平行線 IKKO

著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、IKKOさん(美容家・タレント)です。

平行線

私は1962年、福岡県で生まれました。当時は戦後の高度成長期で日本が沸き立つなか、東京と地方には10年の差があると言われていた。そのような時代において父は「男は男らしく、女は女らしく」という考えを持った、典型的な昭和のオヤジだった気がします。

親戚が女の子ばかりのなか、ようやく生まれた男の子。父はもちろん、祖父も大喜びだったようです。父は私の物心がつきはじめると、「野球に行くぞ」「魚釣りに行くぞ」と、様々な場所に私を連れ出すようになりました。男らしく外で遊ぶことを、私にすごく望んでいた。一方の私は、ままごとが好きで、父と時間を共有するのは苦痛でした。

父を避けるため、時間があれば、母の美容室の片隅に座る日々。母がお客さんを綺麗にしていくのを見るのが好きでした。次にお気に入りだった場所は、台所。綺麗に掃除した台所で、母や祖母が丁寧に料理をつくる姿を、なんて素敵なんだろう……と見つめていました。

19歳で横浜の美容室に就職。転機が訪れたのは、27歳でフリーランスに転身した時でした。これからは私らしく生きたいと感じ、ヘアメイクアップアーティストを志した。その頃から実家にもお化粧をして、スカートをはいて帰るようになりました。父は、私が変わっていく姿を見たくないようでしたね。

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