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旬選ジャーナル<目利きが選ぶ一押しニュース>――若松英輔

【一押しNEWS】教皇とグレタ・トゥーンベリが目指す世界の共通点/2月12日、バチカンニュース

使用_若松英輔氏_トリミング済み

若松氏

 今年の2月12日、あるバチカンの決定が、日本でも報道された。既婚者が神父になれる、という事案を教皇は是認しないと決めた、というものだった。カトリックが少数派である日本では、このことがなぜ報道されるのか、分からない人も少なくなかっただろう。

 昨年の10月下旬、ある条件を満たせば、既婚者でもカトリック司祭として働くことができる道が開かれるかもしれないという報道が世界を驚かせた。カトリックの神父にとって独身性は、イエスに倣う、という点から伝統的に極めて重要な問題だとされてきた。

 しかし、このことが神父への門を狭くしていたのも事実で、南米では神父の不足が深刻な問題になっていた。人々は信仰を求めている。しかし、教会はそれに応じることができないのである。実現すれば900年ぶりの改革だった。

 この提案が議案に上ったのが、昨年10月、3週間にわたって行われた「アマゾン周辺地域のための特別シノドス(世界代表司教会議)」だった。「シノドス」といっても日本では聞きなれない言葉だが、世界はここで何が討議されるかを大きく注目している。ことに現教皇になってからその傾向は著しい。

 アマゾンは今、世界が抱える問題の縮図のような場所だ。昨年、アマゾンの原生林に意図的に火が放たれ、広大な緑が失われた、という報道があった。燃やしたのはブラジルに投資している欧米の企業で、ブラジル政府の許可を得て、木々があった場所を焼き尽くしたことがのちに分かった。

 このことにはブラジル国外の人たちも「否」を突き付けた。ことに、今、アメリカ大統領の予備選挙でたたかっているバーニー・サンダースに近い人たちが大きな声を上げた。最年少の女性議員となったアレクサンドリア・オカシオ=コルテスといった政治家、音楽家も役者たちもそこに連なった。今も広く活躍しているスウェーデン人の若き運動家グレタ・トゥーンベリもその一人だった。

 オカシオ=コルテスは敬虔なカトリックの信仰者で、弱き者たちの視座から世界を作り上げていこうとする姿勢は、教皇が言明していることと強く共振する。グレタは教皇と会っている。そしてオカシオ=コルテスとも対談をしている。グレタはしばしば環境改善の指針であるパリ協定の順守を語る。この協定の実現を強く後押ししたのは、教皇フランシスコが2015年に公刊した回勅『ラウダート・シ』だったと言われている。

 シノドスが終わると教皇は「使徒的勧告」という文書を世に送る。今回のものは「ケリーダ・アマゾニア」と題する、とバチカンニュースは報じている。バチカンニュースを見ている日本人は多くないが、ローマの教皇庁が主管する世界において、小さくない影響力をもつメディアだ。もし、神父の独身性において変化があるなら、ここにも言及されるはずだった。しかし、今回は「見送られ」、それが日本のニュースになった。

 新しい「使徒的勧告」で教皇は、今日の経済活動には隠されたかたちで「破壊・殺害・社会的腐敗」が潜んでいて、それは明らかに「不正義と犯罪」と呼ぶべきものすらあり、この変革のために「貧しい人々」の声が、「一番力強い声」になり、皆がそれに従わなくてはならない、という。

 教皇にとって環境問題と貧困の問題を分けることはできない。自然を守り、世界を次世代に受け継ぐだけでなく、眼前の貧しい人たちが、強欲なグローバル経済の犠牲者になっている、と訴える。私たちは未来だけでなく、今ある「いのち」を守らねばならない、というのである。



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