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日本のドラマにもっと多様性を|野木亜紀子

『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)で社会現象を巻き起こした脚本家の野木亜紀子(46)。デビューから10年となる今年、「レンタルおやじ」をする兄弟の日常をコミカルに描いた『コタキ兄弟と四苦八苦』、綾野剛と星野源がバディを組み事件を解決する『MIU404』、そして昭和の未解決事件をモチーフにした映画『罪の声』の3作を次々と世に送り出し、話題をさらった。いま次回作がもっとも期待されるヒットメーカーが、作り手として大切にしていることとは?

ドラマは嘘があってもいい

野木さん宣材写真

野木氏

この10年は怒濤で、一瞬で蒸発するように消えていきました。でもまだ10年なので、実はまだ超ぺーぺーなんですよ。

私は35歳と遅めのデビューで、脚本家になる前は一般企業で派遣社員をやっていて、その前の8年ほどはドキュメンタリーを作っていました。最初に入社したのはBSやNHKのドキュメンタリーを制作する会社で、下調べ、スケジューリング、現場での情報収集を手がけ、その後もディレクターとしてインタビュー取材をいくつもしました。

この経験はドラマを作るうえでも役立っていると思います。『アンナチュラル』(2018年)というオリジナルドラマを書くときの取材で、これまで見てきた法医学ドラマがドラマ上の「嘘」だったことを知ったんです。事件性のある司法解剖は本来、大学の法医学教室でしか扱わないのに監察医務院で行っていたりする。法医学教室ではひとつの案件に何日もかけるほどの余裕はない。

ドラマはフィクションですから、嘘があってもいいのですが、自分で作るなら、もう少し現実に即したいなということで、取材に基づいて「不自然死究明研究所」という架空の舞台を作りました。実はそういう機関を作ろうという動きが政府主導であったんですよ。立ち消えになりましたが。実際に働いている人のことを考えると、実在の組織の運用で嘘をつくよりも、架空の組織を舞台にしてリアルな法医学の現状を描くほうがいいと思いました。

調べてみると、刑事ドラマもけっこう嘘が多くて、違法捜査が横行している(笑)。『MIU』では、監修の元警察官の皆さんに、適法ラインを何度も確認しました。

『MIU』は機捜(機動捜査隊)の話ですが、機捜は第3まであり、第1と第2は23区を二分し、第3は多摩地区と管轄が異なります。それぞれ大所帯なので、人数を絞って人間ドラマを見せるため、架空の「第4機捜」を作りました。

最初は第3を2つに割って第4を作ろうかとも考えたのですが、それでは舞台が八王子周辺になって「東京感」が足りない。悩んでいると、麻生久美子さんが演じた女隊長のモデルにした、機捜唯一の女隊長を務めた方から「昔、4部制にしようとしたんだけど、人員が足りなくてムリだった」と聞き、働き方改革のために第4機捜が出来たという設定が生まれました。

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