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元日本テレビプロデューサー・坂田信久「敗者への讃歌」
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元日本テレビプロデューサー・坂田信久「敗者への讃歌」

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文・坂田信久(元日本テレビプロデューサー)
うつ向くなよ
ふり向くなよ
君は美しい
戦いに敗れても
君は美しい
(「ふり向くな君は美しい」作詞・阿久悠、作曲・三木たかし)

この1月、第100回となった全国高校サッカー選手権大会決勝戦が行われた。勝者は青森山田だが、敗れた大津(熊本)のイレブンも最後まで諦めず走り続けた。故・阿久悠さんが編んだ大会のテーマ曲は、彼ら敗者へ贈る讃歌だ。

この名曲の誕生には、日本テレビで番組を最初に立ち上げた私も少し関わりがある。

日本テレビが全国高校選手権の放送権を日本サッカー協会と契約したのは1970年のことだ。その5年前の日本サッカーリーグ発足以降、68年のメキシコ五輪で銅メダル獲得、69年の読売サッカークラブ創設……と競技人気が高まる機運はあった。

クラブ創設は正力松太郎・読売新聞社主の決断だが、引き金になったのは協会の野津謙会長からの「W杯を目指すためにプロクラブを」という進言だ。そしてその野津さんを読売新聞社に連れていったのは、読売新聞運動部記者と、私の上司と、この私だ。

富山中部高校時代、選手権に2度出場し、東京教育大学(現筑波大)でもプレーした後に入局した私は、サッカーを盛んにしたい一心だった。

プロ選手の供給源を強化する――選手権の放送権獲得に向けた企画書は、1センチほどの厚さに膨らんだ。

何とか局内やサッカー協会を説得して独占中継を始めたものの、当初、注目はいま一つ。当時は関西で開催されていたが、スタンドの観客は数100人に止まっていた。

転機は開催地を首都圏に移転した76年度の55回大会だった。その後、決勝が行われる国立競技場は「聖地」になり、決勝は満員になった。人気を後押しする力になった一つは、この時に刷新したテーマ曲である。

お願いに上がった日、阿久さんから「この中継で一番大切にしていることは?」と問われた私は、「敗者の映像」のことを話した。

英雄は勝者だ。拳を突き上げる主将やベンチに駆け寄る選手たち。祝福のカットだが、それだけでは熱量が伝わらない。短くとも敗者のカットが不可欠になる。呆然と立ち尽くす、静かに肩を震わせる――それらがあって初めて、中継は視る者の心をつかむ。

聞いていた阿久さんが一言。「大会では1チームを除いてみんな負けますね」。あたり前と言われればそれまでだが、考えたこともなかった。

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