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霞が関「働き方改革」奮闘記 川本裕子

変われない霞が関に民間の風を吹き込む。/文・川本裕子(人事院総裁)

③著者(キャプションなし)

川本氏

公務職場が抱える問題に危機感

「国家公務員制度を、令和の時代に合ったものにしなければならない」

この6月、私は国家公務員の人事行政を担う人事院の総裁に就任しました。それまで大学教授や企業の社外取締役を務めていたので、後任探しなどのために多くの企業人や大学の先生にお目にかかりましたが、その多くの皆さんが冒頭のお言葉を口にされていました。

これを聞いて、公務職場が抱える問題について、日本全体が危機感を持っていることを実感しました。

今年の春先、政府のしかるべき方から就任の打診がありました。

私は、20年ほど大学院で組織ガバナンスの教育・研究に携わるかたわら、民間企業や組織で経営や人事戦略について監督、助言をしてきました。その一方、2014年から5年間は、警察行政を管理する国家公安委員を務め、行政に関する知見を得ました。

また、人事院は各府省から独立した第三者機関という性格があります。これまで政府の審議会や民間企業の社外取締役など、中立的な立場での仕事が多かったので、その経験も踏まえてお役に立てるのではないかと思った次第です。

公務員は憲法で定められているように「国民全体の奉仕者」です。そして国家公務員制度は、行政を円滑に運営するために必要な基盤であり、ひいては国の根幹だと言えます。

人事院はその公務員の人事管理制度を扱う専門機関で、国家公務員の採用から退職にいたるまでの様々な人事行政上の課題に取り組み、時代に合った施策を行う役割を担っています。その総裁という職は大変な重責であり、就任を大変光栄に思っています。

官僚を長く務めた夫は「思い切りやればいい」と言っていました。夫を見ていると、公務員は大変な仕事ですが、非常にやりがいを感じていたと思います。

写真①官僚の長時間労働が問題視されている

官僚の長時間勤務が問題視されている

長時間労働が生じる理由

霞が関の喫緊の課題の一つは働き方改革です。働き方改革は、職員の健康を守り、人材を確保し、行政のクオリティを維持するために非常に重要です。これは、行政の持続可能性にも関わってくる問題です。

長時間労働は長らく民間企業を含めた日本全体の課題でした。それが2019年の労働基準法の改正で、時間外労働の上限規制が導入されたことをきっかけに、民間では少しずつ改善されてきています。

もちろん、公務員の労働環境が何も変化していないわけではありません。労働基準法の改正に合わせて、国家公務員も超過勤務の命令を行うことのできる上限を設定するという措置を行いました。

それでも公務員の長時間労働が生じてしまうのは、なぜでしょうか。

霞が関の国家公務員からは、長時間労働の原因に国会対応業務を挙げる声が多く聞かれます。

それに加えて、公務員には緊急時対応があるという特殊性があります。新型コロナウイルスや大規模災害への対応など、突発的な業務が生じることがあります。これを他律的業務と呼んでいますが、こうした非常時には、定員に制約がある中、上限を超える超過勤務を命じることを認めざるをえないのです。

長時間労働を改善するためには、業務量に応じて、人員を各部署に振り分けることが必要です。

民間企業はグローバル社会における激しい競争に対応しようと業務の効率化を進め、重点部門には人員を配置します。ニーズに応えなければ淘汰されてしまうからです。

一方、公務は競争相手がいない独占サービスなので、従来の枠組みや発想にとらわれがちで、自らを律する力がよほど強くないと劣化してしまうという懸念があります。

では、働き方改革を成し遂げるためには、どのような解決策が必要なのでしょうか。私は総裁に就任する前から、3つの基本的な考え方を申し上げてきました。

マネジメント力の強化が重要

1つ目は、幹部職員を中心に、組織を活性化させる経営管理力、すなわちマネジメント力を磨いていくことが重要だということです。

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