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安倍政権下で肥大化した「内閣府」と「内閣官房」|森功

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※本連載は第9回です。最初から読む方はこちら。

 安倍一強政権を象徴する表現として、しばしば「官邸主導」という言葉が使われる。首相官邸がアメリカのホワイトハウスのような強大な機能を発揮し、国の政策を率いていく――。政治主導とも呼ばれる政策推進は、霞が関支配による縦割行政の打破を目指してきたはずだ。しかし官邸主導の実際はそれとはほど遠い。そば用人たちが官邸の主に知恵を授け、独断で物事を進めている。

 その官邸主導の政治が暴走すると、奥の院の実情が見えにくくなり、厄介このうえない。モリカケ騒動に続き、首相自ら主宰する「桜を見る会」の公私混同ぶり……。「総理の意向」という号令の下、他の官僚たちは異論を差し挟む余地なく、従わざるをえない。第二次安倍政権の発足から7年を超えたこの間、国会で見せてきた官僚たちのみっともない姿は自業自得ととらえるムキもある半面、哀しくもある。

 そんな安倍政権における特徴として、内閣府と内閣官房の肥大化を問題視する霞が関の官僚たちが少なくない。桜を見る会を所管し、招待者リストを破棄したとして国会でやり玉に挙げられたのは記憶に新しいところだろう。内閣府と内閣官房はともに政府の行政機関であり、首相の膝元という点ではよく似ているが、組織上の位置づけがやや異なる。まず内閣府は組織概要についてホームページでこう記す。

<内閣府には、内閣総理大臣、内閣官房長官の他に、内閣の重要政策に関する企画立案・総合調整を強力かつ迅速に行うため、特命担当大臣が置かれています。
 特命担当大臣は、安倍内閣総理大臣のリーダーシップを発揮できるよう補佐するため、国政上の重要政策に関する企画立案・総合調整等を強力かつ迅速に行うため、内閣府に限って置かれています>

 内閣府では首相の安倍晋三が組織上のトップで、官房長官の菅義偉がナンバー2、その下に特命担当大臣がぶら下がっている。たとえば金融担当の特命大臣が麻生太郎、地方創生担当が北村誠吾、科学技術政策が竹本直一、原子力防災担当が小泉進次郎といった具合である。一方、内閣官房HPはこう書く。

<内閣官房は、内閣の補助機関であるとともに、内閣の首長たる内閣総理大臣を直接に補佐・支援する機関です。
 具体的には、内閣の庶務、内閣の重要政策の企画立案・総合調整、情報の収集調査などを担っています>

 内閣官房は各省庁を束ねる20人の国務大臣から構成される内閣の中に置かれている直轄部隊であり、官邸そのものといえる。組織上のトップは官房長官で、その下に国会議員2人と官僚出身1人の官房副長官がつき、さらに国家安全保障局長や内閣危機管理監、内閣情報官、さらに首相補佐官や首相秘書官といった首相の側近たちが控える。

 従来の内閣官房は、霞が関のそれぞれの官庁がエリート官僚を送り込み、首相の政策に影響力を行使してきた。だが、安倍政権では半ば古巣の官庁から外れた官僚たちが主流を占める。彼らはかつてお友だちと呼ばれた。その彼らに官邸官僚という新たな異称をつけたところ、それが定着している感もある。官邸官僚たちが首相に囁き、自らの政策を実現させている。

 その官邸官僚たちの手足となって動いているのが、内閣官房と内閣府の役人たちだ。たとえば内閣官房には内閣人事局や国土強靭化推進室といった霞が関人事や目玉政策を推し進める組織を置いている。組織上、内閣府と内閣官房は異なるとはいえ、内閣府は内閣官房を助けて内閣の重要政策に関する企画・調整をおこなう。桜を見る会のように事務方の仕事はかなりオーバーラップしている。内閣府の官僚が話した。

「第二次安倍政権になってから内閣府には、異なる省庁の横串を通していっしょに仕事をやらせると称し、職員を出向させて働かせています。加計学園問題で有名になった『国家戦略特別区域諮問会議』のほか、たとえば『総合科学技術・イノベーション会議』や『子ども・子育て本部』、『少子化社会対策会議』なんて、本部や会議、室という名称の新たな部署がやたら多くできた。それらは総理自ら進める行政と位置付けられていますが、その実、官邸官僚たちが発案して部署を立ちあげている。それらの新設部署はどこの省庁も引き受けたがらないので、結局それが内閣府に置かれてきたのです」

 内閣府や内閣官房の部署は、表向き首相の政策の事務方実行部隊として位置づけられているが、官邸官僚たちの指揮で動いている。

「でも、実際のところ、そこでは所管の省庁の人たちが出向して古巣と併任して仕事をこなすしかない。おまけに、内閣府や内閣官房には他の省庁の人たちも集まっている。したがって省庁間の調整が必要なのだけど、官邸官僚たちがそれをやってもそうそううまくいくはずがありません。規制改革の部署だと20人くらいの人員の7割が寄せ集めで、足りない部分は民間から来てもらっています。それではなかなか意見がまとまらない」

 結果、問題になったのが桜を見る会であり、新型ウイルスなどの感染症研究を担ってきた「健康・医療戦略室」なのだという。(以下次号)

(連載第9回)
★第10回を読む。

■森功(もり・いさお)  
1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身。08年に「ヤメ検――司法に巣喰う生態系の研究」で、09年に「同和と銀行――三菱東京UFJの闇」で、2年連続「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。18年『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』、『なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか 見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間』、『平成経済事件の怪物たち』、『腐った翼 JAL65年の浮沈』、『総理の影 菅義偉の正体』、『日本の暗黒事件』、『高倉健 七つの顔を隠し続けた男』、『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』、『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』など多数。
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