史歪曲」に基づく荒唐無稽な判決なのです。

 私は朝鮮半島出身労働者の賃金体系を研究しています。客観的な事実関係から朝鮮半島出身労働者が日本に強制連行されて奴隷労働をさせられたと言い切ることはできないという結論に至りました。

 1939年9月から1945年8月15日に至る約6年間の戦時中、日本に渡って労働した朝鮮人労働者はおよそ73万人いました。その60パーセント以上が炭鉱や鉱山に行き、採炭などの仕事に従事しました。残りの約40パーセントは、過酷な仕事を嫌がって逃げ出し、もっと楽な工場や建設現場での仕事に就きました。

 韓国の学界では、一般的にこれを「労務動員」と呼びます。韓国人研究者たちは「この期間に動員された朝鮮人は日本の官憲によって強制的に連れて行かれた」「強制動員であった」と主張します。「憲兵が来て連れて行かれ、死ぬほど仕事をさせられ、虐待を受け、金は一銭も貰えなかった」というわけです。

 しかし、これは事実ではありません。私は、鉱山で当時どんな仕事が行われていたか、史料を分析しました。その結果、彼らが「強制動員」ではなかったと断言できる3つの根拠にたどり着きました。

 第1には、日本人労働者と朝鮮人労働者に賃金差がなかったことです。戦争前にも日本に渡った朝鮮人労働者はいて、日本人労働者と朝鮮人労働者の間に相当な賃金差があったのは事実です。しかし、「労務動員」が実施された1939年から1945年の間は、日本政府や日本企業は民族的差別を抑制していました。人種差別は生産性の低下を招き、総力戦で敗北をもたらすからです。この期間、日本人であろうと朝鮮人であろうと、賃金は成果給で支払われていました。日本人より多く賃金を受け取っていた朝鮮人もいた。鉱山でさえそのような労務環境だったのですから、それよりも楽な職場――工場や建設現場など――でことさら賃金差別が行われていたとは思えません。

 第2には、朝鮮人労働者の契約期間は2年と決まっていたことです。2年が終われば自分の意思で帰ることができたので、大部分は契約期間を延長せずにそのまま帰国しました。「契約期間がある奴隷」というのは常識的には考えられません。

 そして第3には、朝鮮人労働者の生活が自由だったことです。一晩中、花札をして夜を明かしたり、勤務が終われば市内に繰り出して痛飲し、翌日出勤できない場合さえありました。また、朝鮮人女性がいる「特別慰安所」に給金を握りしめて行き、放蕩する人も多かったそうです。もちろん、真面目な労働者も沢山いました。金を娯楽に費やさず、貯金をしたり、借金を返済したり、母国に送金したり、田畑を購入したりした人もいました。

日本は悪魔、韓国は天使

 このように、事実に基づく客観的な視点から見て「強制動員と奴隷労働」が嘘であることは明白です。にもかかわらず、なぜ韓国社会に間違った認識が根強く植えつけられてしまったのでしょうか。

 もっとも大きな影響を与えたのは、左翼系の在日朝鮮人の学者、朴慶植(1922年〜1998年)の言説です。戦前に日本に渡り、戦後は朝鮮総聯に入り、朝鮮中高級学校、朝鮮大学校で教えた人物で『朝鮮人強制連行の記録』(1965年)という本を書きました。慰安婦や労働者などの「強制連行説」を世に広めた人物と言っていいでしょう。「日帝が残酷に朝鮮人を搾取した」という日本経由の朴慶植の通説は、韓国の政府、学校などの教育機関、メディア業界、文化界などに甚大な影響を与え、それが韓国国民の一般的常識として定着し、現在に至る韓国の「反日種族主義」を作り上げたのです。

 天使が悪魔に何をしても良いように、韓国は日本には何をしても良い――このような認識体系を、私は「反日種族主義」と呼んでいます。日本は絶対悪、韓国(朝鮮)が絶対善という信仰に似た思い込みです。国際条約であっても「約束を覆すことへの罪悪感」は当然なく、疑問を持つ必要もありません。このような認識体系の下で、学校やメディアを通じ、歴史教育が行われているのが実態です。

「反日民族主義」ではなく、「反日種族主義」と呼ぶのには理由があります。一般的に、民族主義は近代的な性格を持っています。西欧における民族主義は近代化と共に進んできました。ところが、韓国の反日は民族や国家以前の「前近代的」な部族集団にある迷信のようなものなので“種族主義”と呼んでいるのです。

 なぜ前近代的なのかというと、第1には、観念的だからです。「日本は絶対悪」といっても、具体的に「日本政府、日本社会、日本人が悪だ」ということではなく、もっと漠然とした(観念的な)「日本」が悪いということなのです。それに対し、実体としての韓国が「絶対善」として存在している。日本はそうした観念的な悪の存在なので、何を言っても何をしても構わない、ということになるのです。

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