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しずる村上純が考えるコロナ以降の“幸せな芸人の働き方” 「たった一人に深く刺されば意味がある」「テレビにだけ頼るのをやめた」

「キングオブコント」の上位常連で、ネタ番組で笑いを届けているコンビ・しずる。村上純さん(39)は、10年前から自身の働き方に問題意識を持ち始めていたといいます。そして、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大で、大部分の仕事がキャンセルに。一から自分の仕事について考え直した村上さんは、これまでとまったく違う働き方を模索し始めました。(構成・崎谷実穂)

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◆村上純(むらかみ・じゅん)
1981年生まれ。東京都出身。お笑い芸人。吉本興業所属。2003年に池田一真と「しずる」を結成。キングオブコントでは過去4回決勝進出。2012年に結婚、2016年に第一子誕生。お笑いライブやトークライブ、配信ラジオ、YouTube、執筆など幅広く活動。

■ コロナでスケジュール帳が白紙になった

——村上さんは去年、ボイスメディアの「Voicy」や文章や画像を投稿できるメディアプラットフォーム「note」などを始められ、個人活動の幅を広げていらっしゃいます。芸人として独自の動きをされていると感じるのですが、ご自身の働き方について問題意識を持たれたきっかけがあったのでしょうか。

村上 はっきりと問題意識を持ったのは、やっぱり新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからですね。それまでも、問題”半”意識くらいは持っていた気がします。自分の仕事に大満足していたわけではなかったんです。テレビの露出とかは10年前がピークで、そこから少しずつ落ちてきて。でも、今ものすごくテレビに振り切って仕事をしたいかというと、そうでもないところがあって……。そんなふうにもやもやと考えていたら、5月頃に新型コロナの影響でスケジュール帳が白紙になりました。

——劇場公演やイベント開催などが軒並み中止になってしまったんですね。

村上 はい。それで、「どう働くか」というところを大きく変えなきゃいけない、と改めて考えたんです。それは、新型コロナの混乱がある程度収まっても、以前のような社会には戻らないと思ったので。みんなリモートワークを始めて、新しいITサービスなどを使ってますよね。それって、新型コロナが収まったからといって「お疲れさまでした、今までありがとうございます」と言って、誰も使わなくなることはないんじゃないかって。これからは、誰もが新しい働き方や生活にシフトしていくんだろうなと。

じゃあ、今僕が新しく始めるべきものはなんなんだろう、と考えたときに目にとまったのがnoteでした。毎日仕事がない中、僕は何かを発信しなければと思ったんです。

僕にとってnoteは打ってつけだったと思います。時間だけはできたので、その時僕が書ける全てをその時間に費やしたんです。

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 ■ テレビに出て「売れる」だけがゴールではない

——noteではどのようなことを書かれているんですか?

村上 吉本の養成所に入ってから芸人になるまでの自伝的な話や、コント台本とその解説などをアップしてます。コントの台本やその解説なんて、これまでの芸人だったら出さなかったと思うんです。いわば種明かしなので。この業界には、ある部分で「お客さんには芸で笑ってもらえればいい、舞台裏は見せるものじゃない」という暗黙の了解が、これまではあった気がします。以前だったら、他の芸人さんからも楽屋裏で「村上なにやってんの」って突っ込まれてたと思います。でも、コロナのせいでそれまでの楽屋がなくなった。家にいることが多いから、突っ込まれない(笑)。

——たしかに(笑)。

村上 でも、お笑いという本業の核をせっかく公開してるので、一つの記事で少なくとも5,000字は書こうと。1万字書くこともざらです。

そんな活動をしていたら、バッファロー吾郎A先生が「芸人がお笑いのまじめな話をするっておもしろいな」と共感してくださって、僕にZoomでコントのことを聞くという有料トークイベントを開いてくれたんです。それは今、僕らが他の芸人さんに話を聞くトークライブシリーズに発展してます。

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——noteから新しい仕事が生まれたんですね。
 
村上 このコロナ禍で、いったん芸人としてのデフォルトの仕事がごっそりなくなったんですよね。皮肉にもそれで視界がすっきりして、さまざまな新しいサービスに気づき始めました。そして、やってみたら自分の得意なことや好きなことがはっきりしてきたんです。テレビでフリートークするより、自分で企画を考えてコンテンツをつくって発信するほうがむいていると思ったんです。そこに気づいたら、これを全力でやるしかないと集中するようになりました。
 
——Voicyやnote、配信イベントなどのお客さんって、これまでの仕事で対象としていたお客さんよりも濃くて深いお客さんなのではないかと思うんですけど、マスに向けて仕事をしていたときとの違いは感じますか?
 
