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【全文公開】令和に持ち越された宿題 武田徹さんの「わたしのベスト3」

評論家・専修大学教授の武田徹さんが、令和に読み継ぎたい名著3冊を紹介します。

 災害の多かった平成の30年間は、天皇皇后が被災地を訪ね、避難者に優しく言葉を掛ける姿が頻繁に見られた。だが、そうした「象徴的」行為を越えて、現実的な救いの手を弱者に差し伸べる社会が作られていたかといえば、それは宿題として令和に持ち越されたというべきだろう。

 たとえば『若者を見殺しにする国』で赤木智弘は、終身雇用制からこぼれ落ちた就職氷河期世代の若者を救おうとしない日本社会の冷血さを告発した。強く固定された格差構造を崩すには、もはや戦争を希望するしかないとまで書いてゼロ年代論壇を震撼させた著者のメッセージは今なお古びることがない。それは令和になっても問題が一向に解決していないせいだ。

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 いや、解決どころか、むしろ事態は悪化しているともいえる。今や社会的弱者に対する救済策に対して自称「普通の日本人」が自分たちの貴重な税金の横流しだと非難する光景すら日常茶飯事だ。なぜそうなるのか。『「差別はいけない」とみんないうけれど。』は社会問題について誰もが「市民」の立場で異議申し立てができると考えるポリティカリィ・コレクトネスの考え方と出自(アイデンティティ)の同質性で連帯して抗議するアイデンティティ・ポリティクスの動きが捻れて結びついた結果、総バッシング社会の形成に至るメカニズムを示す。

 こうした風潮とどう向き合えばいいのか。『資本主義と闘った男』はノーベル賞候補と言われながら米国の経済学研究の最先端から突如離れ、帰国して市民運動に身を投じた数理経済学者・宇沢弘文の評伝だ。世界的に進む冷血な新自由主義化に抗い、個々人が現在の帰属先を越えて相互に繋がり、助け合う共助の場を作り出そうと闘った宇沢の人生には「共生」について考えるヒントが確かにある。

 新しい時代に持ち越された問題を見極め、新しい時代のうちに決着をつける。責任のバトンもまた新しい時代の読者に引き継がれたのだ。



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