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エリザベス女王はメーガン妃を許さない――電撃的な結婚は電撃的な悲劇で終わる

涙の告白にウィリアム王子は反発。黒人差別は本当なのか。/文・君塚直隆(関東学院大学教授)

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アメリカのCBSテレビのハリー王子とメーガン夫人の2時間に及ぶインタビューが放映される前に何が起きていたか。これが今回の「告白」を読み解くポイント
女王や王族が人種差別的な発言をするとは思えない。というのも現在の王室メンバーは人種差別とは最も遠い存在だから
王室が果たしてきた大きな役割を知る国民にしてみれば、2人の王室離脱は「公務の放棄」に見えた。だからこそ、夫妻へのバッシングが起きている

王室内の差別の告白

「妊娠期間中、子どもの肌の色がどれくらい濃くなるのかという懸念や会話がありました」

「もう生きていたくなかった。はっきりそう思ったし、恐ろしいほどその思いは消えませんでした」

3月7日、アメリカのCBSテレビで、ハリー王子とメーガン夫人の2時間に及ぶインタビューが放送され、アメリカで1710万人、翌8日にはイギリスでも1130万もの人が視聴しました。

焦点となったのは、冒頭に引用した、生まれてくる子の「肌の色」をめぐる王室内の差別の告白です。

番組で夫妻のインタビュアーを務めたオプラ・ウィンフリーは、“黒人史上初めての億万長者”の異名を持つ国民的司会者です。2008年の米大統領選では、オバマへの熱烈な支持を表明し、その後のオバマ旋風のきっかけを作りました。いわばアメリカで最も影響力のある司会者です。

しかも、アメリカは昨年起こったブラック・ライブズ・マター運動の余韻が残るさなかです。英王室が「肌の色の濃さ」を懸念したというショッキングな告白は、センセーショナルに報じられました。

時に涙ぐみながら語るメーガン夫人の「告白」のインパクトは大きく、テニス選手のセリーナ・ウィリアムズや、歌手のビヨンセなど非白人系セレブが夫人への支持を次々に表明し、SNSでは「#君主制廃止」という言葉がトレンド入りしました。

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衝撃的だったインタビュー番組

放送日にこめられた意図

エリザベス女王の反応は迅速でした。放送から2日後に声明を出し、〈ハリーとメーガンにとってどれだけ困難な数年間だったか〉と寄り添う気持ちを表明したうえで、〈記憶と異なる点はあるかもしれないが、深刻に受け止め、家族で対処していく〉と発表したのです。

ただ、注意すべきは、〈記憶と異なる点はあるかもしれない〉という表現です。事実関係については反論の用意があることをにじませています。ウィリアム王子は、もっとはっきりと「私たちは人種差別的家族では全くない」と断言し、弟のハリー王子夫妻の発言を全否定しました。

これは極めて珍しいことです。番組内でメーガン夫人は、結婚式の衣装をめぐってキャサリン妃とのあいだで問題が生じたことを認め、世間で言われているように自分がキャサリン妃を泣かせたのではなく、「泣いてしまったのは私」という告白もあったので、ウィリアム王子は憤りを感じたのでしょう。

番組の放送日も、視聴者の関心を集める要因となりました。イギリスの放映日である3月8日は、英王室が大切にするコモンウェルス・デーだったのです。この日は、戦後も長らく続いたイギリスを頂点とする英連邦(British Commonwealth)という枠組みが廃止された後、加盟国すべてが対等の立場となりゆるやかな連合体に生まれ変わったことを記念した日でした。

現在54カ国で構成され、インドやアフリカ、そしてカリブ海諸国など、非白人系の国々が数多く加盟しており、肌の色や宗教、文化の違いを超えた自由な連合体です。女王はこのコモンウェルスの象徴でもあります。

ハリー王子は結婚した2018年から、この「コモンウェルス青年フォーラム」の代表を務めていました。女王がコモンウェルスの未来のために新しい世代の声を生かしてほしいと、ハリー王子に大役を与えたのです。ですからハリー王子夫妻も、この日が英王室にとって重要な日であることはわかっていた。わかっていてぶつけてきたのです。

番組では、ハリー王子夫妻が王室や家族、そしてメディアを挑発するような発言が繰り返された。

〈王室が私たちについてのデマを延々と流すことに積極的に関わっている場合、私たちが黙っているとでも思ったのかしら?〉(メーガン夫人)

〈父も兄も、(英王室に)囚われているんです。彼らはそこから出ることもできません。そのことをとてもかわいそうだと思っています〉(ハリー王子)