村上 感じますね。これまではマスに向けて売れるのがゴール地点だったんです。でも、その頃の僕の「売れてる」「売れてない」という分け方は一義的だったな、と今は思います。お客さんが多種多様になって、細分化されてきているというのは、数年前からまことしやかにささやかれてはいたと思うんですけど、吉本興業ってお笑いの大手みたいなところがあって、そのせいかそういう価値観が入ってきにくかった気がします。
 
——「売れてる」「売れてない」はテレビに出ているかどうか、で決まるんですか?
 
村上 これまでは九分九厘そうだったと僕は思います。吉本って基本は大体みんな、(明石家)さんまさん、ダウンタウンさん、ナインティナインさんを目指して入ってくる人が多い印象なので。一番おもしろくてかっこいい立ち位置が、テレビの最前線に出て活躍するというのがまず一つにあって。実際、僕もそこを目指していた時期がありました。勿論そこに向かって一生懸命やったからこそ気づけたこともあるし、そのときに得た知名度は財産にもなってるんですけど、そこだけが目指す場所ではないというのが今の僕の考えです。

それまで僕が「売れたい」に紐付けてた「お金がほしい」「モテたい」「おいしいものを食べたい」といった欲には天井がないじゃないですか。そこを追い求めると、ゴールのない道をひたすら走ることになると考えるようになりました。勿論、そこを走り続けられる凄い人もいるんですよ。でも、自分には合っていないと思って。

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■ 大事なものは身の回りにあった

——近年、行き過ぎた資本主義というか、規模が大きくなることだけが正義という考え方が間違っているのではないか、という指摘が出てきていますよね。村上さんのお話からそれを感じました。
 
村上 僕も完全に「そうじゃない」考え方になりましたね。これまでは、日本中の人に知られたかったし、日本中の人から出来るだけ好かれたいみたいに思ってました。でも、今は100%自信のあるサービスが、たった一人にでも深く刺されば仕事をしている意味があると思えるようになったんです。
大切なものの順序を考えたら、手前から順番になってるなと思って。自分が生きていけるようにするのが前提で、まずは息子と奥さんがあって。そして、親族、友達……みたいなイメージです。仕事も、一番自分を必要としてくれている仕事や、親しくしている人との仕事、自分がすごくやりたいと思う仕事、が大事だなと。

やりたい仕事ができて、会いたい人に会えて、家族を養えてご飯を食べていけるなら、そんな幸せなことはないなって思うんです。まあ歳をとったのかもしれません(笑)。
 
——「売れてる」観点からの成功とは違うけれども、存在感を増している芸人さんも増えていますよね。キングコングの西野亮廣さんやピースの又吉直樹さんなどがその代表かと。
 
村上 あのお二人は一つのモデルケースじゃないですかね。西野さんで言ったら当時ブログを始めるのも早かったし、毎日0時に更新するというのもその頃から決めてましたからね。それって今YouTuberの方々がチャンネル登録者数を増やすために毎日更新する、というセオリーの先取りとも言えると思うんです。このメディアでフォロワー数を増やすなら、一番有効的な方法は何なのか、といったことがすぐわかる。そして、脇目もふらずに行動する。だから成功されてるんだと思うんです。勿論、その分失敗だって数多くされてると思います。

又吉さんは、とにかく作ることが好きな人。そのなかで、一番好きな表現方法がお笑いだったから、芸人になったんだと思うんですよ。そして小説を書く才能、勿論努力もあった。僕は又吉さんから教わっていることが多すぎて、こういうところで言ってることももしかしたら前に又吉さんが言った内容のリツイートになってるかもしれません。

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——発言をそのまま転送しているかもしれない(笑)。

村上 その上で言うんですけど、又吉さんがおっしゃってるのが「白と黒で決めすぎな部分がある。白と黒の間にはいろいろなグラデーションがあって、それを認めるべきだ」ということなんです。 

