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「ポストコロナの未来年表」2050年の日本はどうなっているのか

文・河合雅司(ジャーナリスト・人口減少対策総合研究所理事長)

▶セックスレス進行で少子化に拍車
▶高齢者消費が急減
▶「24時間営業」の終焉
▶外国人労働者はもう日本に来ない

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河合氏

コロナ禍で出生数の減少が加速

コロナ禍は、日本社会にかねて存在していた課題を浮き彫りにし、より切迫した状況にしました。中でも深刻なのは、出生数の減少が加速したことです。これは、いずれ日本の致命傷となりかねません。

出生数の減少が加速すれば、将来の労働力と消費力を想定以上に減らし、日本の国力をより縮小させるからです。人口減少対策のための残り時間はかなり奪い去られました。

人口が想定より速く減っていくこととなった日本はこの先どうなるのでしょうか。我々は状況の悪化にどう対処すべきなのでしょうか。「コロナ後」に起きることをデータを基に見てみましょう。

厚生労働省の「人口動態統計月報(概数)」によれば、2020年の出生数は84万人程度となる見通しです。2019年に想定より早く90万人を割り込み、政府は「86万ショック」と表現しましたが、過去最少の更新は確実です。

しかも、これはコロナ禍の影響ではありません。2020年に生まれた赤ちゃんの大半は、コロナ禍前の2019年中に宿った命だからです。

コロナ禍の影響が表れるのは今年です。昨年5月から12月の妊娠届け出件数は、前年同期比で7.0%減でした。

コロナ禍でセックスレスが進行していたのです。日本家族計画協会が厚労省の事業として実施した調査によれば、1回目の緊急事態宣言が発令された前後にあたる昨年3月下旬から5月下旬の性交渉の頻度は「しなかった」が最多で49.8%。男性は39.5%で、女性は59.8%でした。「増えた」は3.3%で、「変わらなかった」が39%。「減った」が7.9%でした。

“巣ごもり”で子どもが増えるのではないかという楽観的な予測は、完全に外れたのです。

昨年は婚姻件数も前年に比べて1割以上も減る見通しです。2021年の出生数は墜落するように下落し、75万人程度まで減る可能性があります。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は、出生数が75万人となる時期を2039年と推計していますが、もし18年も早い到達が現実のものとなれば、2021年は「ベビーショック元年」として歴史に刻まれることでしょう。

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日本の少子化は止まらない

出生数の下落は今年に入っても続いています。人口動態統計速報によれば、1~3月は前年同期比で9.2%減です。仮にこんなペースで下落が続けば、2022年の出生数は一気に60万人台に突入することが視野に入ってきます。

少子化を示す指標に、合計特殊出生率があります。「1人の女性が生涯に産む子供数の推計値」のことで、2019年は1.36でした。人口を維持するためには2.07が必要とされ、政府は1.8へ引き上げることを目指しています。

しかしながら、合計特殊出生率が多少改善しても、出生数は増えません。出産期の女性の人数が激減していくからです。

一昨年、出産した女性の85%が25歳から39歳でした。総務省によれば、昨年はこの年齢層の女性は990万人でした。一方、社人研の推計では2040年に814万人に減り、2060年には638万人です。2020年に比べて35.6%もの減少です。

多くは40代で出産を終えますが、昨年は50歳以上の女性の数が、49歳以下より多くなりました。「未来の母親」が減り続ける以上、少子化は止めようがありません。

さらに、未婚化、晩婚・晩産化が出生数を減らします。しかしながら日本の少子化対策といえば、待機児童の削減や、不妊治療にかかる費用の公費助成の拡充といったものです。それはそれで大切ですが、本質的な解決策とは次元の違う政策です。

出生数の減少が深刻なのは、将来にわたり、広範に影響が及ぶからです。生まれた赤ちゃんたちは20年もすると働き手になり、消費者になり、子どもを産む側に回りますが、その人数がずっと減り続けるのです。

図表

出産期(25~39歳)の女性人口の予測
※2015年、2020年は総務省統計局「人口推計」の実績値
※2025年以降は国立社会保障・人口問題研究所
「日本の将来推計人口」(2017年)の予測値

縮小する高齢者市場

少子化の加速は、国内マーケットの縮小の加速を意味します。それは内需中心の日本経済にとっては大きなダメージとなります。

GDPにおける輸出依存度と輸入依存度を合計した数字を「貿易依存度」と呼びます。この数字が高いほど海外マーケットが重要で、低いほど内需の割合が高いわけです。国際通貨基金の「世界の統計」(2020年)によると、日本の輸出依存度は14.4%で、輸入依存度は13.8%。合計した28.2%が貿易依存度です。ちなみに韓国は64.7%、中国は34.2%です。

トヨタ自動車など海外展開する一部の大企業があるため、日本は加工貿易国のようなイメージがありますが、圧倒的に国内で利益を上げている企業が多いのです。

少子化の加速に伴う国内マーケットの縮小には20年ほどタイムラグがありますが、コロナ禍は目先の内需も縮小させました。高齢者の消費マインドを冷え込ませたことです。

重症化リスクが高い高齢者の中には、過度に警戒心を抱き、極端に外出を控えた人が少なくありません。近所のスーパーへ買い物に行く回数を減らし、通院まで控えるケースも見られました。感染を恐れて仕事を辞めたり、業績悪化で雇用を打ち切られたりした人もいます。

外出機会が減り、可処分所得が少なくなれば、消費を控えるのは当然です。現状の高齢者人口は3600万人ですが、平均で消費が1割減ったならば、消費者が360万人少なくなるのと同じです。

そもそも、人口が同じでも、若者が中心の国と「年老いた国」とでは、実質的なマーケットの規模は違います。高齢者は若者ほど大きな買い物をしないからです。

日本の国内マーケットは、人口減少で縮小するだけでなく、1人当たりの消費額も減るという「ダブルの縮小」に見舞われるのです。

2024年には団塊世代のすべてが75歳を超え、2042年にピークを迎えるまで高齢者数は増え続けます。この間、見た目の人口減少よりも早くマーケットが縮んで行くということです。

高齢社会というと、社会保障費の増大ばかりが注目されますが、マーケットの「ダブルの縮小」のほうがはるかに深刻な問題なのです。

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認知症患者の増加懸念も

コロナ禍が高齢社会にもたらした弊害は、これにとどまりません。高齢者の過度な外出自粛は介護の現場を著しく疲弊させました。

東京商工リサーチの調べによれば、2020年の「老人福祉・介護事業」の倒産、及び休廃業と解散の件数は、過去最多を記録しました。コロナ禍前から綱渡りで運営されてきた介護事業者は、感染拡大に伴う人手不足と利用控えによって経営体力を奪われてしまったのです。

感染収束後に再び介護サービスを利用したいと思っても、通い慣れた事業所が倒産してしまったのでは“介護難民”となりかねません。結果として、多くの高齢者が要介護度を悪化させる恐れがあります。

そうでなくとも、必要な医療や介護サービスを受けられなくなると、思わぬ状態の悪化を招きます。その代表例が身体機能の低下です。

加齢によって心身が衰える状態をフレイルと言いますが、昨年から「コロナフレイル」が心配されるようになりました。感染を恐れて極端に外出が減った高齢者は、運動不足や他者とのコミュニケーション欠如に陥ります。そのため、新たな健康被害が生まれているのです。

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