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まもなく95歳のエリザベス女王

女王は「猶予」を与えた

この番組が放映される前に何が起きていたか。これが今回の「告白」を読み解くポイントです。

約半月前の2月19日、バッキンガム宮殿は、ハリー王子とメーガン夫人が、王室メンバーとして復帰しないことを女王に確約したと発表しました。昨年1月、王室離脱が大きな話題になりましたが、あれはあくまで仮決定で正式決定ではなかったのです。ハリー王子が若気の至りでカッとした可能性もあるだろうと考え、1年間の猶予を与えたのです。

ハリー王子は、ラスベガスで全裸になったり、パパラッチと乱闘騒ぎを起こしたりした“問題児”ですが、祖母にしてみればハラハラさせる孫ほどかわいいこともある(笑)。アフガニスタンに従軍してノブレス・オブリージュを果たした点は高く評価していました。それで2人が考え直すのなら認めると温情を示していたのです。

しかし2人が王室を離れる決断をしたので、2月の発表では、仮決定の通り「ロイヤル・ハイネス(殿下・妃殿下)」の称号の使用は認めないこと、ハリー王子が担っていた軍、連邦、慈善団体の役職や公務のほとんどは女王に返上されることが決まりました。

女王は果断です。一線を越えたら容赦はありません。2人は、まさかぜんぶ剥奪されるとは思わなかったでしょう。実は、インタビュー番組の収録は声明の発表前に行われています。私は、収録前後に夫妻と王室が水面下で様々な交渉をしていたとしても不思議はないと思います。収録のことも、女王の耳には入っていたはずです。

私も夫妻のインタビューを見ましたが、メーガン夫人の告白から王室を批判することは危ういと思いました。第一、問題の発言を誰がしたのか、はっきりしないのです。メーガン夫人は、「ハリーから聞いた話です。それは家族が彼と交わした会話です」としていますが、発言をしたのは女王なのか王族なのか。もしかすると宮廷官僚のような側近の発言が話題に出ただけかもしれない。ハウスホールド(宮廷)と、ロイヤルファミリー(王族)は似て非なるものです。発言者を明示しなかったために、王室メンバー全員が疑われることになってしまいました。

しかし女王や王族が人種差別的な発言をするとは思えません。というのも現在の王室メンバーは人種差別とは最も遠い存在だからです。

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バッキンガム宮殿

発言者は誰なのか

評伝『エリザベス女王』(中公新書)を書くにあたって、私はウィンザー城ラウンドタワーの頂上にあるイギリス王室文書館に通い、閲覧が許されている、ありとあらゆる史料に目を通しました。

1952年、25歳にして英国君主に即位したエリザベス女王は、翌年に「コモンウェルス(旧英連邦)の首長」に就任し、肌の色や宗教、「人種偏見のない(カラーブラインド)」態度で、世界各地の首脳や人々に平等に接し、その務めを果たしてきました。特に、南アフリカのアパルトヘイト廃絶に女王が大きく貢献したことは、ドラマ「ザ・クラウン」などでイギリス国民の多くが知る事実です。

番組の翌日、オプラがハリー王子から聞いた話として、「肌の色」に関する会話にエリザベス女王夫妻は関与していないと明言しましたが、女王の名代としてコモンウェルスの加盟国を巡回しているチャールズ皇太子夫妻、ウィリアム王子夫妻も、そのような差別的な発言をするとは考えられません。

もし、王族の一員で差別的な発言をする可能性があるとすれば――唯一、思い浮かんだのは、女王のいとこにあたるケント公爵家のマイケル王子に嫁いだマリー=クリスティーヌ夫人です。彼女はメーガンが初めてロイヤルファミリーに紹介される日の食事会で黒人をモチーフにしたブローチを身に着けて批判を浴びました。過去にも、彼女のものとされる発言で物議を醸しました。もっとも、彼女に人種差別的な意識があるかどうかはわかりません。

王族ではなく、宮廷官僚や王室スタッフによる発言だった可能性もあります。折しもメーガン夫人は、身の回りの世話をする王室スタッフとの確執が取りざたされていました。今回のインタビューが放映されるわずか5日前に、英「タイムズ」が2018年にスタッフ2人が辞職したのはメーガン妃によるイジメが原因だったことを報じ、王室が本格的な調査に乗り出しています。

ハリー王子夫妻は事実を否定しているものの、その後の英大衆紙の報道によれば、調査に協力したいと名乗り出た王室スタッフは10人以上。身の回りを世話するスタッフは縁故採用も多く貴族階級出身者もいます。大勢いるスタッフのなかに差別意識のある人間がいてもおかしくはありません。

序列をつけるのは当然

メーガン夫人はインタビューの中で、「子どもに王子や王女の称号をつけられない」と言われたこと、警護が受けられなかったことに不満を述べていますが、これらはすべて法律で決まっていることで、「肌の色」とは全く関係ありません。

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