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「慰安婦判決」文在寅政権が招く日韓の破滅的未来

捏造された“事実”で日本を犯罪国家に仕立てる──こんなデタラメはなぜ韓国でまかり通るのか?/文・久保田るり子(産経新聞編集局編集委員・國學院大學客員教授)

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▶︎「新基金で解決」という韓国側の提案は、条約も国際法も無視した闇取引。まるでマフィアのディール
▶︎裁判長の胸中には「日本を裁く」という結論が先にあった
▶︎反日を先導してきた文大統領は、反日賠償判決をさらに政治利用するに違いない

韓国はレッドラインを越えた

日本統治時代の軍慰安婦を、「人道に対する罪」で裁かれたドイツ・ナチスの大量虐殺と同列の「反人道的犯罪行為」と扱い、日本政府に原告1人あたり1億ウォン(約950万円)の賠償支払いを命じた韓国の慰安婦賠償判決が確定した。

韓国は日本との友好関係で自らレッドラインを越えた。日本はこの裁判自体を認めていない。国家は他国の裁判権の元に服さないとの国際慣習法「主権免除」に反しているからだ。日本政府は判決(1月8日)に強く抗議したが、法的措置はまったく取らなかったため、判決は1月23日午前零時に確定した。

ある韓国人学者はこう述べる。

「たったひとりの裁判官が日韓関係を破壊してしまった。実は外交部(韓国外務省)や研究者は裁判が主権免除で却下されるとみていました。しかし韓国の判事、裁判官で文政権に近い左派系は自分たちこそが韓国最高の頭脳であると考えている。この判決はそのいい例です」

原告は元慰安婦と遺族の12人である。原告側は賠償金支払いに応じない日本政府に対し、裁判所に強制執行手続きを申し立てることになる。韓国国内にある日本政府の資産の差し押さえである。ソウルの在韓日本大使館など公館はウィーン条約により差し押さえができないが、金融機関の口座凍結、公用車や借り上げ住宅の差し押さえなどが取り沙汰されており、予断は許さない。

日本企業に賠償請求を命じた徴用工賠償判決(2018年10月)では、すでに韓国国内の日本企業の資産が差し押さえられており、現金化のタイミングが問題となって久しい。韓国は、徴用工と慰安婦のふたつの国際法に違反する判決で日韓外交を破たんさせた。両国関係の基盤となってきた日韓基本条約・日韓請求権協定を否定するという、まさに「到底、考えられない異常な事態」(茂木敏充外相)に入ったのだ。

慰安婦②

元慰安婦たちのデモ

基金の残金5億円で新基金!?

今まで文在寅政権は、徴用工賠償判決で「韓国は三権分立」と判決の尊重を唱え、日本政府の要請にも応じず何の外交努力もしなかった。

ところが昨今の南北関係の悪化から、東京五輪を南北融和のチャンスと捉え、昨年11月から突如として日韓関係修復に乗り出してきた。

文大統領は1月18日の新年会見で徴用工賠償の資産現金化については「望ましくない」と言及。今回の慰安婦賠償判決についても「正直、困惑している」などと述べた。「今回の判決を受けたおばあさんたちが同意できる解決案を探すため、韓日間の協議を続けていく」とも言った。

この発言に、日本側はあきれ果てている。茂木外相は「姿勢の表明だけで評価はできない」「具体的な提案をみて評価したい」と紳士的な発言で応えたが、日本にとって徴用工も慰安婦も日韓請求権協定で半世紀以上前に解決済みの問題だ。

文在寅政権の無責任な認識の披瀝はさらに続く。1月22日に来日した新任の駐日韓国大使、姜昌一氏は、「元慰安婦支援の新たな基金を作るため、韓日両政府は真剣に話し合うべきだ」と発言した。日韓合意(2015年)で日本政府が10億円を拠出し、当時存命だった元慰安婦47人のうち35人に1人1億ウォンの「癒やし金」を渡したが、その残金約5億円を利用して新たな基金を作ろうとも言ったのだ。

文大統領から「韓日関係改善」の特命を受けて赴任した姜大使は、徴用工賠償判決と慰安婦賠償判決を一括して「新基金で解決」という政治交渉を狙っているのだろう。だが、これは条約も国際法も無視した「闇取引」で、まるでマフィアのディールである。もしこんな取引に応じれば大変なことになる。韓国で次から次へと日本政府賠償訴訟が続くことになるだろう。

文大統領は日韓合意を朴槿恵政権の売国外交と非難してきた張本人だ。日韓合意非難は文政権の目玉だった積弊(旧悪)清算の筆頭で、文大統領は「この合意では解決しない」と何度も批判してきた。安倍晋三政権(当時)と朴政権が紆余曲折を経て合意に至った日韓合意の中核「和解・癒やし財団」を強引に解散したのは彼にほかならない。ところが手のひらを返して「政府間の公式合意」(新年会見)などとして「また基金を作ろう」「拠出金の残金を使おう」と言い始めたのだ。

朴政権時代に日韓合意の交渉で汗をかいた韓国の外交官や政府要人の多くが、文政権で更迭・左遷された。逮捕された政府高官もいる。彼らはいま、ほぞを噛む思いだろう。日韓合意の「癒やし金」は1億ウォン、今回の賠償金も1億ウォンだ。原告団には、「和解・癒やし財団」からすでに「癒やし金」の1億ウォンを受け取った元慰安婦も複数含まれている。

文大統領

文大統領

韓国の歪曲歴史観に立った判決

判決は慰安婦制度をこう規定した。

〈日本帝国は日中戦争と太平洋戦争等の侵略戦争の遂行過程において軍人たちの士気向上及び不祥事発生の低減、効率的な統率を追求するためにいわゆる「慰安婦」を管理する方法を考案し、これを制度化し法令を整備して軍と国家機関で組織的に計画を立て、人力を動員、確保、歴史で前例をみない「慰安所」を運営した。〉(判決「損害賠償責任の発生」)

ソウル中央地裁は判決を解説した報道資料「判決要旨」のなかで、この部分を次のように解説している。

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