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門脇麦が語る、大河ドラマ『麒麟がくる』——明智光秀と駒の謎

8月末、新型コロナウイルスの影響で中断していたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』が待望の放送再開を迎えた。主人公・明智光秀(長谷川博己)が若い頃に出会うドラマオリジナルヒロイン「駒」を演じる女優の門脇麦(28)が、光秀への淡い恋心から自身の結婚願望まで、現在の胸中を語った。/聞き手・落合将(NHKチーフ・プロデューサー『麒麟がくる』制作統括)

台本にある薬草の名前が面白い

落合 何から話そうか?

門脇 何、話しましょうか(笑)。

落合 まずは……何より、この8月30日から、ようやく『麒麟がくる』の放送が再開されました。再びお茶の間にこのドラマをお届けできて嬉しい限りです。収録自体は6月30日から再開されているわけですが、門脇さんとしてはどうですか。

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落合氏

門脇 久しぶりに皆さんに会えた日は、とても嬉しかったのを覚えています。こうやって普通にみんなと会えて、仕事ができるということは、本当に幸せなことなんだなって。

落合 コロナによる自粛期間中はどう過ごしていたんですか。

門脇 こればかりはどうしようもないですし、いつ始まるかと身構えて中途半端に消耗するよりは、一回全部を忘れようとしていました。また始まる時にもう一回スイッチを入れ直そうと思って、私はあえて、完全に脇に置いていましたね。

落合 さっぱりした性格だから、そんなに考え込んではいないだろうな、と思っていましたけど。

門脇 そうですね(笑)。もちろん放送が止まってしまうことや、話数が減ってしまうのかなって心配もありましたけれど、私が心配したところでどうにもならないので、いずれ落合さんから連絡が来るだろうと思いながら、待っていました。

落合 でも、好きな山登りとかもできなかったでしょう?

門脇 なので、近所をお散歩したりしていました。よく目に留まるようになったのが、道端とかに生えている雑草なんです。何でもないようで、数日経つと植生が変わっていることがあるじゃないですか。慌しく仕事をしていて、ゆっくり散歩もできなかった時には発見できなかったものが目に入るようになって、植物についてすごく詳しくなりました。

落合 門脇さんが今回演じている「駒」は、医師である望月東庵(堺正章)の助手で、まさにいろいろな薬草を取り扱う役どころですしね。

門脇 実は『麒麟がくる』の話が決まる前から、もともと植物には興味があったんです。深く知りたいなと思って図鑑を揃え始めた頃、偶然のタイミングで駒の役が決まったんですよね。だから、台本に出てくる薬草の名前を読んでいても、とても面白いんですよ。台本にあるのは昔の呼び名で難しいんですけれど、それを調べて「あ、これは今ではあの草なんだ」と知っていくこともあって、私は楽しく覚えています。

門脇麦 場面写真

門脇氏 ©NHK
大河ドラマ『麒麟がくる』
(NHK総合/毎週日曜20時、BSプレミアム/毎週日曜18時ほか)

フェイスシールドをつけて

落合 収録再開後の大きな変更点というと、役者さんにとっては、やっぱりフェイスシールド。リハーサルはマスクでやるけれど、カメラテストの段階でマスクをするとメイクが取れちゃうから、フェイスシールドをしてもらっているわけですが。

門脇 音が聞こえづらいというのはあります。前室で共演者の方とお話しする時も、何回も「えっ?」って聞き返してしまって……ただ、それ以外は特に問題ない気がします。

落合 それは良かった。収録が途切れたのが3月末でしたが、昨年6月のクランクインから10カ月ほど撮ってきていますから、きちんと出来上がっているチームなんです。皆さん、何の違和感もなく、どんどんと現場に入られた感じがありました。

『麒麟がくる』の主人公は、本能寺の変で知られる明智光秀(長谷川博己)。門脇麦(28)が演じるのは、若かりし光秀が京で出会ったドラマオリジナルのヒロイン、戦災孤児として育ち、医師・東庵の助手を務める駒だ。「麒麟」とは、仁のある政治をする為政者が現れると降り立つという聖なる獣。群雄割拠の戦国時代にあって、光秀は「麒麟」を現世に呼ぶべく奔走し、駒も同時代をひた走っていく。

落合 今日は、そもそもの『麒麟がくる』が成立した経緯と、なぜ門脇さんに駒の役をお願いしたのか、きちんと話そうと思っていて。

門脇 えっ、初めて伺います。

落合 もともと主人公は、最初から明智光秀と決まっていたわけではないんです。ただ、幕末から明治時代の『西郷どん』、近現代の『いだてん』と続いて、今回は戦国時代だと。その時代をやる時、プロデューサーとしては考えがちなんだけど、貧困や疫病、戦で人がどんどん死んでいく時代で、人を救うという真逆の行為、いわば生と死を描くのはどうかなと思ったんですよ。それで曲直瀬(まなせ)道三という当時の名医を、企画の一つとして脚本家の池端俊策さんに挙げたんです。曲直瀬道三と斎藤道三という“2人の道三”を据えて、殺し合いの中で人を救うというような……ただ、池端さんは、生と死というテーマには興味を示されなかった。

門脇 ご興味なかったですか(笑)。

落合 曲直瀬の本とかもお渡ししたんですけど。でも、そこで池端さんがおっしゃったことが面白くて。

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落合氏

門脇 何ておっしゃったんですか。

落合 「医者はどこにでも行けるんだよ」と言うんです。旅芸人と医者だけはその当時、どんな大名のもとにも呼ばれて、敵味方なく動けるんだ、と。実はそれが、架空の人物である駒と東庵の出発点。で、もう一つの旅芸人という部分はこれもオリジナルの人物、伊呂波太夫(尾野真千子)に反映されました。

門脇 へええ!

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大河ドラマ『麒麟がくる』 ©NHK

門脇麦の「隣に居る」感

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