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『東大王』鈴木光さんが語った「東大の4年間と進路」卒業直前インタビュー

『東大王』で一躍クイズ界の新星として注目を集めた鈴木光さん。ついに今年3月、東大と『東大王』を卒業します。昨年12月には初めての著書『夢を叶えるための勉強法』を出版。いま、鈴木さんは東大の4年間と将来の展望についてどんな風に考えているのか、じっくり伺いました。(聞き手・構成=秋山千佳/ジャーナリスト)

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鈴木光さん

◆ ◆ ◆

――ご著書『夢を叶えるための勉強法』では、定期テストや入試、資格試験といった勉強のメソッドを実体験から紹介されていますが、「貧富の差によって教育に差が生まれている現状を少しずつでも変えていく行動をしていきたい」と書かれていたのが印象的でした。こう考えるようになったきっかけが何かあったのでしょうか。

鈴木 番組(『東大王』)に出演してSNSを始めたことが大きかったです。私のインスタグラムへの質問で、「高校に行きたいけれど経済的に厳しくてどうしたらいいと思う?」とか「塾には通えないけれど良い勉強法を教えてほしい」といただく中で、問題意識を持つようになって。いろんな状況の方がいると実感する機会が増えて、自分が教育を受けられる環境にあるのはとても恵まれたことだと自覚しました。

 以前から書籍出版のお話は各方面からいただいていましたが、一介の学生に過ぎない自分が書くべきではないとずっと辞退していました。でも、学生たちの声を聞く中で、自分がしてきた勉強法が、塾に行けない状況下の学生でも、学校と参考書を頼りに学習を進めていくサポートになるのではないかと考えるようになりました。教育機会の不平等や情報の不足を少しでも補うことができるのではないかと。それで今年の夏休みから3カ月かけて1冊の本にしました。

――東大生として生活するだけでは接することがなかった人たちと、『東大王』をきっかけに出会ったことが大きな学びの機会になったということですね。

鈴木 そうです。普通に高校生活や大学生活を送るだけでは、接する人の幅が自ずと限られて、似たような環境の学生同士で集まってしまいますから。SNSを始めたことで私が発信した投稿を多くの方にご覧いただいて、逆に皆さんがどういう生活をしてどう感じているかを教えていただくことで、自分の世界が広がり、多くのことを学ばせていただきました。

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――ご著書では、「大学生活のほとんどの時間を司法試験予備試験と司法試験の勉強に割いてきた」とも明かしていらっしゃいましたね。

鈴木 東京大学の授業を一番大事に考えていましたが、司法試験予備試験と司法試験の勉強の時間に費やした時間が膨大だったと思います。TVの出演に関しては、「撮影に参加するのは月に2回まで、夏休みなどの長期のお休みにだけ少し増やす」と自分の中でルールを決めて、予備試験、司法試験、東京大学の定期試験の前はお休みをいただいて学業に専念しました。

 これは本当に周りの方々の協力なしには成しえないことで、スタッフの方々、共演者の方々、東大王チームのメンバーには心から感謝しています。コロナの影響が出る前の2年生の春休みなどは司法試験予備試験を目指す大学の友達4、5人で朝10時に自習室に入って各々勉強をして、お昼も夜も各々でお弁当などを食べて、夜10時くらいまでひたすら勉強するというのを毎日やっていました。

――友達と集まるといっても遊びの要素は全然なく、各自で勉強するだけ……。

鈴木 一緒の空間にいてもみんな一言も喋っていないのではないかと(笑)。それでも精神的にはすごく支えになりました。お互いに頑張っているのが伝わって、辛いのは自分だけじゃないという気持ちを持って勉強できたので。

――司法試験の突破だけを目指すなら、大学の勉強には時間をかけないと割り切る人もいるかと思うのですが、鈴木さんは法学部進学者の中で1~2年の成績が上位3位以内に入っていたとか。大学の勉強も大事にしたのはどういう理由ですか。