——ああ、たしかに芥川賞を受賞した『火花』はグラデーションの部分について書いた作品ですね。

村上 でも、小説を書いたがゆえに、テレビで又吉さんが「先生」って呼ばれたりするようになって。例えば、番組の台本が芸人扱いで書かれなくなったり、芸人として呼ばれなかったりするなんて話を聞いたこともあります。「芸人」か「作家」のどちらかしかないなんて、すごく一義的ですよね。又吉さんという人間のグラデーションの部分が無視されてしまっていると思うんです。

ただ、時に見受けられるそういったテレビの一面性って、それを作っているテレビ業界の方もわかってやってる部分もあると思うんです。もしかしたら、グラデーションの部分を含んだ企画書をつくっても、「視聴率が」とか「スポンサーが」とかいろいろな事情でだめになっているのかもしれない。
で、そういったしがらみが嫌だと思う人は、YouTubeなどで自分発信の新しいコンテンツを作り始めているんじゃないかなと思っています。

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■ テレビのイメージ商売は限界にきている

——今は、これまでテレビに出ていた芸人さんがどんどんYouTubeのチャンネルを開設しています。これも芸人の新しい働き方ですよね。

村上 広告の枠を前提にテレビ番組がある、という仕組みだったのが、自分たちの番組をアップしたら広告が入ってくる、というプラットフォームを選べるようになった。やっぱり、そっちのほうが自由なのかなと思います。僕らも“しずる公式チャンネル”という名前で、随時新作コントを上げています。

——こうして芸人さんが多彩な活動をするようになると、「芸人」とは何なのだろうという疑問がわきます。

村上 定義は人それぞれだと思います。簡単に言えば、コントや漫才、ギャグなどのいわゆるネタと呼ばれるようなものをやっている人が芸人というのがまずありますよね。でも、ネタをやってない人が芸人じゃないのか、といったらそれはそれで難しい。YouTubeで様々な企画動画をアップするのが主な活動で自分は芸人だという人はいると思うし、一方でロンブーの淳さんは「漫才やコントをやってないから自分は芸人じゃない」とおっしゃっていると聞いたこともあります。個人個人が何をもってして自分は「芸人」だとするか、だと思います。

僕は、吉本に入ったときはネタが手段だったんです。目的は売れることだったので。だから、テレビに出たくてコントをつくっていました。でもだんだん、手段だったはずのコントにプライドが生まれてきて、「コントを認められたい」と思うようになったんです。

——それはいい流れですね。目的があったからこそ、手段を一生懸命磨いて、それがいつしか目的になっていった。じゃあ、ネタをやらない芸人さんは、「タレント」になるんでしょうか。

村上 うーん、タレントっていう言葉っておもしろいですよね。意味としては「才能」ですよね。でも、何の才能なんですかね。「テレビタレント」はテレビの才能? テレビの才能って何なんですかね。

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——そう言われるとよくわからないですね……。
 
村上 確かに存在している職業なんですよね。テレビでよく見るタレントさんって、たくさんいらっしゃいますよね。でも、自分で「私はテレビタレントです」って言う人は少ないと思うんですよ。そんななか、異彩を放っているのが勝俣(州和)さん。
 
——え、勝俣さんですか?
 
村上 勝俣さんって、「テレビの才能」がものすごくあると思うんです。まず、テレビ業界の顔見知りが多い。誰とでも話せる。とにかく明るい。トレードマークとなる半ズボンを穿いてたり。そしてあの髪型。ずっと変わらないですよね。テレビタレントの象徴と言うか、その要素をすべておさえているんじゃないかなと僕は思うんですよ。

どなたかが以前、「勝俣さんのファンは日本に一人もいない」っておっしゃってたんですよ(笑)。本当に失礼ながら、真芯を捉えている言葉だなと思ってしまったんです。でも、絶対みんな勝俣さんのこと知ってるじゃないですか。一つの答えとして、テレビタレントってもしかしたらああいうものなんじゃないかなって思います。

僕は、他にもテレビで重宝される人って、飛び抜けた本物感のある人なのかなと個人的に考えています。マツコ・デラックスさんなんて、正に。だから、今まであったイメージ商売みたいなものは限界に近づいているんじゃないかなと思ったりもします。自由に発言できるSNSなどが普及して、みんながみんな嘘というものに敏感になってる。その中で、キャラクターを作り上げて売り込んでいくっていうのはなかなかに至難の技な気がします。結局のところ、ありのままの人間の魅力には勝てないと僕は思うので。だから僕も、いろいろなメディアでありのままの自分を出して行けたらと思っています。

(後編につづく)

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