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菅首相が山田前広報官をすぐに処分しなかった理由|森功

安倍政権で進められた「官邸主導」の実態は、官邸の威光を背に霞が関を牛耳る「官邸官僚主導」だった。その体制は菅政権にも引き継がれた——。ノンフィクション作家の森功氏が、政治を牛耳る官邸官僚を徹底ウォッチ。

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■森功(もり・いさお)  
1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身。08年に「ヤメ検――司法に巣喰う生態系の研究」で、09年に「同和と銀行――三菱東京UFJの闇」で、2年連続「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。18年『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』、『なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか 見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間』、『平成経済事件の怪物たち』、『腐った翼 JAL65年の浮沈』、『総理の影 菅義偉の正体』、『日本の暗黒事件』、『高倉健 七つの顔を隠し続けた男』、『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』、『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』など多数。

 東北新社の総務官僚接待におけるキーパーソンである山田真貴子は、2013年11月から15年7月まで第二次安倍政権で広報担当の事務秘書官を務めた。1年半あまりという中途半端な任期で官邸を去ったのは、安倍首相の分身と呼ばれた首席秘書官の今井尚哉との確執が理由だとされた。ある内閣官房関係者が官邸の内実を解説してくれた。

「山田真貴子自身、広報担当者としてけっこう仕事がいい加減でした。だから彼女の上司にあたる今井が腹を立てるのも無理なかったかもしれません。もともと今井は部下に高圧的に命令するタイプだし、第一次安倍政権では自分自身が広報担当秘書官として総理の会見やスピーチなどを任されてきたので、彼女を見てイライラしたのでしょう。かなりきつくあたっていました。秘書官が机を並べる大部屋であからさまに山田を怒鳴る。今井は立て板に水のようにまくし立てるので、彼女はとてもじゃないけど言い返せませんでした。今井に叱られ、よく泣きじゃくっていました。しまいに山田は仕事をとりあげられ、他の秘書官と会話するでもなく、ただ秘書官室でボーッとしていました」

 山田はもとより、彼女を女性初の首相秘書官に押し込み、官邸でバックアップしてきた官房長官の菅にとっても痛恨の思いであったろう。菅は15年7月28日の記者会見で、首相秘書官の交代人事を発表した。

 官邸は山田に代わる広報担当の事務秘書官に経済産業省貿易経済協力局長だった宗像直子を起用した。山田とともに国家戦略特区を担当してきた柳瀬唯夫も、事務秘書官の任を解かれている。山田は総務省、柳瀬は経産省、といずれも古巣の出身省庁に出戻り、今井を含む政務・事務の首相秘書官は7人から6人に減った。柳瀬は広報担当から外れ加計問題で汗をかいてきたが、この直前の6月、獣医学部の新設を検討する旨の閣議決定にこぎ着け、お役御免となった。

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