鈴木 一つは単純に大学の勉強が楽しかったからです。特に1、2年の教養学部(※東大では前期課程は全員が教養学部に所属する)は好きな授業がたくさんありました。例えば水産資源に関する授業では、マグロの生殖細胞を小型の魚に移植することでコストを下げて産卵させることができるようになるだけでなく、絶滅危惧種を救うことができるようになるのではないか、といったことを教えていただきました。様々な先端分野に携わる先生方が今どういう研究をして、私たちの生活がどう変わっていこうとしているのか知りたくて、授業には熱心に出ていましたね。

 もう一つの理由は、いずれ海外のロースクールに行きたい気持ちがあったからです。海外のロースクールの選考は、GPAと呼ばれる大学の評定平均が大切で、ほとんどの科目で優上と優(※東大は優上、優、良、可、不可で成績を評価する)を取得する必要がありました。

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――なるほど。今挙げていただいた教養学部の授業の充実のほかにも、東大に入って良かったことや、逆に改善の余地ありと思う点はありましたか。

鈴木 法学部に入ってから良さを強く実感したのは、立法に携わっていらっしゃる先生が多くいらっしゃることです。一般に法学部というと、法律を解釈して適用する方法を学ぶ授業がメインだと思いますが、東大ではそれ以外にも、実際に法律を作る過程でいかなる事柄を考慮したかというお話も聞けるのでとても面白かったです。一方で、私は少人数授業を受けることが一番好きだったので、それを増やして欲しいと思っています。法学部は(コロナ禍でオンライン講義になる以前は)学部全員が大講堂に会して授業を行うといった伝統的なスタイルを保っていたので。

――東大での学生同士の交流はどうでしたか。

鈴木 良い友達が多かったという気がしています。特に、教養学部の時期に他分野の学生の話を聞く機会が多いのは非常にプラスだったかなと。例えば哲学専攻の人に人生相談をしたら哲学的に肯定してくれて(笑)、「なるほど、こういう考え方があるんだ」と思ったのが印象に残っています。1年生の時に参加したビジネスコンテストでも、医学部や工学部など他学部の人と取り組めました。資格試験に一緒に取り組んでくれる友達が多かったのも、ありがたかったです。

――東大は女子学生が少数派ですが、やりづらさはなかったですか。

鈴木 私の学部は多分2割くらいが女性だったので(※2019年11月時点で約24%)、マイノリティーと感じるかというとそうではない部分が多かったです。今の時代だからかもしれませんが過ごしやすかったかなと思います。東大の話と少し離れてしまいますが、私の場合、中学も高校も(筑波大学附属)男女ごとに何かを分けることが全くない学校でした。中学では遠泳をするのに男女一律4キロ、苦手な人は2キロ。高校でも男女一律に、重い荷物を持って登山をしました。女子だから男子だからという前に人間として生きる力をつけてくれるような環境で育ってきました。それは大学でも同じで、均等な扱いをしてもらったと思っています。

――文藝春秋digitalには東大卒女性にお話を伺う「“東大女子”のそれから」という連載があるのですが、かつては東大のサークルの飲み会で「男子5千円、(他大)女子1千円、東大女子は3千円というように区別されていた」(連載第1回、脳科学者・中野信子さん)といったお話もありました。そうした機会はなかったでしょうか。

鈴木 そういった経験は一度もないです。クラス会がたまにあるのですが、私は資格試験の関係でほとんど出られなかったので、行くと「幽霊が現れた!」みたいになるのですが(笑)、全員一律3千円とかそんな感じです。普通に割り勘で、女性だから安くしてもらえるという場面に遭遇したことがありません。だから個人的には不満がなくて、すごく楽しい学生生活だったと思っています。

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――その楽しい学生生活も残り少なくなってきて。

鈴木 いやあ、残念ですね。

――3月には東大も『東大王』も卒業されるんですよね。弁護士になるのが夢で、企業法務弁護士を目指しているとご著書でも触れていましたが、4月以降のご予定は。

鈴木 コロナの影響で発表が4カ月ほど遅れていて、今(2020年12月末)は司法試験の結果待ちです。合格していれば司法修習、不合格であれば5カ月後にまた受けます。

――卒業後を考えるにあたって、『東大王』の先輩である伊沢拓司さんにアドバイスをもらう機会はあったりしたでしょうか。

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